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オーシャンニューズレター

第89号(2004.04.20発行)

第89号(2004.04.20 発行)

<日本の島から>テクノスーパーライナーによる小笠原観光振興への期待

小笠原村総務課長◆渋谷正昭

小笠原諸島は東京から1,000キロ南にある父島・母島を中心に大小30余りの島々からなる。現在、東京から父島まで定期船「おがさわら丸」で25時間半を要するが、平成17年春に就航する、テクノスーパーライナーはこれを17時間で結ぶ。これまで小笠原を訪れる観光客は最低6日間の日程を確保しなければならなかったが、運航時間の短縮による観光振興に期待がかかる。

TSL模型写真。TSLは、10月下旬に三井造船玉野造船所で行われる進水式を経て、来春より小笠原航路に就航する。(写真:小笠原海運)

テクノスーパーライナー(以下「TSL」)は平成元年から開発が進められ、平成17年春、いよいよ小笠原航路に実用船第1号が就航する。

小笠原諸島は東京から1,000キロ南にある父島・母島を中心に大小30余りの島々からなる。現在本土から小笠原へのアクセスは東京竹芝桟橋から父島二見港へ定期船「おがさわら丸」が就航しており、25時間半を要する。また、船は父島に着いて3泊した後再び東京へ帰るため往復で6日間を要している。この数年夏休み時期など多客時には父島を着発運航しているが所要日数は同じで、小笠原を訪れる観光客は最低6日間の日程を確保しないと小笠原を訪れることはできない。

小笠原諸島は戦後昭和43年までアメリカの統治下に置かれ、返還後新たな村づくりが始まった島である。現在の「おがさわら丸」になるまで定期船だけでも4隻の船が代替わりしており、初代は44時間、次は39時間、3代目が28時間半、そして現船と次第に所要時間を短くし、船も大型化、快適化してきた。小笠原航路に就航するTSLは往路17時間、復路16時間半といわれている。返還当初を知る人たちからすれば隔世の感があることだろう。

現船から約8~9時間の短縮は、何より来島観光客の増加を期待するものであり、その可能性と課題を以下にまとめてみた。


小笠原諸島は東京の南1,000kmにある島々で、聟島(むこじま)列島、父島列島、母島列島、火山列島(硫黄列島)の4つに分かれており、全島が東京都小笠原村に所属する。小笠原を訪ねるには、普通は小笠原海運の「おがさわら丸」で行くしかなく、母島へは父島より「ははじま丸」が就航している。なお、小笠原海運では、来春就航予定のTSLの船名募集(4/30締切)を行っている。詳しくは同社HPで。
●小笠原海運
http://www.ogasawarakaiun.co.jp/

父島
北緯27度5分、東経142度11分。
面積は23.8km2

1.運航時間短縮効果

現在就航している「おがさわら丸」は、竹芝を朝10時に出港し、翌日11時半に父島へ入港する。また、父島からは14時に出港し、翌日15時半に竹芝に入港する。この往復6日間の行程でその約4割は船中にいることになる。また、首都圏であれば10時の出港には当日でも間に合うが、それ以外では前日東京泊を考えなければならない。

ところが、TSLになれば、海運会社で今考えている案では、竹芝を17時出港で翌日父島に10時入港、父島発17時出港で翌日竹芝に9時半入港になる。そうなれば同じように6日間の行程でも、東京近辺に勤務していれば出港日に昼過ぎまでは仕事をしてから乗船できるし、国内どこからでも当日の移動で乗船できる。また、帰ってきた当日に多少遅刻して仕事に行くことや遠方の帰郷が可能になる。さらに、運航日に土日や祝日をうまく絡めることで休暇を取る日数が減る。

このように、運航時間の短縮だけを見ても観光客の増加は期待できる。

2.TSLの魅力効果

世の中に船舶ファンが何人いて、このTSLにどれだけの関心が持たれているか、私には知る術がない。どなたか情報があれば是非教えていただきたい。きっとTSLが就航したら是非乗ってみたいと思っている人はすでにいると期待している。ただ、船マニアによる観光客の増加も多少は期待できるが、鉄道マニアに比べればかなりマイナーな存在だろうと想像している。

むしろ、小笠原という目的地の魅力とTSLが最新鋭の船であることで「TSLに乗って小笠原へ行ってみよう」という人が増えることは確実であろう。

3.小笠原の魅力効果

母島列島平島(写真:大塚宏幸)

どんなに交通アクセスが良くなっても、小笠原が観光地として魅力がなければ、時間短縮の効果や最新鋭船の効果だけでは限界がある。

TSL就航に向けた役割分担として、村や村民は受け入れ体制を整えることがその役割と考えている。「観光客増に向けた宿泊施設は質・量ともに大丈夫か。小笠原に来たのは良いが何を見るのか、何をするのか」、そんな疑問に村は、村民はどう応えるのか。村では金融政策や分譲事業で宿泊施設について応えようとしている。そして、小笠原での過ごし方は「エコツーリズム」を観光振興の柱に据えて様々な取り組みを行っている。そもそも自然が小笠原の魅力であり、それに文化と歴史も加えて磨きをかけているところである。

一例を挙げれば、これまで小笠原に来た人はダイビングやホエールウォッチング、ドルフィンスイムなど海の魅力にばかり目を向けがちであったが、山に入り陸上の固有動植物を観察したり戦跡など訪れたりするガイド付きのプログラムが増えている。また、満天の星や夜光性のキノコなど夜の自然を楽しむナイトツアーも事業化されており、小笠原の魅力は海だけでなく時間と場所で広がりを見せている。

元々の自然という素材は変えようがないが、中身をどれだけ濃く見せられるかということでは確実に進んでおり、「小笠原の魅力」による観光客増も期待できる。

4.就航まで1年余り課題もある

ここまで触れなかったが、小笠原の観光客数は現在2万人程度である。実は、TSLの採算ラインとして年間5万の乗船客数が求められている。村民や仕事関係の乗船者もいるので、観光客数では倍増またはそれ以上の伸びがないと、せっかくのTSL小笠原航路も赤字航路となってしまう。

上記1~3の観光客増の可能性は「増えるだろう」ということでは結論づけられても、個々にどれだけの増加が図れるかを数値化するのは難しい。とにかく目標は倍増であるから、就航まで1年余りとなった今、あらゆる努力を関係者が行い、結果を出したいと考えている。

読者の皆さんにも是非様々なアドバイスを頂きたい。そして、TSLが就航したら仕事を終えて竹芝に来て最新鋭の船に乗って小笠原を存分に楽しみに来島していただきたい。(了)

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