Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第607号(2026.07.20発行)
PDF
3.1MB
Z世代と明日の海を語る
~海洋課題をテーマにした教科書を同世代に届ける~
KEYWORDS
海洋教育/中高生/海の教科書
学生団体Blue Campus(高校2年生)◆中島想羽
学校教育の中で海について学ぶ機会は極めて少ない。しかし、同世代の友達に海について話すと意外にも興味を持ってくれる子が多く、海に関心を持つ子どもたちは私たちの他にも確かに存在することを経験を通じて実感した。私たちBlue Campusは、中高生が同世代に向けて「海の教科書」を制作し、届けるという取り組みを通じ、「同世代から同世代へ」という視点で海への接点を生み出そうとしている。原体験からアクションへとつなげる、新たな形の海洋教育に挑戦した。
海が「遠い」と感じる子どもたち
日本は世界有数の海洋国家である。世界6位の面積を持つ管轄海域でさまざまな資源を多面的に利用し、海との深い関わり合いの中でわが国の社会・経済・文化等を築いてきた。にもかかわらず、学校の授業で「海」を正面から学ぶ機会は驚くほど少ない。理科や社会の時間に水や生態系、環境問題を通じて海を断片的に扱うことはあっても、海の美しさ、人間活動がもたらす影響、あるいは海が持つ可能性を総合的に学ぶカリキュラムはほとんど存在しない。
その結果、海に関心を持つ子どもたちは、自力で情報を探すほかない。インターネットや書籍で知識を拾い集めるか、家族や地域との偶然の縁に頼るか、多くのそのどちらでもない子どもたちは、いつのまにか「海に興味はあるが、よく知らない、行動できない」という状態に慣れていく。2024年に初代代表・大沼七奈(当時高校2年生)が設立したBlue Campus(図1)が活動を始めたのは、まさにそのような「潜在的な関心」が、適切なきっかけさえあれば確かなアクションに変わり得るという確信からであった。
Blue Campus※は、中高生を中心とした海洋教育団体である。私たちが大切にしているのは「同世代から同世代へ」というコンセプトだ。専門家や研究者が語る海の知識はもちろん重要だが、小中高生にとって最も届きやすいメッセージは、同じ目線に立つ同世代が自分の言葉で等身大に海を語る体験談や問題意識ではないかと考えている。
私たちが海洋プラスチック問題に初めて触れた時の驚き、フィールドワークでのサンゴの白化を見た時の衝撃、漁師さんとの会話の中で気付いた人間と環境の複雑な関係、留学で出合った世界の海、多様な美しさ、そうした「原体験」を言語化し、同世代の子どもたちに届けることこそが、私たちの原点である。単なる知識の伝達ではなく、関心の連鎖を起こすこと。それがBlue Campusの目指す海洋教育の姿だ。
その結果、海に関心を持つ子どもたちは、自力で情報を探すほかない。インターネットや書籍で知識を拾い集めるか、家族や地域との偶然の縁に頼るか、多くのそのどちらでもない子どもたちは、いつのまにか「海に興味はあるが、よく知らない、行動できない」という状態に慣れていく。2024年に初代代表・大沼七奈(当時高校2年生)が設立したBlue Campus(図1)が活動を始めたのは、まさにそのような「潜在的な関心」が、適切なきっかけさえあれば確かなアクションに変わり得るという確信からであった。
Blue Campus※は、中高生を中心とした海洋教育団体である。私たちが大切にしているのは「同世代から同世代へ」というコンセプトだ。専門家や研究者が語る海の知識はもちろん重要だが、小中高生にとって最も届きやすいメッセージは、同じ目線に立つ同世代が自分の言葉で等身大に海を語る体験談や問題意識ではないかと考えている。
私たちが海洋プラスチック問題に初めて触れた時の驚き、フィールドワークでのサンゴの白化を見た時の衝撃、漁師さんとの会話の中で気付いた人間と環境の複雑な関係、留学で出合った世界の海、多様な美しさ、そうした「原体験」を言語化し、同世代の子どもたちに届けることこそが、私たちの原点である。単なる知識の伝達ではなく、関心の連鎖を起こすこと。それがBlue Campusの目指す海洋教育の姿だ。
■図1 海ぽす甲子園2025でプレゼンをするBlue Campusのメンバー
「教科書」という形を選んだ理由
