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オーシャンニューズレター

第608号(2026.08.20発行)

南鳥島レアアースの潜在力と商業化への課題

KEYWORDS 海底探査/レアアース調達/中国依存の解消
笹川平和財団安全保障・日米グループ主任研究員◆小林祐喜

2026年2月、(国研)海洋研究開発機構(JAMSTEC)の科学掘削船が、日本の最東端・南鳥島沖の水深5,700m付近からレアアースを含む泥を回収することに成功した。レアアースについては、採掘や精錬で国際市場を支配する中国が輸出規制を強め、自動車生産の一時停止を余儀なくされるなど影響が広がっている。南鳥島沖でのレアアースの安定採掘に期待が高まるが、本土から遠く離れた離島で、かつ海底約6,000mでの事業は成功するのか。事業化に向けた課題や展望について考察した。
海底6,000m付近からのレアアース回収に成功
2026年2月、(国研)海洋研究開発機構(JAMSTEC)の科学掘削船が水深約5,700mの海底からレアアースを含む泥を回収することに成功した。当事業は内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一環であり、国家事業の色彩を帯びる。
背景にはレアアースの重要性が高まっていることがある。風力発電の大型タービン、電気自動車のモーターなど動力源、ITのデータセンター等におけるデータ装置に使用され、21世紀の国際潮流となっているデジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)双方の実現に欠かせない。さらには、戦闘機、ロケットのエンジンなどにも使われるため、国家安全保障にとって必須である。一方で、採掘や種類ごとに分別する精錬で中国が国際市場を支配し、輸出規制を強めている。とりわけ、高市早苗総理による台湾有事が「わが国にとって存立危機事態になり得る」という2025年末の国会答弁以降、日本への輸出管理が強化され、レアアース供給における中国依存を低減することが喫緊の課題になっている。
南鳥島でのレアアース採掘に期待は高まるが、東京都中心部から2,000km近くも離れた離島沖での採掘で採算性を確保できるのか、など課題も少なくない。本稿では、日本が南鳥島沖のレアアースをどのように活用すべきかを考察する。

■地球深部探査船「ちきゅう」©JAMSTEC/IODP

南鳥島沖に埋蔵するレアアース
レアアースとは、永久磁石など電気的、化学的な特性を有する17種類の元素を指し、うち質量が軽い7種類を軽希土類、重い10種類を中・重希土類と呼ぶ。表に示すように、中国は2025年4月、下記表に示した7種のレアアースについて輸出管理の厳格化を開始したが、いずれも中・重希土類である。航空宇宙産業など安全保障に直結する分野にも必須でより価値が高いことが分かる。軽希土類が世界全体に分布しているのに対し、中・重希土類は中国に偏在し、中国が輸出規制を戦略的に活用できる一因になっている。
南鳥島沖にはジスプロシウム、ネオジム、サマリウム、イットリウム、ガドリニウムなど6種類以上のレアアースを高濃度で含む泥が分布していることが確認されている。中国が輸出規制をかける中・重希土類と重なり、日本にとって価値が高い。
SIPでは10年以上の歳月をかけ、南鳥島近海での希少鉱物探査を行ってきた。第1期(2014~2018年度)、第2期(2018~2022年度)を経て、2023年度からの第3期では、南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)内の水深約6,000mの海底に、産業的規模での開発が可能とみられるレアアースの埋蔵を確認した。今回の回収成功を受け、2027年2月以降、1日当たり350トンのレアアース泥採掘の実証に移行する。

■表 中国が輸出管理を強化したレアアースとその主な用途(出典:筆者作成)

レアアース自給への課題
SIPを着実に進め、実用化を図るには、主に三つの課題を克服しなければならない。まず、レアアースは採掘してすぐに使用できるわけではなく、一つの鉱石や泥に混在するレアアースを種類ごとに分別する精錬が欠かせない。その過程で化学薬品を使用するため、有毒ガス、放射性物質など大量の汚染物質が生成される。この事実は、1980年代までレアアース国際市場を主導していた米国やフランスなど西側諸国が、レアアース事業から撤退、あるいは規模を大幅に縮小する要因になった。日本も高い精錬技術を有しながら、技術の中国移管を進め、結果として、中国は世界におけるレアアース精錬の90%以上を占めるようになった(図参照)。海底泥の場合、有害物質の含有量は少ないと見込まれるが、日本は国内企業の精錬技術を再結集する必要がある。
次に、採算の確保をどう図るかである。推定埋蔵量が産業的規模とはいえ、南鳥島は東京都から1,950kmも離れ、SIP事業での科学掘削船運用には年間で百数十億円、1日当たりに換算すると数千万円のコストがかかる。分別、精錬の工程まで確立できれば、ある程度のコスト削減を図れるが、中国産レアアースとの価格競争には太刀打ちできない。
最後に、その中国への対応である。レアアース分野での自国の優位性が損なわれる懸念から、南鳥島での事業に協力する企業に対し、中国がレアアースの輸出規制をちらつかせ、日本におけるレアアース自給の拡大を阻もうとするおそれは否定できない。
しかしながら、深海でのレアアース採掘は世界に例がなく、経済安全保障上の意義は小さくない。輸出規制など資源や技術を外交手段として武器化する動きに対し耐性を高めるには、代替手段を備えておくことが不可欠である。採掘だけでなく、かつて高い技術を誇った精錬の工程を国内に再構築できれば、代替手段になり得る。中国への極端な依存の解消は、西側諸国にとって共通の課題であり、精錬の工程までを含めた日本の技術が、中国以外のレアアース供給網の整備に寄与することにもなるだろう。

■図 レアアース国別精錬(2023年)(出典:国際エネルギー機関(IEA)“Global Critical Minerals Outlook 2024”を参照に筆者作成)

希少鉱物の安定調達に向けて
レアアースをめぐる国際情勢、南鳥島での展開を踏まえ、日本は何をなすべきか。二つ提案したい。
第一に、南鳥島海域におけるレアアース事業については、採算性や価格競争力から中国依存問題を一気に解決する事業にはなり得ない。過大な期待をかけず、調達多様化の一環と位置づけ、精錬、製品化工程の構築を一歩ずつ進め、輸出規制への耐久力を高めるべきである。2012年の尖閣諸島の国有化などで中国によるレアアースの輸出制限を世界に先駆けて経験した日本は、調達先の多様化を進めてきた。その努力を地道に継続すべきである。
第二に、南鳥島での海底レアアース採掘が事業化に至れば、海洋国家として強みになる。環境への負荷が少ない希少鉱物の採掘技術を確立できれば、島嶼国への技術支援が可能になり、日本にとって有効な外交手段の一つになる。
こうしたことから、南鳥島での取り組みは長期的な視点での意義を認識しながら、国家戦略として進めるべきである。(了)
※参照:石井正一著「日本のレアアース資源確保への挑戦」本誌第596号(2025.08.20発行) https://www.spf.org/opri/newsletter/596_3.html

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