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オーシャンニューズレター

第61号(2003.02.20発行)

第61号(2003.02.20 発行)

港湾分野における海外技術協力

(財)国際臨海開発研究センター顧問◆岡田靖夫

急速な経済・社会のグローバル化は世界の港湾にも一大変化をもたらしており、途上国の港湾がとりわけ大きな影響を受けるようになったため、従来からのわが国技術協力もその内容に大きな質的変貌が求められている。

1.港湾分野の国際協力の役割

港湾は、古来から人、物の交流の場として発展してきたが、近年における急速な経済のグローバル化傾向のなかで、国と国、地域と地域を結ぶ大量の物流を担う最も重要なインフラとして、港湾開発への国際協力はその重要性をますます高めている。

2.わが国による港湾分野国際協力の流れ

雑貨埠頭港写真
近代化が求められている旧式の雑貨埠頭(インドネシアのポンティヤナック港)

これまで、開発途上国の港湾開発への協力は、主にODA事業として展開されてきた。すなわち、国際協力事業団(JICA)による開発調査、専門家派遣、研修員受入れ、プロジェクト技術協力などの技術協力プログラムおよび無償資金協力の実施、ならびに国際協力銀行(JBIC:旧海外経済協力基金)による資金協力(円借款)の実施である。このようななかで、取り扱う中身の広さと重要性から見て技術協力の中心を占めてきたのは開発調査であり、これは協力対象途上国との密接な協力の下に、当該途上国の発展に最も望ましいと考えられる港湾開発政策の立案や港湾開発(改良)の施設計画の作成を行なうとともに、途上国自らの手による効率的な港湾運営の手法を提案するものであった。

このような港湾分野における技術協力の対象国も、当然のことながら、わが国のODA政策に従って対象国の重点を移してきているが、これはわが国の援助政策だけではなく、被援助国側における港湾政策の変化によっても影響を受けている。

海外援助を開始した初期の頃は、戦後賠償の一環としての援助が重点を占めていたため、港湾分野においても、中国、韓国を始めとする東南アジア地域主体で援助が行われてきたが、これらの被援助国が経済成長を遂げるとともに、技術力が向上したこともあり、過去の主な港湾分野の被援助国であった中国、タイ、マレーシアなどの諸国では現在、ほとんど協力案件がなくなっている。アジア地域では比較的経済発展が遅れているインドネシア、フィリピンに加え、新たに共産圏から自由主義圏に参加したベトナム、ラオス、カンボジアといったインドシナ3国への協力が増え、西南アジアでは、スリランカ、パキスタン、インドなどの諸国へ引き続き継続的な協力が行われている。わが国からの移民が多い中南米諸国も、かつては主要な協力対象国であったが、中南米の経済危機以降ほとんどの国で港湾が民営化されたこともあり、被援助国の公的機関への技術協力を建前としているわが国協力政策の枠組みのなかでは、これらの民営化された港湾への協力が困難となり、現在では極端に協力案件が減少している。

一方、旧ソビエト連邦の崩壊とともに、新たに独立したバルト諸国、CIS諸国およびポーランドやルーマニア等の東欧諸国への技術協力が近年増加の気配を見せている。これらの諸国は一応の技術力を有していることから、わが国としては、疲弊・老朽化した港湾のリハビリや改良等のプロジェクトに円借款で対応しており、そのためのフィージビリティ・スタディが増加している。今後は、従来ヨーロッパの旧植民地宗主国が主体となって援助してきたアンゴラ等、アフリカ諸国への援助が、これらの国が政治的・社会的に安定化するに伴って増加するのではないかと考えられる。

3.世界の港湾をめぐる最近の動向

しかしながら、急速な経済・社会のグローバル化は世界の港湾にも一大変化をもたらしており、途上国の港湾がとりわけその大きな影響を受けるようになったため、従来からのわが国技術協力もその内容に大きな質的変貌が求められている。その動機となるものは、コンテナ輸送のグローバル化の急速な進展、メガオペレーターの出現、船社の合併やアライアンス※1の巨大化・少数化によるスケールメリットの追及、巨大コンテナ船の投入ならびに、これらがもたらしたハブ-スポーク港から成る戦略的な世界港湾ネットワークの形成である。こうした状況下で、資金不足に悩む途上国においてもBOT※2 やコンセッション方式※3 の導入による近代的コンテナターミナルの建設、港湾オペレーションの民営化、貿易や港湾管理運営に関する情報システムの導入など、手遅れの許されない対応に追われている。また他方、ますます厳しく求められるようになった環境への配慮も欠かせなくなっている。

このような状況を踏まえ、途上国の港湾開発に対する技術協力も、従来に比べ、全国港湾の役割と将来計画を提案する政策提言、効率的な管理運営の実現を達成するために欠かせない人材の育成、組織・情報システムの整備、民営化や商業化による港湾のより経済的、安定的な管理・運営方策に関する提言など、従来からのハード・インフラを中心とした技術協力は大きく変貌を遂げつつある。

4.これからの協力の方向

今後、港湾分野においては、EDI※4の導入、ターミナル運営の自動化など、コンテナターミナルの国際標準に対応した体制の整備が求められることになるが、途上国においては、国内の市場・経済環境が未熟であることに加え、民間オペレーター参入のための透明かつ公正な入札手続、民間事業者を含むオペレーターの監査・監督システムと効率的・効果的な行政の執行に不可欠な指定統計制度、会計制度の整備と情報処理なども未成熟な状態にある。そのため、途上国においては、港湾の行政・管理・運営のためのキャパシティビルディングが欠くことのできない問題となってきている。さらに民営化の流れのなかで今後多国籍企業による港湾施設の建設・運営が進むことになると思われるので、経済性とともに安全性確保の観点から、途上国政府にとっては、自国の自然・経済・社会環境に適した設計・施工に関する技術基準の作成とその運用のための基礎作りがきわめて重要な問題となる。

このような港湾分野にかかわる世界市場の急速な動きに対する適切かつ迅速な対応策の検討は、ひとり途上国だけの問題ではなく、先進諸国においても重要な関心事となっている。その意味で、途上諸国と先進諸国は同じ地平に立って真にパートナーとしての協力関係を構築しなければならない時代を迎えつつあるともいえる。

以上に述べた情勢変化を見通しながら、わが国の港湾の貴重な経験を生かしつつ、途上国の国づくり、人づくりに貢献できる港湾づくりへの協力を続けていきたいと願っている。(了)

※1 アライアンス(Alliance):配船コストの合理化等を目的とした複数の海運業者による企業提携。

※2 BOT(BuildOperateTransfer):民間企業の資金、建設、運営のノウハウを活用して行なう社会資本整備・公共サービスの提供のための事業手法。民間企業は自らの資金で施設を建設(Build)した後、一定の契約期間を定めて施設を営利目的で運営(Operate)し、期間終了後は施設を公共部門に移管(Transfer)する方式。

※3 コンセッション方式(Concession):民間企業が例えば港湾施設整備に投資を行ない、建設した施設を一定期間運営する権利を公的部門から入手する契約方式。その場合、土地の所有権は民間企業に移さず公的部門が保有するのが一般的。

※4 EDI(ElectronicDataInterchange):例えば港湾施設を利用する際に、必要な各種申請手続きをコンピュータを利用して電子データで迅速に行なうシステム。

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