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オーシャンニューズレター

第90号(2004.05.05発行)

第90号(2004.05.05 発行)

地球温暖化なんか怖くない ─ギガフロートが人類を救う─

日本大学理工学部海洋建築工学科教授◆前田久明

地球温暖化が進むと海水準が上昇し、ついには人類の居住地域が水没することとなり、人類は住居を失って滅亡する運命をたどることになる。
しかし、現代版ノアの方舟を作ることにより、人類は生きながらえる可能性がもてる。
60億人を乗せるノアの方舟ということになると、メガフロートを超えた、ギガフロートと呼ばれることになろう。

地球規模の大洪水

炭酸ガス排出量を、地球温暖化防止条約に従って、1990年レベル以下にするとの環境基準を守ることは、日本にとって極めて厳しいといわれている。アメリカはもともと同条約に疑問を呈して批准していないし、中国は開発途上国扱いで炭酸ガス排出削減を求められていないし、ここにきてロシアが批准に後ろ向きになっていることから、EUまで炭酸ガスの排出削減に消極的になっている。しかし、もし地球温暖化が現実のものとなったら、大規模な異常気象が頻発し、このため、食糧難、水資源不足がもたらされ、大量の難民が発生して、各国の安全保障に重大な影響が及ぶと考えられる。ついには、EUの崩壊や、中国の内戦の恐れまで予測する向きもある。
地球温暖化の恐ろしいところは、単なる地球規模での紛争発生ではすまなくて、人類の生存が脅かされるところにある。地球温暖化が進めば、南極、北極の氷が溶け出し、海水準(海面)が上昇するため、世界中の沿岸域の居住区は水没し、世界人口の約7割の人がその住家を失うことになる。まさに地球規模での大洪水と考えることができる。これは人類にとって壊滅的な打撃である。地球温暖化の果てに人類の滅亡が待っているということになる。人類滅亡の危機を回避する術は無いものであろうか。

現代版ノアの方舟--ギガフロートの誕生

旧約聖書を紐解くと、人類史上、このような人類滅亡の危機が存在していたことがわかる。アダムとイブ以来、人間は原罪を背負って神に背き続けてきた。その結果神の怒りが下って、40日40夜雨が降り続くこととなり大洪水が発生して、人類はいったん滅亡することとなった。ただ、神と向き合っていたノアだけが、事前に神の指示により方舟を用意していたので、ノアとその家族、ならびに、ノアが飼っていたツガイの動物たちだけが生き延びることを許された。この旧約聖書の故事を参考にするならば、地球温暖化の果ての居住地域水没が起こっても、人類は滅亡する心配がなくなる。現代版ノアの方舟には、世界人口60億人を乗せなければならない。これは、超超大型浮体構造物であり、メガフロートならぬギガフロートと呼ぶべき代物となる。
陸上では、マンモスより大きな動物は生存不可能である。脚の強度が自重に耐えられないからである。米国西海岸の巨木レッドウッドでも、高さが100mを越すものは存在しない。幹の強度が自重に耐えられないからである。それに比べると、海面に浮かぶ海洋構造物は、その水平面内の寸法はいくらでも大きくすることが可能である。アルキメデスの原理により、自重は浮力で支えられるからである。メガフロートならびにポストメガフロートの研究により、メガフロートはもちろんのこと、ギガフロートも、沖合浮体式海洋構造物として技術的に実現可能である※1

ギガフロート上での豊かな生活の実現※2

長さ3,000km、幅200kmのギガフロートの上には、60億人が住むことが可能である。そのデッキを利用して太陽光発電を行えば、現行の電力需要を十分満たすことができる。水資源は海水を淡水化すればいくらでも得られる。野菜は、ギガフロートのデッキ上で水耕栽培により収穫できるし、塩水による稲作の水耕栽培も可能である※3。水産養殖用の栄養塩は、ストンメルの原理を利用して深層水を汲み上げればよろしい※4。水耕栽培(Hydroponics)と水産養殖(Aquaculture)を組み合わせたアクアポニックス(Aquaponics)の可能性も出てきている※5。ギガフロート上では、十分豊かな生活を送ることが可能である。

ギガフロートの超長期将来展望

このギガフロートは、現代版ノアの方舟ということになるので、「新ノアの方舟」と呼ぶことにする。地球温暖化が進み、海水準上昇が問題となるのは、間氷期であろう。間氷期は2万年続く。これに対して氷河期は8万年続くといわれている。氷河期でもこのギガフロートを赤道上に並べ、太陽光発電で得られたエネルギーを使って、海洋の大循環を起こせば、氷河期を温暖な気候に変えることが可能となる※6。このギガフロートを利用するならば、地球温暖化が進もうと、氷河期が到来しようと、人類はこの地球上に生存し続けることが保証されるのである。
ギガフロートの建造コストは、ざっと見積もって1,500兆円となる。米国の国防費の50年分である。世界平和が50年続くならば、人類は永久に生存可能となる。
地球温暖化の心配がなくなれば、すなわち、人類の生存が保証されるならば、われわれは落ち着いて、改めて、抜本的な地球規模の海洋環境を回復する仕事に取り組むことが可能となる。
この法螺話を実現するには、エンジニアの手腕と度胸が必要になる。エンジニアは、目標さえはっきりすれば、永久機関以外の何事でも実現してくれる存在である。地球温暖化が進めば、エンジニアが儲かるのである。(了)

沿岸域総合モデルサイト長さ3,000km、幅200kmのギガフロートの上には、60億人が住むことが可能である。
illustration by Shuichi Furuoka(Studio F)

【参考文献】

※1 海上技術安全研究所・日本大学・海洋科学技術センター・メガフロート技術研究組合『エコフロート(波エネルギー吸収機構を備えた自然エネルギー利用型沖合メガフロート)に関する基礎研究』(平成11年度運輸施設整備事業団報告書) 2001

※2 前田久明:第9章:「人類を救うマクロ・エンジニアリングによる海洋開発」、海の有効利用に向けての学際的アプローチ(前田・嘉田 編)、多賀出版、(2004 出版予定)

※3 恵藤浩朗・吉田茂男・他『浮遊式海洋農場の開発計画』(第17回海洋工学シンポジウム 日本造船学会) 2003

※4 圓山重直『Laputa計画』 http://www.jsme-fed.org/newsletters/2010_9/no5.html#ctop

※5 国際養殖産業会『概念から出発したアクアポニックス』(JIFAS NEWS 69号) 2001

※6 奈須紀幸『海洋に魅せられて半世紀』(30周年記念出版 海洋科学技術センター) 2001

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