Blue Campusの中心的なプロジェクトの一つが、子どもたち向けの「海の教科書」の制作である。国内の中高生に向けた『Z世代が明日の海と語ってみた話』(図2)の制作を起点とし、英語版、小学生向けの『君から始まる海の未来』の制作へと幅を広げながら、さまざまな挑戦をしている。
なぜ「教科書」なのか。それは、この形式が持つ唯一の「手の届きやすさ」にある。
設立当初のBlue Campusが計画していた、SNS発信やワークショップは、すでに海に興味のある子どもたちにしか届かない。しかし、教科書は違う。もともと海に興味がなくても、学校や図書館で偶然手に取ることができる。ページをめくっているうちに、何かが心に留まる、違和感を持つ。その心の小さな変化こそが、私たちの目的だ。配布先の学校での学校図書や学級文庫、ワークショップへの活用といった「いつでも手が届く場所に置く」という発想は、能動的な関心を持った子どもだけでなく、まだ関心の芽が出ていない子どもにも届くための手段である。
教科書は、私たち中高生自身の体験や問題意識を基盤とし、海洋をめぐる各種課題について、さまざまな分野の海の専門家へのインタビューを交えて解説する内容とし、制作した。海の生態系、海洋汚染、気候変動との関係、漁業と食、そして海がもたらす文化と歴史、海をできる限り多様な観点から、私たちの実際のアクションも含めて等身大で語ることを意識した。「知識を得る教科書」ではなく「何かを感じて実際の行動へその学びを転移することのできる教科書」を目指している。
教科書は子どもたちそれぞれの海へのアクションの入口に過ぎない。私たちが描く理想は、子どもたちが教科書を読んだ後、自分なりのアクションを起こすことだ。ビーチコーミングでも、友だちへの共有でも、将来の進路の選択でも構わない。大切なのは、「知る」という体験が「動く」という体験につながることである。
私たちBlue Campusのメンバー自身も、かつては「海は好きだけど、何もできない」と感じていた高校生だった。しかし、誰かと話をする中で、何かを読んだ時に、現場に足を運ぶ中で、少しずつ行動できるようになった。その経験から言えるのは、アクションは特別な才能から生まれるのではなく、「きっかけ」と「仲間」と「手の届く情報」から生まれるということだ。また、子どもたちがアクションを起こせば、大人も関心を持ち、自然に手を差し伸べてくれる。
実際に私たちが教科書を制作した際も、さまざまな大人(専門家や漁師、新聞記者、芸人、インフルエンサー、NPO団体)の協力を得て、クラウドファンディングにも多くの人が支援してくれたことによって、教科書を完成させることができた。
私たちの原体験から連鎖したアクションが、子どもたちだけでなく、多くの大人までを巻き込む波へと変わっていった(図3)。
なぜ「教科書」なのか。それは、この形式が持つ唯一の「手の届きやすさ」にある。
設立当初のBlue Campusが計画していた、SNS発信やワークショップは、すでに海に興味のある子どもたちにしか届かない。しかし、教科書は違う。もともと海に興味がなくても、学校や図書館で偶然手に取ることができる。ページをめくっているうちに、何かが心に留まる、違和感を持つ。その心の小さな変化こそが、私たちの目的だ。配布先の学校での学校図書や学級文庫、ワークショップへの活用といった「いつでも手が届く場所に置く」という発想は、能動的な関心を持った子どもだけでなく、まだ関心の芽が出ていない子どもにも届くための手段である。
教科書は、私たち中高生自身の体験や問題意識を基盤とし、海洋をめぐる各種課題について、さまざまな分野の海の専門家へのインタビューを交えて解説する内容とし、制作した。海の生態系、海洋汚染、気候変動との関係、漁業と食、そして海がもたらす文化と歴史、海をできる限り多様な観点から、私たちの実際のアクションも含めて等身大で語ることを意識した。「知識を得る教科書」ではなく「何かを感じて実際の行動へその学びを転移することのできる教科書」を目指している。
教科書は子どもたちそれぞれの海へのアクションの入口に過ぎない。私たちが描く理想は、子どもたちが教科書を読んだ後、自分なりのアクションを起こすことだ。ビーチコーミングでも、友だちへの共有でも、将来の進路の選択でも構わない。大切なのは、「知る」という体験が「動く」という体験につながることである。
