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第90号(2004.05.05発行)

第90号(2004.05.05 発行)

プレジャーボートの安全性・利便性向上に向けて

国土交通省海事局舶用工業課専門官◆大嶋孝友

日本国内においてプレジャーボートが広く普及するのに伴い、海難事故も増加傾向にある。「プレジャーボート安全利用情報システム構築検討委員会」では、プレジャーボート利用者の必要とする安全情報・利便情報を、利用者が必要とする状況において効果的に提供するためのシステムの枠組みについて検討を開始している。

1.プレジャーボート安全利用情報システム構築に向けて

国土交通省では、平成15年12月に「プレジャーボート安全利用情報システム構築検討委員会」(委員長:来生新 横浜国立大学大学院教授)を設置しました。本検討会は、学識経験者、プレジャーボート利用者、マリーナ関係者等をメンバーとし、国土交通省、海上保安庁、水産庁等の関係部局の参画を得て、プレジャーボートの安全性・利便性を向上させるための各種情報提供システムの構築に向けて検討を開始しています。

平成15年度には、システム構築の基本コンセプトを作成するにあたり、プレジャーボート利用者の現状を的確に把握するアンケート調査を実施しました。アンケート調査は、第43回東京国際ボートショー(2月開催)及び第19回大阪国際ボートショー(3月開催)で実施し、合計約1,200件の回答を得ることができました。アンケート結果からプレジャーボート利用者の現状に関して、以下のような傾向を把握することができました。

  1. プレジャーボート利用者の平均利用回数は年間約12回程度。利用水域については約5-10マイル程度の水域が中心であり、3-5時間程度の利用が最も多い。
  2. プレジャーボート関連の情報提供ホームページである「海覧版」、「海道の旅(マリンロード)」、「MICS:(沿岸域情報提供システム)」の認識はアンケート回答者の約2割程度。
  3. システム構築にあたっては、プレジャーボート利用者が使用している携帯電話及びインターネット環境を活用することが有効。

2.プレジャーボートを取り巻く状況

トレーラーを使って水上オートバイを運ぶ、新しいスタイルもよく見かけるようになった。

プレジャーボートとは一般的に、ヨット、モーターボート、水上オートバイ等のレジャーを主目的として使用される船舶の総称です。

わが国においては、平成13年度末、プレジャーボートは約47万隻存在、小型船舶操縦士の免許取得者数については約278万人に達しています。これは、水上オートバイやバスフィッシングを目的とした小型ボートなど、多様化する利用者のニーズに対応したプレジャーボートが自動車並みの低価格で市場に登場したことが大きな要因となっています。

また、レンタルボート等の新たなサービスや、移動可能なトレーラーを利用してプレジャーボートを保管・運搬するトレーラーボーティングなど、遊びたい水域で、いつでもマリンレジャーを楽しむことができる新たなプレジャーボートの利用形態が出現してきており、今後もマリンレジャーの裾野は一層拡大していくものと思われます。

3.プレジャーボート安全利用情報システムの効果

プレジャーボートが広く普及するのに伴い、プレジャーボートの海難事故も年々増加傾向にあります。平成14年6月に発行された「プレジャーボート海難の分析(海難審判庁)」では、プレジャーボート利用者はプロの海技従事者と異なり、操船頻度も低く運航経験も不十分な場合が多いことから、レジャーを目的として使用される乗り物(自動車等)と同様、素人でもミスを犯しにくくするソフト・ハード各面にわたる安全対策・海難防止対策が必要であると分析されています。そこで、プレジャーボート利用者が必要とする安全情報を船上においてリアルタイムに送受信できるシステムを構築することによって、プレジャーボート利用者の安全情報収集不足に起因する海難を未然に防止し、安全性を確保することが期待できます。

また、プレジャーボート安全利用情報システムを構築することは、プレジャーボート利用者の安全性確保とともに、次のような効果も期待できます。

近年、「みなとまち」、「離島」、「漁村」等の経済が地盤沈下する中で、プレジャーボートをビジターとして積極的に受入れるなどプレジャーボートを活用して、地域振興・地域活性化を模索しているところが全国各地にあります。プレジャーボート安全利用情報システムのなかで、これらの地域情報を利用者が手軽に入手できるようになれば、プレジャーボート利用がさらに促進され、みなとまち等の地域経済活性化につながると考えられます。

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4.今後の方向性

本検討は、平成15―17年度の3カ年計画で実施予定であり、現在はその初年度の検討が終了したところです。平成16年度以降、アンケート結果をさらに分析するとともに、システムに盛り込むべき情報内容、システム技術、システムのモデル化に関して、プレジャーボート関係者のみならず、携帯電話・カーナビゲーションシステム関係者等とともに、システム構築に向けて詳細検討を実施していく予定です。(了)

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