2020年9月3日、笹川平和財団海洋政策研究所は日本財団、エコノミスト・グループとの共催で、「海洋基盤を通じた経済再生と海洋政策対話に向けた展望」と題したウェビナーを開催しました。2020年は海洋、さらに密接に連携している生物多様性や気候変動の課題が集中的にハイレベルな国際会議において議論される特別年「スーパーイヤー」と当初位置付けられ、多くの課題に対して合意形成などの進展が期待されていました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大により各種会合が延期となり、「スーパーイヤー」が事実上来年に延期されました。こうした理由から、「ブルーリカバリーシリーズ」の第3回目(最終回)となったウェビナーでは、海洋問題に関する国際的な政策に関し牽引的な役割を担うリーダーが集まり、来年開催予定の重要な海洋関連会議に向けた展望について意見を述べ合い、実りある成果の実現に向け議論しました。海洋関連会議は具体的には来年ポルトガルのリスボンで開催が予定されている「第2回国連海洋会議」、今年12月にパラオで開催が予定されている「私たちの海洋会議(Our Ocean Conference)」、この他「第26回気候変動枠組条約締約国会議」(UNFCCC COP26、来年・英国・グラスゴー)、「第15回生物多様性締約国会議(CBD COP15、中国・昆明)」などです。
冒頭、笹川平和財団の角南篤理事長(兼海洋政策研究所長)と、エコノミストのアジア太平洋編集主幹チャールズ・ゴッダード氏は、過去2回のウェビナーで展開されたアジア太平洋における海洋を基盤とする力強い経済再生(ブルーリカバリー)、そして再生に重要な科学とイノベーションに関する議論を振り返るとともに、最終回のウェビナーを通じて、来年行われる海洋関連会議の関係者が積極的に意見を交換することに期待を示しました。
基調講演パネルでは衛藤晟一海洋政策担当大臣(会議開催時)に加え、ポルトガル海洋大臣のリカルド・セラン・サントス氏、国連事務総長海洋特使をつとめるピーター・トムソン氏が順番に登壇しました。
衛藤氏は、日本政府の海洋政策に関する基本的な体制や、海洋国家として直面する安全保障、海洋環境、海洋プラスチックに関する課題を紹介しました。また、新型コロナウイルス感染拡大による世界経済への打撃を受け、「国際的なブルーリカバリー推進の動きに日本の海洋大臣として賛同する」と言及。国際レベルの取り組みについて日本、パラオ、ポルトガルを含む14カ国が加盟している「持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネル」の首脳による政策提言が作成されており、今後開催予定の私たちの海洋会議などの重要な海洋関連会議の開催を通じて持続可能な海洋の実現に向けた国際協力の進展に期待を示しました。
サントス氏はポルトガルが新型コロナウイルス感染拡大によって、特に沿岸部での観光業や海産物の輸出が大きな経済的打撃を受けていることから、ブルーリカバリーに重点をおいて経済の回復を目指すことに期待しました。また、ポルトガルは来年開催予定の第2回国連海洋会議をはじめとする多くの海洋関連会議開催や、政府間イニシアチブを担当していることから、関係省庁における準備体制を強化し着実に準備を進めていることを表明しました。
トムソン氏は、昨年の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第51回総会で採択された「海洋・雪氷圏に関する特別報告書」の内容に触れ、「今、行動を取らなければ手遅れになる」と危機感を示しました。また気候、海洋、生物多様性は密接に連携していることを再度、参加者に呼びかけ、海洋の課題解決に向けても、こうした相互関連性を踏まえた統合的アプローチが必要になると指摘。長期的な視点で見れば、「コロナ禍よりも地球の気候変動危機(クライメイト・クライシス)の方が重要な課題である」とし、感染拡大が進むなかでも、気候変動に対する国際社会の関心や行動を高めていく必要性を強調しました。
後半のハイレベル・パネルではシンガポール、パラオ、ポルトガル、日本での官民機関における海洋関係のリーダーの視点から、来年の「スーパーイヤー」に向けての取り組みについて議論が行われました。
