笹川平和財団海洋政策研究所は2020年8月26日、日本財団、エコノミスト・グループとウェビナー「科学、イノベーションと海洋基盤を通じた経済再生」を開催いたしました。「ブルー・リカバリー(海洋を基盤とする経済再生)シリーズ」と題する3回にわたるウェビナーの2回目。科学・イノベーション・ファイナンスなどに焦点を当てた第1回ウェビナー「アジア太平洋における海洋を基盤とする力強い経済再生を目指して」(7月23日開催)での議論を、各国の有識者や専門家とさらに深めました。
冒頭の挨拶で、笹川平和財団の角南篤理事長(兼海洋政策研究所長)は、7月25日(現地時間)にモーリシャス共和国沿岸で貨物船「わかしお(WAKASHIO)」が座礁、船体損傷し、8月6日より燃料油が流出した事故に触れ、「モーリシャスがこの災害から復帰することに加え、同じような災害が再発することを防止するために、研究所としてもどのような支援や知識を提供できるかについて企画を立てている」と述べました(*)。また、ウェビナーを通して参加者の発想を活性化するとともに、持続可能な海洋を目指すなかで、ブルー・リカバリーを促進するためのパートナーシップの強化に役立つことにも期待しました。
続いて、小泉進次郎環境相が基調講演パネルに登壇しました。小泉環境相も先般のモーリシャス共和国における油流出事故について、「流出した油は広範囲に漂着しており、浄化作業への影響のみならず環境への影響も評価する必要性がある」と指摘。日本からも専門家を派遣し、海岸に流れ出た油の処理に携わる除去作業員の健康に関する助言や、生態学的影響の評価を行うことに加え、1万着の防護服なども提供することを表明しました。
また、海洋プラスチックごみの問題については、2019年のG20大阪サミットで日本が掲げた、海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が、既に86の国と地域に共有されていることや、今年7月から日本でのプラスチック製レジ袋が有料化されたことで、コンビニエンスストアにおける利用率が7割以上下がったことなどの成功事例を発表しました。その一方で、今後もより多くの国々が団結して海洋プラスチックごみに対する行動を取っていく必要があると指摘し、特に東南アジア諸国連合(ASEAN)各国のこの分野における対策を支援していく方針を表明しました。
最後に、2020年以降の生物多様性に関する世界的枠組の策定に向けて、「中国で来年開催が予定されている国連の生物多様性条約(CBD)の第15回締約国会議(COP15)に向け、政府および省内で準備を進めていきたい」と、日本政府も積極的に議論に参加していくことを示唆しました。
ウェビナーでは第1回に続いてエコノミストのアジア太平洋編集主幹、チャールズ・ゴッダード氏がモデレーターをつとめ、後半のハイレベルパネルでは官民の組織や機関からさまざまな専門家やリーダーが登壇しました。2021年に始まる「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」に向けて、さらなる海洋科学に関するデータの蓄積と情報システム改善の重要性、イノベーションを通しての持続可能な海洋経済の支援や、それを可能とする金融メカニズムなどのテーマを中心に議論が展開されました。
ハイレベルパネル 登壇者
ジェーミー・マクミシェル・フィリップ氏(Seabed2030プロジェクト部長)
アリオ・ハンゴノ氏(インドネシア海事漁業省海洋空間管理局長)
ニナ・ヤンセン氏(レブ・オーシャンCEO)
イングリッド・ヴァン・ウィース氏(アジア開発銀行ファイナンス・リスク管理担当副総裁)
出雲充氏(ユーグレナ 代表取締役社長)
ラム・ナタラジャン氏(執行取締役 メインストリーム再生可能な電力 アジア太平洋地域事務所)
*参考情報
①本ウェビナーの詳細については、エコノミストによる「世界海洋イニシアチブ(World Ocean Initiative)」のウェブサイトでも英文のサマリー記事をご覧いただけます。
Why science and innovation are crucial for a blue recovery
②本ウェビナーの日本語同時通訳については、
こちらからお聴きいただけます。
③角南理事長によるモーリシャスにおける油流出事故に関するメッセージについては、
こちらをご覧ください。