私たちBlue Campusのメンバー自身も、かつては「海は好きだけど、何もできない」と感じていた高校生だった。しかし、誰かと話をする中で、何かを読んだ時に、現場に足を運ぶ中で、少しずつ行動できるようになった。その経験から言えるのは、アクションは特別な才能から生まれるのではなく、「きっかけ」と「仲間」と「手の届く情報」から生まれるということだ。また、子どもたちがアクションを起こせば、大人も関心を持ち、自然に手を差し伸べてくれる。
実際に私たちが教科書を制作した際も、さまざまな大人(専門家や漁師、新聞記者、芸人、インフルエンサー、NPO団体)の協力を得て、クラウドファンディングにも多くの人が支援してくれたことによって、教科書を完成させることができた。
私たちの原体験から連鎖したアクションが、子どもたちだけでなく、多くの大人までを巻き込む波へと変わっていった(図3)。
■図2 教科書の表紙とデータ元
■図3 クラウドファンディングの様子
次世代と海の未来を共に考えるために
「Z世代と明日の海を語る」は、私たちの活動そのものへの問いかけでもある。「Z世代」とは誰か。それは今まさに学校で学んでいる子どもたちであり、海洋問題に取り組む学生たちであり、将来の漁業や海洋政策を担う若者たちである。
「明日の海」を語るとき、私たちは現在の海の美しさと危機の双方を直視しなければならない。変化してほしくない美しい海の景色、海から発展した文化、海面水温の上昇、海洋汚染、漁業資源の枯渇、これらの美しさの変化、海の課題は、今この瞬間も進行している。そして、これらの問題を今後引き受けていくのは、子どもたちや若者たちである。
だからこそ、私たちは今すぐ海について「知る」機会を広げなければならない。学校の授業をすぐに変えることは簡単ではない。しかし、学校という場にも溶け込める教科書を1冊作ること、それを1人の子どもに届けること、その子どもが友達に話すことなら、今この瞬間から始められる。
2024年度代表大沼七奈が、2025年度代表片岸拓也(高校3年生)につないだBlue Campusのバトンが、今後もつながれてゆき、その小さな波紋が、より多くの同世代や大人へと届き、大きな波のうねりとなるよう、私たちBlue Campusはアクションを続けていく。
50年後の海を守るのは、未来の誰かじゃない。今を生きる私たちだ。(了)
「明日の海」を語るとき、私たちは現在の海の美しさと危機の双方を直視しなければならない。変化してほしくない美しい海の景色、海から発展した文化、海面水温の上昇、海洋汚染、漁業資源の枯渇、これらの美しさの変化、海の課題は、今この瞬間も進行している。そして、これらの問題を今後引き受けていくのは、子どもたちや若者たちである。
だからこそ、私たちは今すぐ海について「知る」機会を広げなければならない。学校の授業をすぐに変えることは簡単ではない。しかし、学校という場にも溶け込める教科書を1冊作ること、それを1人の子どもに届けること、その子どもが友達に話すことなら、今この瞬間から始められる。
2024年度代表大沼七奈が、2025年度代表片岸拓也(高校3年生)につないだBlue Campusのバトンが、今後もつながれてゆき、その小さな波紋が、より多くの同世代や大人へと届き、大きな波のうねりとなるよう、私たちBlue Campusはアクションを続けていく。
50年後の海を守るのは、未来の誰かじゃない。今を生きる私たちだ。(了)
※ Blue Campus https://note.com/blue_campus/n/n11141d4fe23b
第607号(2026.07.20発行)のその他の記事
- 新たな防災気象情報の運用開始 気象庁大気海洋部気象リスク対策課沿岸防災情報調整官◆川口和哉
- 日本の海難救助の歴史と今後の展望 (公社)日本水難救済会理事長、元・第三管区海上保安本部長◆遠山純司
- 市民と歩む海洋文化遺産プロジェクト 神戸大学大学院海事科学研究科附属国際海事研究センター准教授◆中田達也
- 「拾う」から「社会を変える」へ ~手取川調査から始まった環境探究学習~ 金沢大学附属特別支援学校教諭◆吉岡学
- Z世代と明日の海を語る ~海洋課題をテーマにした教科書を同世代に届ける~ 学生団体Blue Campus(高校2年生)◆中島想羽
- 編集後記 (公財)笹川平和財団海洋政策研究所所長◆牧野光琢
- インフォメーション