東京大学グローバル・コモンズ・センター所長の石井菜穂子氏は、気候変動、生物多様性の喪失、海洋問題や新型コロナウイルス拡大が全て同じ根本的原因から発生しているとの考えを示しました。「経済的、社会的システムが生態系と拮抗している」ことから、世界が全体的に一時停止している状況の下で、根本的な解決策を考え出すために現在のシステムの脆弱性を再考する格好の機会でもあると言及しました。
「国家管轄権外区域の海洋生物多様性」(BBNJ)に関する法的拘束力のある文書の策定に向けた議論が、コロナ禍により事実上、中断していることについて、BBNJ政府間会議議長をつとめるレナ・リー氏(シンガポール外務省海洋・海洋法大使・特使)は「関係国はこの一時停止を問題のより良く理解や連携者とのコミュニケーションを改善する重要な機会を与えてくれたと捉えている」と述べ、「議論の進展に向けた関係者の意気込みを維持していくことが大事だ」との見解を示しました。また、パラオ共和国国連大使のオライ・ウルドング氏は、「私たちの海洋会議」が今年12月にパラオで開催される予定であると表明。会議の焦点となる参加国・機関からの「コミットメント」(自主的約束)の受付を開始する予定であることを表明し、今後多くのコミットメントが提出されることに期待を示しました。
ポルトガルにあるオセアノ・アズール財団で理事長を務めるティアゴ・ピタ・エ・クンハ氏は、政府、企業、NGO、国際機関等を含む、幅広い声を取り込むための多様なステークホルダーの対話の場をさらに強化していくことが必要であると指摘しました。その中で、昨年立ち上がった、世界各国の財団や非政府組織(NGO)などの民間団体で構成されている「ライズ・アップ・ブルー・コール・トゥ・アクション / RISE UP Blue Call to Action(奮起せよ:海洋のための行動の呼びかけ)」イニシアチブ(*)を紹介し、来年に向けて、海洋コミュニティにおける市民社会組織の連携をさらに強化していくことが必要であると言及。最後に、角南理事長は「国連海洋科学の10年」が来年始まることに触れ、海洋に関する科学と政策の融合性の重要性を強調しました。スーパーイヤーに「各国首脳が持続可能な海洋に向けた国際協力推進のための機運をたかめていくことが大事である」とコメントしました。持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネルにおける日本政府の活動について言及し、来年に向けて政府首脳に加え、民間レベルでもこのようなプラットフォーム体制を構築、強化することを意識して行動していく必要性があると締めくくりました。
*RISE UP Blue Call to Actionイニシアチブでは、第2回国連海洋会議に向けて、各国のNGOや財団などの民間団体が持続可能な海洋の管理を実現するために必要な目標と具体的な行動を政策提言としてまとめ、その実現に向け幅広い支持を求めています。笹川平和財団海洋政策研究所もその作成に関わり、主要メンバーとして参加しています。詳細については、以下のリンクよりご覧ください。
RISE UP Blue Call to Action登壇者一覧
衛藤 晟一 海洋政策担当大臣
リカルド・セラン・サントス ポルトガル海洋大臣
ピーター・トムソン 国連事務総長海洋特使
レナ・リー氏(国家管轄権外区域海洋生物多様性協定政府間会議議長・シンガポール外務省海洋・海洋法大使・特使)
オライ・ウルドング氏(パラオ共和国国連大使)
ティアゴ・ピタ・エ・クンハ氏(オセアノ・アズール財団理事長)
石井菜穂子氏(東京大学グローバル・コモンズ・センター所長)
角南篤(笹川平和財団理事長/海洋政策研究所所長)
※動画の日本語同時通訳については、
こちらからお聴きいただけます。
~参考情報~
①「ブルーリカバリーシリーズ」第1回目および第2回目のサマリー記事については、以下のリンクよりご覧ください。
「アジア太平洋における海洋を基盤とする力強い経済再生を目指して」
エコノミスト・グループ、日本財団とウェビナー共催
「ブルーリカバリーシリーズ」第1弾「科学、イノベーションと海洋基盤を通じた経済再生」
エコノミスト・グループ、日本財団とウェビナー共催
「ブルーリカバリーシリーズ」第2弾
②海洋政策研究所による詳細な開催報告については、以下のリンクよりご覧ください。
【開催報告】ウェビナー「アジア太平洋における海洋を基盤とする力強い経済再生を目指して」を開催しました【開催報告】小泉環境大臣等が「科学、イノベーションと海洋基盤を通じた経済再生」について熱論【開催報告】海洋政策大臣及びハイレベル講演者が、ブルー・リカバリーと今後の海洋政策の方向性について議論しました