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オーシャンニューズレター

第63号(2003.03.20発行)

第63号(2003.03.20 発行)

エコ・プラットフォーム構想 ~沿岸域整備における海からの視点~

大阪府立大学工学部海洋システム工学科教授◆細田龍介

沿岸陸域、海域において発生する環境問題は、人間の生活と産業経済活動の結果排出される「廃棄物」が原因であり、その解決方策を早急に策定しなければならない。そこで、沿岸域における環境問題を総合的に捉え、循環型社会システムの形成をめざした「エコ・プラットホーム」の構築を提案する。

1.20世紀型社会システムの見直し

沿岸陸域、海域において発生する環境問題は、人間生活起源と産業経済活動起源に分けられるが、生活や活動の結果排出される「廃棄物」が原因であることには変わりはない。大量生産・大量消費・大量廃棄が社会全体を支える形で発展してきた20世紀型の社会システムの見直しが叫ばれ、すべてに亘って減量化が実行されたとしても、全地球人口の増加とその2/3以上が沿岸域に集中すると予測されている21世紀においてはなお簡単に解決できる問題ではなさそうである。

廃棄物による陸域・海域埋め立て、人工島建設、豊島等に見られる不法投棄等の例は陸域にはすでに廃棄物の最終処分場のないことを示すものであり、排水規制の実施にも拘わらず改善が進まない河川・海域水質・底質等も限界を示す例であると言えよう。

問題解決のためには、生産活動、経済活動、消費活動、人間生活のあらゆる部分において必要となる資源・エネルギー、生産物、廃棄物の動態を正しく把握し、解決方策を策定しなければならない。しかし、目の前に山積している環境問題は急を要するため、時間を要する新技術の開発、新たなエネルギーの投入を前提としない、即ち既存の技術レベルで実現・達成でき、しかも将来に禍根を残さない解決方策を提案、実行することが求められていると考える。

2.エコ・プラットフォーム構想

そこで、沿岸域における人間生活・活動、付随して発生する環境問題を総合的に捉え、「持続可能な開発」を達成するための方策として、空間的な多様性に優れる海域を有効に活用し、海陸連携によって沿岸域における環境問題を解決すると同時に、循環型社会システム構築のための核となる施設構築に関して、技術的可能性、具体的規模等の技術的課題、実用化、採算性等の経済的課題、法規制、行政措置等の社会的課題に関する研究を提案する。

このシステムは、沿岸域大都市の港湾区域内錨泊地に大型浮体「エコ・プラットフォーム」(付図参照)を係留し、浮体上にゴミ・産業廃棄物、RDF等を熱エネルギー発生源とする発電システム、熱エネルギーカスケード利用システム、自然エネルギー利用システムを備え、発生熱・電力エネルギーを利用して廃棄物からの有害物質除去、再資源化を行うと共に、下水汚泥の亜臨界水熱分解、海藻、植物プランクトン増殖、メタンガス発生、メタンハイドレート生産等の諸機能を装備し、陸域における生活下排水および海底に堆積する有機汚泥、富栄養化した海水の処理を行い、海域環境悪化の原因である、有機物、無機態窒素・リンを除去した後海域に排出する。エネルギーに関しては、高温から低温までのすべての熱エネルギーを有効利用することを目指すものである。勿論、陸域における現在の廃棄物処理の継続実施、コミュニティ単位のゼロエミッション化を前提として考えなければこの構想は達成できない。

この提案の核となる「エコ・プラットフォーム」は、従来単に「ものを運ぶ道具」としてしか位置づけられていなかった船舶を、海洋浮体構造物として捉え直すことによって、その工学的ポテンシャルを大いに引き出し、陸域のみならず海域をも含めた沿岸域の環境問題解決に大きな貢献ができることを示すものである。

またこうしたプロジェクトが実現すれば、汚濁負荷を垂れ流し状態にしている多くの国々の環境問題解決にも役立つと考えられる。

3.エコ・プラットフォーム実現のための複合化技術

エコ・プラットフォーム実現のためには(1)廃棄物輸送、(2)焼却処理・熱エネルギー・電力発生、(3)エネルギー有効利用、(4)固形廃棄物処理・資源化、(5)液状廃棄物処理・資源化、(6)エコ・プラットフォーム建造・運用・管理、(7)大気・海域環境監視・管理、(8)プラスティックの非燃焼利用、(9)バイオマス資源化、等の諸応用技術の確立を図るとともに、更なる有機的複合化の達成が必要である。

しかし、技術的可能性を検討するために第一に検討しなければならない課題は、これらの個別システムを統合した廃棄物処理・資源化システムの構築が可能であるか否かの検討、すなわち、システム全体のマテリアルバランス、エネルギーバランスと[TechnologyIntegrationを実現できるか]の検討が必要である。この点に関して、投入廃棄物の種類、量に応じてバランスをとることが可能であり、最終処分量の抑制、資源・エネルギーの再生産が技術的には可能であることが明らかになってきた。この結果は、人口、社会、文化、産業構造によって異なる地域特性に応じた廃棄物処理・資源化システムの構築が実現可能であることを示すものである。さらに、技術的課題の他に、実現のための財政基盤づくり、陸域ゼロエミッション化推進、循環型社会システム構築に関する地域社会内の合意形成推進といった課題の解決も実現のために必要である。

4.将来展望、期待される成果

本提案の成果として考えられる知的資産は、資源・エネルギー・環境問題に対する統合的解決方法の開発およびその結果として構築される資源・エネルギー再生産システム、これらを基本とした循環型社会システムの形成である。

また、本提案は国家施策の一つとして実施することが望まれるが、具体的環境問題には地域特性が強く影響する場合もある。実施に当たっては、地域(国)の産・学・官の連携が必要である。(了)

■エコ・プラットフォームの概念
エコプラットフォームの概念図

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