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オーシャンニューズレター
第607号(2026.07.20発行)
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日本の海難救助の歴史と今後の展望
KEYWORDS
日本水難救済会/海上保安庁/官民連携
(公社)日本水難救済会理事長、元・第三管区海上保安本部長◆遠山純司
四面を海に囲まれたわが国にとって、海は経済、産業、安全保障上、重要なフィールドとなっている。一方で、わが国周辺海域では、厳しい気象・海象や過密な船舶交通などが原因となって、これまで多くの海難事故が発生してきた。このため、わが国では、事故による教訓に基づき、官民一体となった海難救助体制が確立され、24時間、365日、海で貴い命を救うための対応がなされている。
民間主導によるわが国海難救助体制の設立
1886(明治19)年、紀州沖で英国貨客船ノルマントン号が荒天の中、座礁、沈没した。英国人船長はじめ外国人乗組員はボートで脱出したものの、日本人乗客25名は全員死亡した。「日本人は置き去りにされた」と国内世論は沸騰した。
本件を受け、「海の守り神:金刀比羅宮」の琴陵宥常(ことおかひろつね)宮司は、わが国海難救助制度の必要性を痛感し、海外の制度を調査するなど奔走した結果、「水難救済会」の創立を発起、当時の黒田清隆総理大臣等の賛同を得て、1889(明治22)年3月、わが国初の海難救助組織である「大日本帝国水難救済会」を設立した。同会は、わが国唯一の海難救助組織として、国からの補助金等も得て、海軍、自治体、警察とともに、沿岸部における海難救助に対応していた。
戦後は(公社)日本水難救済会と名称変更し、全国の臨海道府県40カ所に地方組織、その傘下に約1,300の救難所等を設置、民間ボランティア救助員約5万人が海上保安庁等の公的救助機関を補完し、海難救助に従事している。130年以上の歴史の中、救助人命は約20万人、救助船舶は約4万隻に上る。
本件を受け、「海の守り神:金刀比羅宮」の琴陵宥常(ことおかひろつね)宮司は、わが国海難救助制度の必要性を痛感し、海外の制度を調査するなど奔走した結果、「水難救済会」の創立を発起、当時の黒田清隆総理大臣等の賛同を得て、1889(明治22)年3月、わが国初の海難救助組織である「大日本帝国水難救済会」を設立した。同会は、わが国唯一の海難救助組織として、国からの補助金等も得て、海軍、自治体、警察とともに、沿岸部における海難救助に対応していた。
戦後は(公社)日本水難救済会と名称変更し、全国の臨海道府県40カ所に地方組織、その傘下に約1,300の救難所等を設置、民間ボランティア救助員約5万人が海上保安庁等の公的救助機関を補完し、海難救助に従事している。130年以上の歴史の中、救助人命は約20万人、救助船舶は約4万隻に上る。
海上保安庁の設立と海難救助の歴史
敗戦により帝国海軍が解体され、水難救済会も大きなダメージを受け、海難救助体制が機能しなくなった。このため、1948(昭和23)年5月、米国沿岸警備隊を参考に、海上における法執行を含め、わが国における一元的海上保安機関として海上保安庁(以下、海保)が設立された。
高度経済成長に伴い、海上交通は急速に活発化し、有害危険物質や石油を大量に積載した大型船舶が多数航行し、わが国漁船団もはるか沖合で多数操業を行った。そして、しばしば大規模な海難事故が発生し、多くの人命が失われ、大量の石油や有害危険物質が海上に流出した。
これに対応する海保は、船艇、航空機の勢力も不十分で、事故を未然に防止するための法令や船舶交通管制制度も整備されず、また、転覆船船内から要救助者を救助するといった高度な救難技術や、有害危険物質対応のための専門知識・技能も有さなかった。
そして、以下のような苦難の事故対応や海洋をめぐる情勢変化を経て、救難体制が強化されていった。
