Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第608号(2026.08.20発行)

ホルムズ海峡封鎖に関する国際法上の論点
〜戦時の海洋における国際法の順守と逸脱〜

KEYWORDS 海戦法規/封鎖/機雷敷設
慶應義塾大学SFC研究所上席所員、元海上自衛隊海将補◆中村進

現在のイラン戦争において、イランは国際法を全く無視しており、ロシアやイスラエルと同様に国際法を無価値化させたような論調が多くみられる。しかし、イランの措置を詳細に分析すれば一部に国際法に従おうとする態度も見受けられる。一方の米国についても厳密な国際法から見れば疑問視される措置があるが、何とか国際法との整合を図ろうとする態度が窺える。こうした両国の態度から、秩序維持の基準としての国際法の存在意義を確認する。
ホルムズ海峡で起きていること
2026年2月28日、米国とイスラエルはイランのイスラム革命防衛隊(IRGC)の司令部・拠点、弾道ミサイルや無人機と核の関連施設などを空爆した。この攻撃によって、最高指導者であったハーメネイー師以下のイラン高官も多数死亡した。
この攻撃について、米国は国連憲章に従い国連安保理に「地域における米軍を保護するとともに、ホルムズ海峡(以下、単に「海峡」という)を通じた海上貿易の自由な流通を確保し、地域の同盟国およびパートナーをイランおよびその代理勢力から守るために」、「国連憲章第51条に規定される固有の自衛権を行使し、必要かつ均衡のとれた措置を講じている」と報告している。
一方イランは、攻撃を受けた2月28日から周辺諸国の米軍基地のみならず民間施設やペルシャ湾の商船に無差別攻撃を繰り返すとともに、海峡の通航を禁ずる旨の警告を発出した。この結果、ペルシャ湾の海上交通は事実上停止した。この対応についてイランは、国連安保理に「国連憲章第51条に基づく固有かつ合法的な自衛権を行使する」と報告している。その後何度かの停戦合意が結ばれ一時的な海峡の開放が期待されたが、その都度双方の攻撃の応酬がくり返され海峡の通航が回復することは無かった。6月17日に至り、米国とイランは戦争終結に向けた覚書を発効させた。この覚書は、海峡の通航を再開させるものであり、60日間の協議を経て、その他のほぼ全てについて最終合意に到達することを目指すとされた。しかし、この合意後の6月25日、IRGC海軍は指定航路外の海峡のオマーン湾側を航行中の貨物船が「海峡で無許可の航路を航行した」として攻撃し、その後も同様の商船攻撃を続けた。
イランの商船攻撃に対して、米国は7月7日にホルムズ海峡を航行中の貨物船3隻が襲撃されたことへの報復として、イランの防空システムやレーダー基地など約90カ所の軍事目標を攻撃し、イランも報復としてバーレーンとクウェートの米軍施設85カ所を標的にミサイルと無人機で反撃したと発表した。こうしたさらなる大規模な攻撃の応酬が続く中、8日にトランプ大統領がイランとの協議を白紙化する趣旨の声明を示した後も双方の攻撃の応酬が続き、海峡の開放はまったく見通しが立たなくなった。ペルシャ湾内には、2026年7月現在も数百隻の商船と多数の船員が取り残される状態が続いている。
海戦法規の関連規則
戦時の海洋に適用される国際法である海戦法規は、交戦国の軍事的必要と中立国の通商・航行の自由とのバランスの上に発展してきた。この経緯から、戦時であっても中立国には平時の国連海洋法条約が規定する航行の自由が適用される。したがって、海峡の完全な閉鎖だけでなく、外国船舶の間に差別を設けることや通航のみを理由とするいかなる課徴金も課すことは認められない。また、戦時には国際海峡への機雷の敷設は違法ではないが、安全な航路を設定した上で機雷の危険海域を公表する必要がある。かつて第2次大戦時には英国はドーバー海峡に、日本は宗谷海峡に機雷を敷設したが、いずれも危険海域を公表した上で安全航路を設定していた。
国際法との調和を図る措置
日本のメディアは海峡における米国とイランの措置をすべて「封鎖」としているが、欧米のメディアは米国の措置については、その宣言に基づき海戦法規の「封鎖」である“blockade”を用いているのに対して、イランの措置については一般用語としての“blocked”や“closed”として厳格に用語を区別している。イランも海峡の措置が海戦法規の「封鎖」に該当しないことから終始「封鎖」という表現を避けているようである。このことから国際法との調和を図るイランの意識が窺える。
また当初、イランは海峡において国際法上認められない中国など特定の国の船舶の通航を許可したり、通航料の徴収を主張していた。その後4月17日に至り、イランのアラグチ外相は国際法に従う措置として、海峡北側に安全航路と南側に機雷の危険を警告する「危険区域」(図1)を公表した。そして、停戦期間中は「調整済みの航路において、全ての商業船舶に対して海峡は完全に開放される」と発表した。これにより、17日夜以降、IRGCの管理下で複数の船舶が海峡を通過した。しかし、この措置も翌日にIRGC海軍が米国のイランの港湾に対する封鎖の継続に対抗して再び海峡を閉鎖すると宣言したことで海峡は再び閉ざされた。結果的に措置自体は実を結ばなかったが、17日の開放宣言からはイランが国際法を遵守することの必要性を認識していることが確認できる。
一方の米国は、4月13日から「イランの港を出入りするあらゆる海上交通の封鎖」として、海峡において「イラン以外の港に向かう、またはそこから来る船舶が海峡を通過する航行の自由は妨げない」と宣言した。米国の封鎖は国際海峡のみの封鎖ではなくイランの海岸線全域に封鎖線を引き、その中に海峡が含まれる形をとっている(図2)。この海岸線全域への封鎖は長距離封鎖に当たるという議論の余地もあるが、イランの違法な海峡の通航禁止措置に対する対抗措置としての復仇(ふっきゅう)とすれば正当化されるであろう。
米中央軍は、6月2日時点で封鎖の成果として6隻の商船を無力化し、122隻を迂回させたとしている。

■図1 イラン設定の航路と危険海域のイメージ図(イラン革命防衛隊の公表を基に筆者作成)

■図2 米国の封鎖線のイメージ図(米中央軍の公表を基に筆者作成)

動揺する中での国際法の存在意義
ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ地区での無差別攻撃など、いかなる逸脱も許されない国際法上の強硬規範が公然と蹂躙(じゅうりん)されている現在、国際法の有効性が疑問視されている。こうした中で、イランが行う無差別攻撃や海峡の航行禁止措置などを念頭に、イランの行動も一括して違法視されるようである。しかし、「封鎖」という用語の回避や4月17日の国際法に従った通航指示からは、国際法との整合を図ろうとする姿勢が窺える。米国についても封鎖措置のように明確に合法とまでは言えないが、少なくとも違法と評価されないような措置をとることで国際法上の根拠との調和を図る態度を見てとれる。こうした動きの中から、秩序維持を果たす上での国際法という基準の存在意義が理解できる。(了)

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