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オーシャンニューズレター

第85号(2004.02.20発行)

第85号(2004.02.20 発行)

海洋立市・八戸の挑戦 ~資源循環型社会の創造に向けて~

八戸市長◆中村寿文

八戸市では、海がもつ魅力をフルに活かすことによって、みなと周辺はもとより、市全体をより魅力のある活気あふれるまちにするため、平成15年に「海洋立市プラン」を策定している。循環型社会創造の中核事業として推進されている「あおもりエコタウンプラン」や「八戸港リサイクルポート」、新エネルギー事業への取り組み等をご紹介する。

八戸は海を母とし、海とともに発展する

八戸の海には、たくさんの財産がある。天然の芝生と貴重な海浜植物が植生し、「日本の白砂青松100選」等に選ばれている名勝種差海岸。ウミネコの繁殖地として国の天然記念物「蕪島」。ウニやアワビなど新鮮でおいしい海の幸。日本有数の水揚げ量とイカの水揚げ日本一の八戸漁港。臨海工業地帯を中心に高度なリサイクル技術を有する企業が多く立地し、北東北随一を誇る産業集積。北東北最大の国際コンテナ貿易の拠点として経済活動に重要な役割を果たしている重要港湾・八戸港。これらのすべてが八戸の「海」であり、当市が全国に誇れる貴重な財産である。

こうした八戸の海がもつ魅力をフルに活かすことにより、みなと周辺はもとより、市全体をより魅力のある活気あふれるまちにするため、平成15年3月に「八戸は海を母とし、海とともに発展する」を理念とする「海洋立市プラン」を策定している。

平成14年12月には東北新幹線八戸駅が開業し、スローフードの殿堂「八戸屋台村」をはじめ新鮮で豊富な海・山の食材を活かした食文化観光が、地元はもとより全国の関係者の間で注目の的となっている。

八戸版ゼロ・エミッションへの挑戦

当市では、昭和39年の新産業都市指定を契機に、産業基盤の強化が図られ、臨海部を中心に、紙・パルプ、鉄鋼、非鉄金属、製錬、食料品などの基礎素材型及び生活関連型の産業集積が進んだ。平成12年の製造品出荷額が約4,300億円となっており、県内の約3分の1を占め、北東北随一の工業地域に発展している。

そうした中で、平成14年12月に、経済産業省及び環境省から承認を受けた「あおもりエコタウンプラン」が、循環型社会創造の中核事業として推進されている。同プランは、製錬業など基礎素材型産業が古くから蓄積してきた、金属と他の素材を完全分離する技術や、廃棄物からダイオキシンなどの有害物質を除去する技術を使い、究極的なゼロ・エミッションをめざすものである。

具体的な事業としては、次の3社による完全リサイクルプロジェクトが動きだしている。大平洋金属(株)八戸製造所内に「焼却灰・ホタテ貝殻リサイクル施設」を設置し、県内で発生するホタテ貝殻と八戸市で発生する焼却灰を混合溶融して、魚礁や人口砂利などを製造。そして、同所及び東北東京鐵鋼(株)から排出される飛灰を、八戸製錬(株)が受け入れ、鉛、亜鉛、カドミウムなどの金属を回収するとともに、セメント原料となるスラグを生産。これにより、地域から産業廃棄物を一切排出しないシステムを構築するものである。

こうしたエコタウンプランとあわせて、平成15年4月には、八戸港が国土交通省から「総合静脈物流拠点港」(リサイクルポート)の指定を受け、環境・リサイクル分野を中心とした新産業創出の基盤整備が一層期待されている。

「水の流れを電気で返す」新エネルギー特区プロジェクト

当市では、エコタウンプランの推進と並行して、新エネルギーへの取り組みにも力を入れている。特に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「新エネルギー等地域集中実証研究」は、平成15年5月に認定を受けた青森県環境・エネルギー産業創造特区の特定事業で、全国から大きな注目を浴びている。

同プロジェクトは、八戸市東部終末処理場の下水や汚泥から発生するメタンガスを利用して電気と熱を作り出し、自営線を使って近隣の小・中学校や市庁舎、水道企業団に電気を供給するとともに、発生する熱を下水や汚泥の発酵促進に利用する事業である。上水を供給している水道企業団に、流末の下水汚泥などをエネルギー源として電気を供給することから、「水の流れを電気で返すプロジェクト」と呼んでいる。終末処理場、小・中学校や市庁舎には太陽光発電や風力発電も設置され、複数の自然エネルギーを組み合わせる先進的なプロジェクトであり、また、電気事業法の一部規制緩和を活用した世界初の「マイクログリッド構想」(電力自給システム)でもある。実際にシステムが稼働するのは平成17年度で、平成19年度まで5年間かけて、系統制御や電力の品質評価など、マイクログリッドの実用性について、各種の実証研究を行う予定となっている。

洋上風力への取り組み

当市では、NEDOの平成15年度地域新エネルギービジョン策定事業を実施するなど、新エネルギー導入による新産業の創出と環境共生型の地域社会づくりに積極的に取り組んでいる。中でも力を入れているのが、洋上風力発電である。

平成15年度事業として、地域における洋上風力発電の可能性を探るため、(社)海洋産業研究会に委託し、八戸地域洋上風力発電導入可能性調査を実施している。現在、(1)沿岸域の利用状況、風況特性などの把握、(2)設備規模・配置、送電線・系統連携等のインフラの検討、(3)民間事業者等に対するアンケート調査、(4)法規制や技術的な課題、環境面での課題などの抽出、(5)実施体制の検討及び事業化に向けたスケジュールの提案を進めている。

あわせて、洋上風力発電の事業化をめざし、地域の産・学・官・民で構成する八戸地域洋上風力発電研究会を、平成15年8月に設置した。これまで2回ほど研究会を開催するとともに、適地の選定に関する予備調査、事業者等の意識調査、アロケーションシステムの検討などを進めている。

このように、当市では、海洋立市・八戸のシンボルとして洋上風力発電を核に、自然エネルギーを港湾部に集積させる「八戸港グリーン・パワー・ポート構想」を推進している。そこで発生する電力は、緑地・親水空間の照明や橋のライトアップなど港湾施設に利用するとともに、臨海部の工場群や水産加工の冷凍・冷蔵庫群等への電力供給、さらには燃料電池用の水素生成など、新たな利用形態について調査・研究して参りたいと考えている。

資源循環型社会の創造に向けて

当市は、これまで先人の知恵と努力により、北東北随一の産業集積、東北新幹線開業による陸・海・空の交通拠点性、広域都市圏における都市機能の集積など、北東北の中核都市として発展してきた。そうした産業の集積と都市機能の充実に一層磨きをかけるとともに、これまで大切に守り育ててきた海・山・川の豊かな自然環境や伝統・文化を次代に引き継いでいくことが、今に生きるわれわれの世代の責務であるとの想いを深くしているところである。八戸市では、今後とも、"海洋立市"を旗印の一つとして掲げながら、環境・エネルギーを核としたプロジェクトの推進に全力をあげて取り組んでいきたい。(了)

■八戸市の海を活かした産業振興プラン(クリックで拡大)

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