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第82号(2004.01.05 発行)
第82号(2004.01.05 発行)

便宜置籍船は無くなるのか?

日本郵船株式会社企画グループ海運・船主政策チーム◆高橋正裕

便宜置籍(FOC)船が世界の商船隊の半分以上、また他の海運先進国がFOC船に負けない第二船籍制度を導入していく中、世界のマーケットで自由競争に晒されている日本の船会社としては、日本籍で新造船を作っていく事は不可能に近い。民間企業である船会社が、日本籍船を作りたいと思うような、積極的な制度改正=第二船籍制度導入を望む。

世界の現実、日本の現実

2001年末現在の船腹量※1は世界全体で87,939隻、574百万総トンですが、上位10カ国で28,776隻、360百万総トンと、隻数ベースで33%、実質的な輸送能力である総トン数では実に63%にのぼります。この上位10カ国のうち、わが日本はようやく10位に登場します。また、パナマ(1位)、リベリア(2位)、バハマ(3位)、マルタ(5位)、キプロス(6位)の5カ国は一般的にFOC(=Flag of Convenience、便宜置籍)国とよばれている国であり、これら5カ国だけで257百万総トン、上位10カ国に顔をださないその他のFOC国もあわせると296百万総トンと、全世界の商船の52%がいわゆるFOC船ということが分かります。

一方、日本の海運会社が実質支配する「日本商船隊」という見方で括りますと、日本籍船は110隻、8百万総トン、FOC船を中心とする外国用船が1988隻、69百万総トンと、日本籍船は隻数ベースでわずか5%、トン数ベースでも10%しかありません※2。これらの数字の意味するところとして、FOC船は、世界の貿易、日本の貿易を支える海運業の重要な部分を占めており、「FOC船=悪」といったステレオタイプの議論は現実を無視したものであることをご理解いただけるかと思います。

なぜFOC船を作るのか

一般的にFOC船のメリットとしては、次の3点が挙げられますが、それぞれについて、日本籍との比較で若干の考察をしたいと思います。

(1)税金:一般的にFOC国では登録船舶の総トン数に応じて一定の税金を納めれば、事業利益に対しては課税されません。しかしながら、日本の海運会社の仕組船会社(FOC船のオーナー会社)は、日本の合算税制制度により、仕組船会社が利益をあげた時には日本の本社でその分も連結して課税され、仕組船会社が損をだしたときは連結されないという、不合理な制度に直面しています。したがって、直接的なメリットは日本とFOC国間の登録税/固定資産税の差だけとなります。

(2)船員配乗:商船に乗り組む船員には、ライセンスを持つ「職員=Officer」と職員の指揮下でさまざまな作業をする「部員=Rating」の2種類の人がいます。職員のライセンスに関しては、STCW条約(船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約)というものがあり、加盟国であれば、A国の船長もB国の船長も同じような教育訓練を受けていると考えることができます。FOC国はSTCW条約準拠のライセンスを持つ船員には、船員の国籍にかかわらず書類審査だけでライセンスを発給しています。つまり、パナマ籍の船には、日本人もイギリス人もインド人もフィリピン人も乗せることができます。

日本政府は外国人の一等航海士/一等機関士以下の職員に対しては、フィリピンで年に数回実施する、日本政府による「承認試験」に合格すれば、日本の免状を発給していますが、船長/機関長には「承認試験」制度が無い=日本の免状を発給しません。つまり、日本籍船には最低限2名の日本人(船長&機関長)が乗船することとなります。外国人船長/機関長とのコスト差は比較する国籍によって異なりますが、1隻あたり年間5~6千万円程度コスト高になります。仮に、新造船建造時に日本人配乗然るべしというビジネスがあったとしても、15~20年という船の一生を考えたとき、日本籍という選択は経済的リスクが高すぎます。したがって、日本人に乗ってもらいたいというビジネスがあっても、近年の日本の海運会社はFOC船として建造しています。

