Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第73号(2003.08.20発行)

第73号(2003.08.20 発行)

海を伝える教育プログラム ~採水器をつくろう~

鹿島建設株式会社環境本部 地域環境計画グループ担当部長◆柵瀬(さくらい)信夫

鹿島建設葉山水域環境研究室では、水域の環境と資源の保全・再生を目指した商品の開発とともに、海を伝える教育プログラムを行っている。「底の水を取りたい」と言われたが、採水器を入手するには、買うには高価、市販のものは大きすぎる。それならば、自分で身近なもので工夫してつくろうという観点に立って、子どもたちに海のことを教えている。

海について学ぼう

「海水の塩分は何パーセント」と、ある大学で質問を出した。自信を持って約3%と答えてくれた学生は100名中2~3名だった。テレビの料理番組で「海水程度の塩分を作って」というが、海水程度をどう作るかは説明されていない場合が多い。潮干狩りで採ってきたアサリの砂抜きに失敗する1つに海水よりも濃い塩水がアサリの殻を閉ざすことは知られていない。味見しつつ舌で塩辛さを見極めることは難しい。しかし、水道水1リットルに食塩30g、コップ(200cc)一杯にスプーン軽く一杯の食塩、これを溶かすと海水程度になる。これを知っておけば失敗は避けられる。

この簡単なことが伝えられていないのが現実である。われわれはあまりにも海のことを知らなすぎるのではないか。四方を海に囲まれ、さまざまな恩恵を海から受けているにもかかわらず、海に係る基本的な事象は義務教育の中で伝えられていない。せめて、少しでも伝えることができれば遠くなった海が身近なものになるかもしれないと思っている。

水域の環境と資源の保全・再生

今、わが国の水域の環境と資源を保全し、再生する具体的な方策が個々の研究者や技術者に問われている。そして、その対応如何によって専門家としての存在が問われる時代が来ている。私が勤務していた鹿島建設葉山水域環境研究室(旧水産研究室)は、民間企業として数少ない海洋研究施設であり、建物と設備は営業を目的とした研究施設のモデルハウスの役目も担っているが、研究の主題は、水域を総合的に理解すること、水域に係る環境並びに資源の保全・再生を建設企業として実行することにあり、加えて、実際の場で活用される技術と商品を開発し、利益を生み出すことが必要とされている。

カニが好む石積機能を再現したカニ護岸パネル

私たちは環境と資源を保全し再生する具体的な方策として、身近な問題を解決することが大切と考え、コンクリート護岸の改善を目指した。そのひとつがカニ護岸パネルである。

現場を歩くと、コンクリート護岸でも状況によってはカニが生活している事実がある。そこで、コンクリートでも条件を整えればカニの生存は可能と判断し、豊かな石積み護岸と同様の構造と機能を持ったコンクリート製のパネルを考案し、既存、新設を問わずコンクリート護岸の全面に設置する簡易的な護岸再生工法を生み出した。

このパネルの狙いは、切れた食物連鎖を繋ぎ生物を豊かにすることにある。沿岸の食物連鎖の要になるのは動物プランクトンである。この優占種であるカニの幼生を産む親ガニに住みかを提供し、既存のコンクリート護岸によって消失したカニたちを復活させ、増えたカニたちが産むカニの幼生が稚魚の餌となっていく。この沿岸の基本的な食物連鎖について、動物プランクトンが連鎖の要であることなどは専門家の中でも具体的に議論されておらず、一般の人々には伝えられていない。

海を伝える教育プログラム



鹿島建設葉山水域環境研究室が行った、子供たちに海のおもしろさを楽しく伝える教育プログラムの模様

私たちの研究室では、伝えられていないことの多い海のこと、海のおもしろさを楽しく伝える教育プログラムを考案し、その実施と提供も行っている。このプログラムは、海での実施ができないことも想定し、スーパーで購入できる魚介類や身近な材料を教材にし、簡単なものは紙一枚でできる魚の絵の描き方から、手漕ぎボートがあれば10分間で収得できるボートの扱い方、手作り採水器のような工作をするもの、料理をして味わうものなど体験を重視したもので、体験した人たちが次に伝えることを狙っている。学校の授業にも活用され、その指導も行っている。内容は、幼稚園児から大学生、さらには大人まで、そして国際協力事業団(JAICA)等の研修を受けている専門家にも通用するものである。

図に示した採水器では、実生活で使用しているものを応用し工夫すればおもしろいものができることを感じてもらえればと思う次第で、特に大人が子どもたちにいろいろな知識を授ける手段として、身近な海や海に係わるものを利用することで、遠くなった海を少しでも近づけられればとの思いを込めている。

皆さんも子どもたちと一緒になって海を身近に感じてみませんか?(了)

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