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Ocean Newsletter
第63号(2003.03.20発行)
- 大阪府立大学工学部海洋システム工学科教授◆細田龍介
- シップ・アンド・オーシャン財団海洋政策研究所参与◆寺前秀一
- 筑波大学大学院博士課程3年経営・政策科学研究科◆合田浩之
- ニューズレター編集委員会編集代表者((社)海洋産業研究会常務理事)◆中原 裕幸
日韓航路を乗っ取られた日本海運
筑波大学大学院博士課程3年経営・政策科学研究科◆合田浩之日韓定期海運は、現在、韓国海運会社の圧倒的優位にある。日本海は貨物輸送に関しては、日本沿岸を除き、「韓国海」といっても過言ではない。このように韓国海運業の圧倒的有利な状況を生みだしたのは、日本がやらずもがなの「塩を送った」ためである。
1.韓国海運会社の絶対的優位
1-1 配船状況
日韓定期海運は、現在、韓国海運会社の圧倒的優位にある。日本海は貨物輸送に関しては、日本沿岸を除き、「韓国海」といっても過言ではない(下表参照)。
1-2 歴史的経緯
日韓国交回復後、海運交渉は、日韓基本条約5条で、条約締結後速やかに交渉を開始すると約定されたが、結局合意はなされなかった。韓国は1967年に海運振興法を制定し、自国輸出入貨物は、原則全て自国船での輸送を義務づけた。自国船が手当てできない場合にのみ、当該義務の免除を行う(この時、ウェーバー〔自国船不就航証明書〕を関係者に発給する)こととしていた。韓国政府は、日韓航路にはウェーバーをまったく発給しなかったために、完全に日本船は排除されたのである。
日本では、1977年に「外国等による本邦外航船舶運航事業者に対する不利益な取扱に対する特別措置法」(昭和52年法60号)が制定された。しかし、韓国船に対して、その発動がなされなかった。なぜそのような謙抑的な態度がとられたのかはわからないが、日本海運において韓国航路の占める地位が低かったことや、過去の歴史問題に過剰に拘泥したからであろうことは、想像に難くない。
1-3 Trade Term
近年では、このような「国旗差別」は制度上廃止されており、日韓航路に日本の海運会社が進出する上での制度上の障害はない。しかし、営利目的の民営海運会社は、勝算の無い案件に進出はしない。配船すれば貨物が自然に集まるわけではない。貨物の流動を支配する主体をどれだけ攻略できるかが重要である。海上物品輸送契約は、国際物品売買契約に附随する。ここで重要になるのがTradeTerm(貿易取引条件) ※1である。
Trade Termの中で、自国にとって有利であるのは、輸出の場合がCIF(運賃保険料込条件)※2であり輸入の場合がFOB(本船渡条件)※3である。輸出でCIFであれば、輸出業者側が海上保険及び船腹手配の権限を有し、輸入でFOBであれば、輸入業者側が海上保険及び船腹手配の権限を有する。要するに自国海運会社・損害保険会社を起用する自由を自国に留保する売買条件で取引されることが、自国の繁栄という意味では望ましい。しかし、日韓貿易では、ほとんどが韓国からの対日輸出がCIF、対日輸入がFOBとなり、既に船社の手配権はほとんど韓国側の掌中にある。しかも、韓国海運会社は、その数200ともいわれる韓国系フォワーダー群に支えられ、その集荷網は韓国社会の底辺にまで根をおろしている。こうなると日本船社が、日韓航路貨物集荷の商戦に正面から再参入することは難しい。配船の自由が、現在は制度上許容されているといっても所詮は最早、絵に描いた餅である。
2.結び
韓国海運会社は、日韓航路を独占しその収益で他の航路へ進出する原資を捻出した。日韓航路の独占こそが韓国海運会社を培養したとまでいわれている(武城正長「韓国海運の発展と韓国経済」『地域と社会』第4号〔2001年〕125-126頁)。当時も今も確かに日本海運のプレゼンスは世界的に高いが、譲歩の効果は日本海だけでは止らなかった。世界市場での競合相手にやらずもがなの「塩を送った」とは言える。
日本政府は、外国政府の圧迫に対する自国海運産業の利益擁護に積極的に関与することが望ましい。それが一見些細に見えたとしても、何らかの「不当な」状況は、放置・先送りすれば拡大し、このように手遅れになることもあるからである。(了)
日本船社 | 日韓合弁 | 韓国船社 | |
---|---|---|---|
週1便 | なし | 三田尻中関、大分 | 川崎、呉、宇部、浜田、姫路、唐津、油津 |
週2便+ | なし | 徳山下松 | 石狩湾、室蘭、八戸、酒田、直江津、常陸那珂、舞鶴、福山、岩国、三田尻中関、高知、熊本、長崎、伊万里、細島、敦賀(週2便+月1便) |
週3便 | なし | 仙台、小名浜、千葉、豊橋、境港、三島川之江、大分、八代 | |
週4便 | なし | 広島 | 苫小牧、秋田、金沢、四日市、徳山下松、徳島小松島、松山、今治 |
週5便 | なし | 伏木富山、水島、高松 | |
週6便 | なし | 下関 | |
週7便 | なし | 下関 | 秋田、広島 |
週9便 | なし | 東京 | |
週10便+ア | なし | 横浜、博多(隔日寄港が3隻 即ち10/11便) | |
週13便 | なし | 大阪 | |
週14便 | なし | 神戸 |
※1 Trade Terms:貿易は異国間取引であるため、売主・買主によって法律・制度・商慣行が異なるから共通の了解事項や合意事項が必要である。国際商業会議所はTrade Termsを取り決めている。
※2 CIF:Cost, Insurance andFreightの略で、貿易商品の販売価格に製品原価に加え、輸出相手港までの海上運賃・海上保険を含む。従って、売主が海上運賃を負担する。
※3 FOB:Free on Boardの略で、商品の販売価格には、輸出船積み地までの運送費と製造原価しか含まれない。従って買主が海上運賃を負担する。
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- 編集後記 ニューズレター編集代表((社)海洋産業研究会常務理事)◆中原 裕幸