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第64号(2003.04.05発行)

第64号(2003.04.05 発行)

「沿岸域総合管理研究会」提言 未来の子供達へ美しく安全で生き生きした沿岸域を引き継ぐために

国土交通省河川局海岸室課長補佐◆吉田敏晴

沿岸域で生じている諸問題を総合的にとらえ、望ましい沿岸域管理のあり方について検討してきた「沿岸域総合管理研究会」の提言がとりまとめられた。本提言に基づく施策の成否が沿岸域の総合的な管理の実現に向けた試金石になると考えられる。

1.はじめに

「沿岸域総合管理研究会」(座長:来生新 横浜国立大学教授)の提言が去る3月5日にとりまとめられました。本研究会は、学識経験者で構成され、海岸の侵食、海域の水質汚濁、干潟・藻場の減少、海域利用の輻輳などの問題を総合的にとらえ、望ましい沿岸域管理のあり方の検討を目的とし、国土交通省内の関係部局の参画を得て、平成13年12月に設置されたものです。本稿では、提言の概要を紹介いたします。なお、詳細については、国土交通省のホームページ(http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai/kondankai/engan/index.html)をご覧ください。

2.沿岸域管理における問題点

沿岸域における問題は、環境・防災・利用という3つの要素がそれぞれに関係しあう中で生じており、また、沿岸域内だけに留まらず、陸域・河川・海洋等との関係上でも生じています。研究会では、このような現状をより具体的に把握するため、国民へのアンケート等を実施し、検討すべき問題点として、水質汚濁、海岸漂着ゴミ、干潟の減少など14事例を抽出しました。

3.沿岸域に関する取り組みにおける課題

抽出した問題事例毎に、現在の制度やこれまでの取り組みを整理し、その評価を行った結果、以下のような共通の課題が整理されています。

  1. 責任の所在が不明確であったのではないか
    沿岸域においては、管理者が存在しない海域があるなど、管理体制が整っていない部分があり、問題が発生した場合、その処理責任主体が不明確になっている。
  2. 施策の実施主体の連携が不足していたのではないか
    各々の問題に対して、各施策実施主体が個々に対応してきたため、責任の所在が不明確になる部分が生じるなど、施策の効果を十分に発揮させることができなかった。
  3. 地域住民や利用者との合意形成が十分ではなかったのではないか
    事業の計画段階から工事実施に至る各段階において、地域住民や利用者等に対する説明や対話の不足により、地域住民等との十分な合意形成が図れないまま事業が実施された場合が見られた。
  4. 広域的な影響の考慮が十分ではなかったのではないか
    局部的な開発や構造物の設置が水質の悪化や海岸侵食に影響を与えたり、海砂利採取が環境の悪化や海岸侵食の一因になるなど、広域的な影響に十分な配慮がなされてこなかった。
  5. 開発や防災を優先して環境への配慮が十分ではなかったのではないか
    これまで実施してきた防災対策や臨海部の開発は、その必要性が明らかで一定の効果を上げており、環境への影響にも配慮してきたが、代償として失った自然海岸や干潟等の自然環境も多い。
  6. 沿岸域における情報が不足していたのではないか
    沿岸域における環境調査結果等の基礎的情報、生態系の特徴など環境の自然科学的な情報、水域の利用状況などの社会科学的な情報が不足していたために、環境との調和が十分に図られてこなかった面がある。
■沿岸域で生じている問題の基本構造イメージ
基本構造イメージの図

4.沿岸域の総合的な管理の基本的方向

さまざまな問題が顕在化し、早急な対応が必要である沿岸域において、従来のような単一の事業・施策、単一の施策目的、単一の事業主体による対応では、一定の効果は果たすものの、望ましい沿岸域の形成のためには不十分なため、総合的な視点に立った沿岸域管理が必要であり、「美しく、安全で、生き生きした沿岸域」を現世代から次世代へ引き継いでいくことを目標として、以下の視点で各種施策を実施していくべきとしています。

(1)施策の実施主体の協働、(2)相互に関連のある問題に対する包括的な施策の実施、(3)個別法の法目的や適用範囲の拡大、(4)制度の空白部分の一体的管理、(5)沿岸域の新たな活用のための施策の展開、(6)関係者間での情報共有と国民への情報提供。

5.個別問題の解決のための施策

将来的には沿岸域を総合的に管理する新たな法制度の整備を目指しつつ、総合的な管理の実現の第一歩として、上記の基本的方向にしたがって、個別問題の解決のために実施すべき施策がとりまとめられています。

<施策の例>

○海岸侵食

海岸管理者等の関係機関が連携して、海岸地形や沿岸漂砂量のモニタリングを実施し、沿岸漂砂による土砂収支が適切になるように、沿岸構造物の設計を工夫するとともに、陸域を考慮した総合的な土砂管理対策を実施する。

○レジャー利用同士の輻輳

各地域の特性に応じて、地方公共団体が中心となり、条例等による利用者間ルールづくりを推進する。

○護岸、離岸堤等の整備による景観の悪化

海岸防護の必要性と良好な景観に対するニーズとの調整を図るため、海岸管理者は、海岸保全施設の計画段階から積極的に施設整備の情報提供を行うとともに、利用者の意見を十分に把握して、周囲の風景、土地利用状況、地域固有の生態系等と調和した施設整備に努める。

6.沿岸域の総合的な管理に向けて

具体的な施策を実施していくとともに、長期的課題も含めた沿岸域の総合的な管理のためには、沿岸域の総合的な管理のための計画の策定や施策の推進体制の確立が必要と指摘されています。また、今後の課題として、以下の3点があげられています。

  • 関係する省庁と積極的に連携を図りつつ施策を実施していくことが必要
  • 将来的には、個別施策の実施成果を沿岸域の総合的な管理に関する新たな法制度の検討に結びつけていくべき
  • 沿岸域の現状や施策の実施状況等を広く公開するなど、国民的な議論を一層活発化させていくことが必要

7.おわりに

本研究会は、河川局、港湾局、国土計画局をはじめとして国土交通省内の関係部局の参画を得て開催されましたが、今後は、水産庁などの関係省庁とも共通の理念や目標を共有しつつ、適切に役割分担をしていくことが必要だと考えています。(了)

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