〇昭和29年~40年代(西暦1954年〜1974年ごろ):大規模な火災、爆発、死亡を伴う衝突事故発生
・消防機能・救難機能強化巡視船配備
・航路内・港内の船舶交通管制機能強化、海上交通センター設立、関係法令制定
・特殊救難隊設立、救難技術高度化
〇昭和50年代~60年代(西暦1975年ごろ〜1989年ごろ):遠距離海難事故発生、わが国領海、捜索・救助担当水域の拡大
・ヘリコプター搭載型大型巡視船等の配備、航空勢力増強
・国際捜索救助体制強化、衛星を用いた遭難情報共有制度開始
〇昭和40年代~平成10年代(西暦1965年ごろ〜2007年ごろ):大規模油流出事故発生
・機動防除隊設立、防除機材配備
・石油、有害危険物質防除の国内体制強化、関連法令制定
このような歴史を踏まえ、海保は、2026(令和8)年4月1日現在、全国11の管区に約130の海上保安部署等を配置し、475隻の船艇、99機の航空機を保有するとともに、特殊救難隊6隊41人、全国10の航空基地に機動救難士90人、さらに全国23隻の巡視船に合計約137人の潜水士を配置し、世界トップレベルの海の救助機関として、「正義・仁愛」の精神を旗印に、日本の海の安全を守っている。
高度経済成長に伴い、海上交通は急速に活発化し、有害危険物質や石油を大量に積載した大型船舶が多数航行し、わが国漁船団もはるか沖合で多数操業を行った。そして、しばしば大規模な海難事故が発生し、多くの人命が失われ、大量の石油や有害危険物質が海上に流出した。
これに対応する海保は、船艇、航空機の勢力も不十分で、事故を未然に防止するための法令や船舶交通管制制度も整備されず、また、転覆船船内から要救助者を救助するといった高度な救難技術や、有害危険物質対応のための専門知識・技能も有さなかった。
そして、以下のような苦難の事故対応や海洋をめぐる情勢変化を経て、救難体制が強化されていった。
〇昭和29年~40年代(西暦1954年〜1974年ごろ):大規模な火災、爆発、死亡を伴う衝突事故発生
・消防機能・救難機能強化巡視船配備
・航路内・港内の船舶交通管制機能強化、海上交通センター設立、関係法令制定
・特殊救難隊設立、救難技術高度化
〇昭和50年代~60年代(西暦1975年ごろ〜1989年ごろ):遠距離海難事故発生、わが国領海、捜索・救助担当水域の拡大
・ヘリコプター搭載型大型巡視船等の配備、航空勢力増強
・国際捜索救助体制強化、衛星を用いた遭難情報共有制度開始
〇昭和40年代~平成10年代(西暦1965年ごろ〜2007年ごろ):大規模油流出事故発生
・機動防除隊設立、防除機材配備
・石油、有害危険物質防除の国内体制強化、関連法令制定
このような歴史を踏まえ、海保は、2026(令和8)年4月1日現在、全国11の管区に約130の海上保安部署等を配置し、475隻の船艇、99機の航空機を保有するとともに、特殊救難隊6隊41人、全国10の航空基地に機動救難士90人、さらに全国23隻の巡視船に合計約137人の潜水士を配置し、世界トップレベルの海の救助機関として、「正義・仁愛」の精神を旗印に、日本の海の安全を守っている。
■第拾雄洋丸衝突爆発事故(1974(昭和49)年11月発生)出典:海上保安庁
日本の海難救助をめぐる課題と展望
2022(令和4)年4月に発生した知床観光船事故では、乗船者26名全員が死亡・行方不明となり、国民に大きな衝撃を与えた。本事故では、運航会社の安全管理体制のずさんさが問題とされ、海保による初動対応の遅れについても指摘された。本件事故対応への教訓も踏まえ、わが国では、海保や水難救済会が中心となって、海難救助体制のさらなる充実・強化が図られている。現状のわが国の海難救助体制の課題と展望は、以下のとおりである。
①初動体制の充実・強化
知床観光船事故では、同海域は、海保航空機が機動救難士を搭乗させて1時間以内に到達する圏外となっていた。このため、事故後、釧路航空基地へのヘリ、機動救難士の増強配備を行うとともに、自衛隊等関係機関とのより迅速な連携が図られた。海難救助は「初動が命」である。今後とも、無操縦者航空機等の最新技術も活用し、初動体制の強化・迅速化を図る必要がある。
