Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第70号(2003.07.05発行)

第70号(2003.07.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生 新

◆梅雨も明け、暑い夏が到来する。夏の歌。「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ」(藤原定家)。情熱のほとばしりによって身をこがすこととは縁が遠くなりつつある者にとっても、ヒートアイランド現象によって、身が焦げるような夏の暑さは毎年確実に訪れる。まつほの浦は淡路島の名所。豊島は小豆島をはさんで淡路島の隣の隣。歌の「焼くや藻塩の」までは「こがれ」を導く序詞、藻を焼くのは塩を採る手法。不快な暑さをもたらす産業廃棄物の野焼きとはその趣を大いに異にする。

◆瀬戸内海の環境保全を論ずる岡市オピニオンと廣瀬オピニオンをお届けする。瀬戸内海は日本的な美意識に決定的な影響を与えてきた。白砂青松の海岸、清らかで豊かな日本の海の原風景とも言うべき瀬戸内海をいかにして後世に伝えるかは、今に生きるすべての日本人の大きな課題といってよい。閉鎖性水域の管理には多くの地方公共団体が必然的にかかわらざるを得ない。瀬戸内法との関係で全域のあり方の管理と区別した各海域の沿岸諸県による共同管理方式を検討すべきとする岡市オピニオン、海砂利の採取を例に各県の取り組みの詳細な紹介と、瀬戸内法の改正の方向について示唆する廣瀬オピニオン、読者の積極的な反応を期待したい。

◆倉沢オピニオンは、サハリンの石油開発によってコククジラの絶滅の危機に瀕するアジア系個体群が大きな影響を受ける可能性と、私たちのかかわりを論ずる。ロシアの経済的安定と繁栄は、日本だけではなく、21世紀の東アジアと世界全体の人々の生存と福祉に大きな影響を与える。他方でわれわれは未来の世代に美しい豊かな地球を継承する義務を負う。私たちの手に入れうるものは常に何かを生贄として神にささげる(コストを支払う)ことの見返りである。どちらも容易には捨てられない大切な価値の狭間でわれわれは悩む。悩みのはてに到達する決断はいかなるものであるべきか。問いは非常に重い。(了)

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