Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第73号(2003.08.20発行)

第73号(2003.08.20 発行)

森・川・海をひとつの循環として捉えたエコツーリズム

竹野スノーケルセンター・ビジターセンター(ブルーミュージアム)センター長◆本庄四郎

森・川・海を循環系とした、四季型の環境教育の応用形態としてのエコツーリズムを意識したプログラムを模索・実践している。自然体験を個々のメニューではなく一貫性のあるストーリー構成にすることで、参加者にリピーター意識や自己変革が生まれる可能性を期待している。

山陰海岸国立公園・竹野スノーケルセンター・ビジターセンター(ブルーミュージアム)は兵庫県の竹野町にあります。ロボットカメラによる海を中心とした自然のリアルタイムな映像情報や、自然のつながりについてのハイビジョン映像やオープンジオラマなどの展示の他、自然とふれあうための環境教育拠点施設として様々な活動を行っています。

兵庫最北端の竹野町には町内に源流を発する全長流呈22.5kmの竹野川が流れ、珍しい「一町一川」で知られています。森に源を発し、山村を育む谷をつくりながら、川沿いの田園、農村、里山空間がそのまま漁村に移行して海に至るコンパクトな組み合わせは、「森と海をつなぐ川」「まるで教科書にでてくるような町だ」と訪れる人たちを感嘆させています。館内のオープンジオラマに象徴しているように、当センターは「森・川・海」をひとつの循環系としてとらえています。したがって自然に親しむための個々のメニューもばらばらに展開するのではなく、「互いに連鎖したストーリー性のある構成」をめざしています。

森を楽しむ

竹野川の源流部では、やわらかな落ち葉層や腐植層から川が生まれる仕組みを四季折々に体感することができます。季節ごとに渓流を散策しながら、植物の生態、葉の成長と変化を観察します。新緑、若葉、紅葉、落葉という季節の色彩変化、小鳥のコーラスやセミの声、秋の虫の音を楽しみ、その移り変わりを味わいます。そして落ち葉の中にすむササラダニやトビムシなどの小動物の存在を知ることで分解と循環について学んだり、森の中の生きものたちの命のつながりを学びます。

川を楽しむ

少人数で源流を訪ねます。滝や沢をめぐりながらそこで出会う生きものたちを観察し、森から流入する落ち葉の行方に思いをはせます。上流域では流れに顔をつけてその温度を体感します。川の中を水中マスクでのぞき込んで魚や水生昆虫を観察します。中流域では川をカヌーで下ったり、スノーケリングをしたり、川漁師さんとともに魚を取ってその場で食べたりする野趣に富んだプログラムも展開しています。また石ころを使った伝承遊びなど、昔からのいろいろな川遊びを楽しみます。秋には下流域から堤防に沿って川をさかのぼり、ハゼ釣り大会や芋煮会、回帰してきたサケやアユの産卵場の観察会を実施しています。

海を楽しむ~スノーケル教室~

ブルーミュージアムでは、初夏から秋にかけてスノーケル教室を毎日実施し、水中マスクやスノーケル、フィンなどの基本器材の使用法や取り扱い方を自然解説員が丁寧に指導しています。

水面を自由自在に泳ぎながら、水面下の世界とそこに生息する多様な生物を観察することは、ガラス越しに生き物を鑑賞するだけの「水族館」では得られない、浮力と水温を共有しながら間近に観察できる自然との一体感、野生生物との連帯感を得られるのが最大のメリットといえるでしょう。海に少なからぬ恐怖心があった初心者も、2時間後には自信と誇りに満ちたまったくの別人に変わってしまっているのがスノーケル教室の面白いところなのです。ブルーミュージアム前の大浦湾では日本海の藻場特有の生物に加えて、対馬暖流によって運ばれる熱帯魚たちに思いがけずに遭遇できる楽しみがあります。

楽しみながら学ぶ~磯観察~

ブルーミュージアムの周年プログラムとして磯観察があります。膝までの深さの場所にひしめく多様な生きものの世界に直接ふれることができ、小さなお子様から大人まで誰でも楽しめる人気メニューです。貝類やカニやヤドカリをはじめ、派手な色彩と形態のウミウシやアメフラシ、ナマコなどが人気を集めます。採集のあと、自然解説員の指導のもとで磯の生き物の名前や生態の学習、簡単な実験を行います。一見何もいないように見えた磯に、実に多様な生物がひしめき合っていることを知り、クモヒトデやヒトデなど非日常的な生きものたちが、じつは恐竜よりも昔から地球に登場して生き延び、つつましく生活している事実を知ることで生物の適応と多様性を学び、一様に深い感動を覚えます。

海からのメッセージ~漂着物学習~

秋から冬、そして早春にかけて、渚に流れ着くさまざまな漂着物についての観察会を行います。ルリガイやタコブネ、椰子の実だけでなく、漁具をはじめ洗剤容器やペットボトルなどの内外の生活ゴミも打ち寄せられます。これらの漂着物を観察・採集しながら、あわせて海岸清掃を行います。貝殻や漂着物をつかったネイチャークラフト、打ち上げ海藻の押し葉づくりなども随時実施し、館内に展示しています。

ついつい敬遠されがちな海岸清掃ですが、自分の手によってみるみる美しくなる海岸を目にしながら、参加者は疲れを忘れる充実感を得ています。大量の漂着物の現実から学び、文明のありようや自分自身の生活を考えるきっかけとして、漂着物観察は当センターにとって欠かせない自己変革型の環境学習プログラムとなっています。

エコツーリズムの今後の展開

昨年の夏に実施した「森・川・海竹野エコツアー」は子ども対象のプログラムでした。

竹野川の源流から海まで合宿しながらその土地の家にもらい風呂に行き、語り部たちから昔話を聞きました。満天の星を見ながら森の木々のざわめきと夜行性の鳥の声を聞き、都会ではありえない「人工音のまったく無い夜」を過ごしました。

朝、かまどでご飯を炊いて谷川の水で顔を洗い、昼は中流で魚をつかんで焼いて食べ、午後には海でスノーケリングや磯観察を楽しみました。移動距離が少ない小さな町だからこそ可能なプログラムだったといえるでしょう。

大人対象としては「新・竹取物語」を実施しました。繁茂した孟宗竹を除伐して、竹炭を焼こうというもので、晩秋と冬に実施しました。星を見ながらフクロウの声を聞き、灼熱の炭焼き窯の脇で語り合うひとときは「ゆったりとした時間」を味わえます。翌日には海岸の漂着物観察や紙漉きを組み合わせて「保全活動の共通性」を体験しました。

いろいろな試みが、リピーターとしてくりかえし訪れてみたい愛着をもたらすプログラムかどうかの内容の吟味、スタッフの確保、経費等課題がまだまだ山積みです。

ツアーが環境に与える負荷を極力抑えたいものです。森と川と海の循環をわかりやすく理解するための一連の四季折々、起承転結を持ったストーリーとしてとらえたエコツーリズム。それは自己変革型の環境教育であり、地域の文化伝承活動やグリーンツーリズム、ブルーツーリズムなど、観光町おこしとのタイアップを積極的にすすめていくことで、さらに勢いと深みを持つものと考えています。(了)

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