Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第64号(2003.04.05発行)

第64号(2003.04.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生 新

◆イラクで戦争が始まり、北朝鮮との緊張も強まる一方で、「戦時」という言葉の重さを普段にもまして感ずる。神戸に海運特区をという岡田オピニオンは、経済効率という平時の価値と、決して平時だけではない現実の世界の動きの中で、市場での効率追求に対する国としての保険のかけ方とでも言うべきもののあり方について考えさせる。

◆これほど魚食が盛んな日本で、漁業者の安全という問題にわれわれがどれほど無知であるかについて、天下井オピニオンは気づかせる。改めて考えてみれば、海が本来危険なものであるとしても、漁船の安全度如何で、漁民の安全性は相当に変化しうる。ここでもやはり効率を求める市場の論理と金の問題がついてまわる。

◆すべての人の生活において突然の戦時が潜んでいる。安全であることが当然なのが平時であるとすれば、そこで安全確保のコストを意識することは難しく、競争の存在がそれにコストをかけることを妨げる。漁業経営の多くが零細な経営主体によるのと同様、日本自体も脆弱な基盤の上でかろうじて資金繰りをつけている経営体にすぎないのかもしれない。さまざまな意味で、適切な保険内容とそれが日々のいくらの出費に値するのかの冷静な議論が必要な時期であろう。

◆吉田海岸室課長補佐の沿岸域総合管理研究会提言の紹介は、編集子が直接かかわるものでもあり、いささか自己宣伝めいて気が引けるのだが、これまでの海岸管理の自己反省を下敷きにして、総合管理の新たな方向を強く打ち出すものとして評価しうる。多くの方からの忌憚のないご批判を期待したい。

◆「山桜日は荒海を染めて落つ」齊藤美規。山桜のちり際はいさぎ良く、古来日本人の好むところであった。社会全体として、いさぎよさの美に加えて、したたかな計算に裏打ちされた大胆な保険の発想が必要なのである。この句の強さのように。(了)

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