②官民の連携強化
広大な海域における事故対応に際しては、海保と他の関係組織との連携が必須となる。消防、警察、自衛隊等の公的機関に加え、日本水難救済会等民間組織との連携は、限られた海保の勢力を補完するうえで極めて重要である。このため、合同訓練の充実化、民間組織への予算支援措置や新たに海保が開発した海難情報共有のためのアプリ※の活用等により、連携を強化していく必要がある。
③救急医療対応能力の強化
わが国では、遥か洋上の船舶内で重篤な傷病者が発生した場合、民間医療機関の医師、看護師、救急救命士が海保等の船舶、航空機に搭乗し現場に臨場したうえ、医療措置を行いながら搬送する「洋上救急」という制度が運用されている。これは、日本水難救済会が運営主体となって1985(昭和60)年に開始された世界で唯一の制度である。今後とも、海保の救急医療技能向上、慣熟訓練の積極的実施等、体制維持・強化を図っていく必要がある。
④マリンレジャー事故予防のための指導者の育成
毎年、マリンレジャー中の事故により、多くの命が失われている。マリンレジャーによる人身事故は、海での人身事故の約4割を占めている。事故防止のためには発生後の「対処法」ではなく、「予防法」の普及が最も重要である。このため、現在、日本水難救済会は、官民が連携し、事故を予防するための正しい知識・技能を全国に普及・定着させる「指導者の育成」に取り組んでいる。本件は、海洋国家日本の将来を担う多くの若人に安全に海の魅力を伝えるため、極めて重要な課題であると言える。(了)
①初動体制の充実・強化
知床観光船事故では、同海域は、海保航空機が機動救難士を搭乗させて1時間以内に到達する圏外となっていた。このため、事故後、釧路航空基地へのヘリ、機動救難士の増強配備を行うとともに、自衛隊等関係機関とのより迅速な連携が図られた。海難救助は「初動が命」である。今後とも、無操縦者航空機等の最新技術も活用し、初動体制の強化・迅速化を図る必要がある。
②官民の連携強化
広大な海域における事故対応に際しては、海保と他の関係組織との連携が必須となる。消防、警察、自衛隊等の公的機関に加え、日本水難救済会等民間組織との連携は、限られた海保の勢力を補完するうえで極めて重要である。このため、合同訓練の充実化、民間組織への予算支援措置や新たに海保が開発した海難情報共有のためのアプリ※の活用等により、連携を強化していく必要がある。
③救急医療対応能力の強化
わが国では、遥か洋上の船舶内で重篤な傷病者が発生した場合、民間医療機関の医師、看護師、救急救命士が海保等の船舶、航空機に搭乗し現場に臨場したうえ、医療措置を行いながら搬送する「洋上救急」という制度が運用されている。これは、日本水難救済会が運営主体となって1985(昭和60)年に開始された世界で唯一の制度である。今後とも、海保の救急医療技能向上、慣熟訓練の積極的実施等、体制維持・強化を図っていく必要がある。
④マリンレジャー事故予防のための指導者の育成
毎年、マリンレジャー中の事故により、多くの命が失われている。マリンレジャーによる人身事故は、海での人身事故の約4割を占めている。事故防止のためには発生後の「対処法」ではなく、「予防法」の普及が最も重要である。このため、現在、日本水難救済会は、官民が連携し、事故を予防するための正しい知識・技能を全国に普及・定着させる「指導者の育成」に取り組んでいる。本件は、海洋国家日本の将来を担う多くの若人に安全に海の魅力を伝えるため、極めて重要な課題であると言える。(了)
■乗揚げた漁船からの救助活動(2024(令和6)年3月発生)出典:海上保安庁
※ 海上保安庁>官民連携救助アプリの運用開始 https://www.kaiho.mlit.go.jp/info/kouhou/post-1296.html
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