(3)設備要件と安全の問題:救命ボート、救命ジャケットや消火ホースなど、世界中で使われている海外のメーカーの装備品が、日本で認証をとっていないという理由で日本籍では使えない場合があります。そのために同じメーカーの同じ製品であっても日本籍向けは割高になっているものがあります。他にも船内ででたごみを燃やす焼却炉の容量など、世界の標準とこまごまとした点で差異があり、日本籍船は船価が高くなります。また、船にも自動車の車検のような定期検査が義務付けられていますが、ほとんどの外国籍ではダイバーによる水中検査で良しとされる2.5年目の中間検査で、日本政府はより費用のかかる乾ドックを要求しているなど、さまざまな問題点があります。

FOC廃絶の立場をとる人々は、FOC船は検査もいい加減だから危険であるという主張をして、FOC船とサブスタンダード船(基準に満たないような質の悪い船)をしばしば混同して議論しがちですが、これは必ずしも正しくありません。日本海で座礁したロシア籍のナホトカ号も日本の海岸で座礁し、遺棄されている北朝鮮の船もFOC船ではないのです。

アジア太平洋地域のPSC(Port State Control:寄港国による安全検査)の連絡機関である東京MOUの2002年度年次報告書の中で、各国での検査実績にもとづき旗国がブラック(=問題あり)/グレー(=注意)/ホワイト(=優良)・リストに分類されています。

【ブラック・リスト】北朝鮮、ボリビア、インドネシア、カンボジアベリーズ、ベトナム、 ホンジュラス、バングラディシュ、マレーシア、ロシア、タイ、セントビンセントおよびグレナディーン諸島、パプアニューギニア

【ホワイト・リスト】キプロス、韓国、アンティグア・バーブーダ、スイス、バミューダ、フィリピン、パナマ、デンマーク、オランダ、ギリシャ、フランス、バヌアツ 、シンガポール、マーシャル諸島、ドイツ、ノルウェー、リベリアバハマ、日本、イギリス、中国、マン島、香港

(下線:ITF公正慣行委員会がリストしているFOC国)

一見して分かるように、FOC国にも成績の良い国と悪い国があり、FOCでない国にも良い国と悪い国があります。日本の海運会社がよく置籍しているパナマやリベリア、豪華客船が数多く置籍しているバハマなどは皆ホワイト・リスト国です。

FOCから第二船籍制度へ

上記のように、日本の海運会社にとって、日本籍で新造船をつくるということは、まったく経済的合理性を持たないことであり、ほとんどの外航新造船はFOCで建造されています。他の先進諸国においても、過去数十年間ほぼ同様に自国籍船は減少し続けました。

そのような中で、ノルウェー、オランダ、イギリスなど多くの海運先進国で第二船籍制度が導入され、自国籍への回帰が起こっています。第二船籍制度というのは、旧来の船籍制度ならびに税体系は国際競争から保護されている内航船のために維持しながらも、国際競争に晒されている外航船には外形標準課税(トン数税制)の導入や、配乗要件の緩和など、自国の海運会社が自国籍を選択して不利にならない、より積極的に自国籍を選択したくなるようにする誘致策を言います。世界の商船の半数がFOC船であり、他の先進諸国がFOC船並かそれ以上に競争力のある第二船籍制度を導入する中、日本の船会社はいかに戦っていけばよいのでしょう。日本籍船を増やすためには、日本籍船が少なくとも経済的に不利にならない、日本籍の方が優利であるという制度が必要です。

日本船主協会では国土交通省に対して、経済改革特区と絡めて第二船籍制度創設を働きかけていますが、そこで要求していることは(1)登録免許税の大幅減免・船舶に対する固定資産税の廃止、(2)船員配乗要件の撤廃、(3)船舶設備・検査要件を国際標準並とする、の3点です。

海運業の実態を知らない人にとってはものすごい要求のように聞こえるかも知れませんが、日本の海運会社にとっては、少なくとも今と同じレベルのコストでないと、日本籍船を建造することを株主に説明できませんよ、と言っているだけなのです。(了)

※1 日本船主協会「船籍国別商船船腹量(2001年12月31日現在)」

※2 日本船主協会「わが国外航商船隊(1)日本籍船/外国用船別船腹量推移」

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