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第206号(2009.03.05発行)

第206号(2009.03.05 発行)

日本の大陸棚の延長申請について

[KEYWORDS] 国連海洋法条約/大陸棚調査/総合海洋政策本部
内閣官房総合海洋政策本部事務局 参事官◆谷 伸

わが国の大陸棚延長のための調査が終了し、総合海洋政策本部で延長大陸棚の申請範囲が決定され、平成20年11月12日に申請書類を「大陸棚の限界に関する委員会」に提出した。
本年3月以降、委員会での審査が開始される。

1.これまでの歩み

■表1 わが国が大陸棚申請に至るまで

国連海洋法条約(以下「条約」)に規定される大陸棚は、海底及び海底下の探査及び天然資源の開発に関する主権的権利を沿岸国が有する海域を言う。その範囲は領土の自然延長をたどって大陸縁辺部の外縁までであるが、これが領海基線から200海里に至らない場合には200海里までが大陸棚となる。大陸縁辺部の外縁の設定方法等については条約第76条に規定されている※1。
わが国が条約に署名した1983年から、大陸棚調査のために新造した大型測量船「拓洋」を用いて海上保安庁が調査を開始し、その成果に基づき2004年からは政府一丸となって集中的な調査を計画的に実施した。2008年6月に計画通り完了した調査の成果は、専門家集団が精力的に解析し、極めて複雑な地形および地質を有するわが国周辺の海底において自然延長がどこまで続いているかについての詳細かつ厳密な検討を行った(表1参照)。計画当初から最終段階まで「大陸棚調査評価・助言会議」の評価と助言を得ながら検討した延長大陸棚※2の申請※3範囲案が平成20年10月31日に総合海洋政策本部で承認・決定され、直ちに申請書類を、国連事務局を経由して「大陸棚の限界に関する委員会」(以下「委員会」)に提出した。
申請書類は、概要版(委員会の全体会合で配布。国連のホームページで公開)、主文書(小委員会での審査用。延長する各点ごとに科学的な説明をしたもの。非公開)及び参考データ(小委員会での審査用。地形、地質等、申請の裏付けとなるデータ、図等。非公開)の三部からなる。申請に必要な冊数(それぞれ22冊、8冊、2セット)全体の重量は150kgに達した。

2.申請内容

■図1 委員会に情報を提出した7海域の延長大陸棚
■図1 委員会に情報を提出した7海域の延長大陸棚
赤紫色とオレンジ色の網掛け部分=延長大陸棚
オレンジ色=他国の排他的経済水域と接するもの
赤線=わが国の200海里線 青線=他国との中間線
緑線=他国の200海里線

申請内容は概要版(総合海洋政策本部のウェブページ※4からダウンロード可能)をご覧いただくのがよいが、ごく簡単に解説する(図1参照)。申請した延長大陸棚は7海域ある。南鳥島を基点※5とする「南鳥島海域」と小笠原群島を基点とする「小笠原海台海域」は一部が重なっており、また南西側が米国の排他的経済水域と接している。八丈島を基点とする「茂木海山海域」は幅2km程度の狭い海域であり、図1では表現しきれないので概位を白丸で示した。「南硫黄島海域」は東側が米国の排他的経済水域と接している。「四国海盆海域」の基点は伊豆諸島の鳥島、北大東島、沖大東島、沖ノ鳥島である。「沖大東海嶺南方海域」は沖大東島を基点とし、沖ノ鳥島からは南方に「九州パラオ海嶺南部海域」がパラオおよびミクロネシア連邦の排他的経済水域まで延びている。わが国の延長大陸棚が他国の延長大陸棚と重複する場合には、当該国と境界について協議する必要がある。図1でオレンジ色の網掛けにより示した延長大陸棚は、向かい合っている国の排他的経済水域と接しており、これらの国が大陸棚を延長する可能性があるため、わが国の申請通り委員会に延長を認められたとしても、最終的な延長大陸棚の範囲は相手国との調整を待つ必要がある。

3.審査

■表2 委員会での審査の状況

本年3月の委員会会合において、わが国は、申請内容について口頭説明(プレゼンテーション)を行う。その後申請内容に応じた専門性および地域バランスを考慮した7名の委員からなる小委員会が構成される。小委員会は原則として同時には3つしか稼働しないこととされている※6が、現在4つの小委員会が審査を行っている(表2参照)。このため、わが国以前に申請を行い、既に委員会に口頭説明を行ったバルバドスとイギリスの申請を審査する小委員会は未だ設置に至っていない。またインドネシアの申請を審査するための小委員会がわが国のものより先に設置される。このため、少なくとも現在審査中の4つの小委員会全てが勧告案を完成させるまでは、わが国の申請の審査を担当する小委員会は設置されないことになり、設置時期は早くても本年夏の委員会会合ではないかと考えられる。小委員会での審査は、通例2~3年掛かっており、小委員会が勧告案を完成させた後、全体会合での審議に少なくとも半年必要となるため※7、わが国への勧告の発出は、小委員会で審査が開始されてから3~4年後と見込まれる。
小委員会は、申請内容が条約の規定に適合しているか否かを、委員会が作成した「科学的・技術的ガイドライン」※8に基づいて審査する。審査は申請文書のすべてにわたって行われるが、特に大陸縁辺部の外縁を設定する際に使用する大陸斜面脚部の位置、大陸棚の外側の限界線を決定する際の判断基準となる海底の高まりの種類などが主要な論点となっているようである。

4.おわりに

わが国の海底は、北部大西洋の海底を想定して策定された延長大陸棚に関する条約の規定を適用することが極めて困難な形状及び性状をしている。このため、大陸棚延長を説明するのにどのようなデータが必要かは、当初全く明らかではなかった。このような状況の中で予算措置をし、計画的に調査を進めることがどれほど困難なことかは、役所のシステムをご存知の方にはご理解いただけようか。海上保安庁による21年間に及ぶこのような苦労を経て、大陸棚延長の可能性が見え、これを受けて、わが国初めてと言える各省一丸となった4年半の集中的な海域調査及び各省の専門家による3年半の申請書類作成が行われた。
申請書の提出をもって大陸棚延長のための一つのステップがようやく完了したが、今後、勧告を得るまでの間、これまでにも増して神経をすり減らす日々が続くのである。(了)

※1 規定の概要は、本誌第33号(2001年12月発行)、または「大陸棚の延長とは何か?」https://www.spf.org/tairikudana/ を参照ください。
※2 本稿では、200海里を超える大陸棚を「延長大陸棚」と記す。
※3 条約の規定によれば、延長大陸棚について沿岸国が委員会に「申請」をし、その「許可」があれば延長大陸棚が設定できる、のではなく、委員会に「情報を提出」し、その「勧告」に基づいて設定した延長大陸棚は最終的で拘束力を有する、のである。委員会が「許可」を出すわけではないので、「申請」という言い方は正確ではないが、本稿では、便宜上、「申請」という表現を使う。
※5 本稿では、「領土の自然延長をたどって」の意味での領土を「基点」と記す。
※6 Rules of Procedure of the Commission on the Limits of the Continental Shelf (CLCS/40/Rev.1) Rule 51 4 bis
※7 Rules of Procedure of the Commission on the Limits of the Continental Shelf (CLCS/40/Rev.1) Rule 53 1
※8 Scientific and Technical Guidelines of the Commission on the Limits of the Continental Shelf (CLCS/11)

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