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オーシャンニューズレター

第59号(2003.01.20発行)

第59号(2003.01.20 発行)

新しい漁港漁場整備法と沿岸域管理

水産庁漁港漁場整備部長◆長野 章

わが国の水産業の基本理念と施策の方向を示し、水産基盤整備に関する個別施策を規定した水産基本法と漁港漁場整備法は2001年6月に策定された。またこれら2法に基づき水産基本計画と漁港漁場整備計画が2002年3月に閣議決定された。漁港、漁場、漁村から見た新しいわが国沿岸域の管理がはじまったが、その成果の可否は漁業者と地域とそれらに係わる人たちに委ねられている。

1.はじめに

2001年6月22日に漁港漁場整備法は水産基本法と共に成立し、翌2002年3月26日にはこれら2法に基づき、水産基本計画と漁港漁場整備長期計画が閣議決定された。

わが国の水産業の基本理念と施策の方向を示したものが水産基本法であり、それら理念を実現するために水産基盤(漁港、漁場)整備の具体的な施策の規定をしたものが漁港漁場整備法である。漁港法から漁港漁場整備法に改正されたことにより、漁港は漁船を通じて陸域と海域との結節点としての役割から、漁港、漁場及び漁村と一体となって沿岸域の高度利用を図る場に変化した。

なぜ旧漁港法を改正して、漁港漁場整備法としなければならなかったか、漁港漁場整備法により具体的に何が生まれたか、さらに漁港漁場整備法と沿岸域管理の関係について述べる。

2.なぜ漁港法から漁港漁場整備法になったか?

1950年に成立した旧漁港法では国が漁港の整備計画を策定する制度で、沿岸から沖合へそして遠洋漁業へと発展する過程において、漁港は漁船を安全に係留し、漁場への出漁を容易にし、さらに漁獲物を迅速に消費地へ送る役割をもっていた。したがって、漁港整備への要請は漁船隻数増大と大型化から生まれるもので、この要請に応えることは、国民に動物性タンパク食料としての水産物を供給することと同じ意味であった。

現在、水産物の安定的供給が要請されているが、遠洋沖合漁業を対象とする大型船及び沿岸漁業の漁船は減少の一途を辿っている。また漁業就業者数は高齢化を伴いながら減少しており、水産業は水産物を国民に安定的に供給する役割を果たせなくなっている。

以上のことを考えるなら、漁船を介して陸域と沿岸域の結節点という従来の漁港の概念では、水産物の安定供給という役割は果たせないことは明白である。もし増え続ける漁船を考えるなら、国が整備する港を選別整備することにより、各地方で共通の水産資源を平等に利用するという施策もあったかもしれない。しかし、全国の各地に散在する漁村が水産資源を保全、回復し、地域資源を利用し活力を取り戻すためには、国と地方の適正な役割分担のもとで、漁港、漁場、漁村を一体的に計画し、整備する地方分権化に進む必要があった。

3.漁港漁場整備法により具体的に何が生まれたか?

今回の新しい漁港漁場整備法は、漁港、漁場、漁村を水産資源の増殖から漁獲、陸揚げ流通加工まで一貫した水産物流通システムとして捉えている。それらを総合的に効率的に行うには次の4点の理由から、国は漁港漁場整備の基本方針と整備目標の目安としての長期計画を定めるにとどめ、漁港漁場整備事業の計画は各地方公共団体が定め、国に届け出る事にしている。なお、国及び地方公共団体においても、それらの計画策定時には内容に透明性と客観性を持たせるため、国においては審議会・公聴会からの意見を求め、地方公共団体においては地域住民への公告縦覧を行い意見書を提出できる制度となっている。

  1. 漁業と地域の振興は総合的な施策と地域の活動により実現し、それら各種の施策の必要性は実情を熟知している地域が行うべきである。
  2. 漁港及び沿岸域の利用は多様化しており、その利用計画は地域によりなされるべきである。
  3. 漁業と地域振興の問題は多岐に渡り解決の手法と手順は地域のコンセンサスを必要とする。
  4. 他産業を含め水産業と生活の機能分担は地域においても広域化しており、その分担の決定は地域と国が適正な分担をもとに行う必要がある。

2002年3月に水産基本計画と漁港漁場整備長期計画が策定された。漁港漁場整備長期計画では、従来の公共事業長期計画と異なり、水産業の構造改革計画と位置づけられ、流通加工の高度化、増産漁獲量の設定、環境の向上の指標となる下水処理率の設定などアウトカム目標に重点をおき、投資額の明記がなされなかった。そして水産基本計画との一体性が重視され漁場、漁港、漁村を通じて水産基本計画と相互に連携をもったものになっている(図1)。

■図1 水産基本計画と漁港漁場整備長期計画
水産基本計画と漁場整備長期計画のイメージ

4.わが国沿岸域管理と漁港漁場整備法

水産施策から見たわが国沿岸域のあり方は、水産基本法とそれに基づく水産基本計画に集約できる。すなわち水産基本計画では水産物の安定供給と水産業の健全な発展という水産基本法の2つの基本理念を達成するための施策を計画的に講じ、水産物の自給率目標を設定するものである。10年後の2012年の魚介類生産目標を趨勢値から114万トン増加し、自給率を66%にするというものである。また水産業の健全な発展の重要な構成要素である漁業就業者と漁村についても参考資料としてその展望が設定されている。これら水産基本計画に関する事は、資源の回復手法や漁村の振興方策などどれをとっても逐一、漁港、漁場、漁村を通じておこなう沿岸域管理と言うことができる。

沿岸域管理という観点からみると、新しい漁港漁場整備法により、漁港だけを点として利用管理することから、沿岸域に広がる漁港、漁場、漁村を一体的に場として捉えることに変わった。整備単位も港数でなく、一体となる複数の漁港と漁場と漁村を一地区として捉える地区数が用いられている。これらのことは全国沿岸に存在する655の漁業協同組合(2002年度末)の合併及び産地市場の再編統合と呼応したものである。

5.おわりに

地方分権推進に端を発した新しい漁港漁場整備法の策定は、水産基本法の策定と相まって、漁港、漁場、漁村を通じて見たわが国沿岸域管理の方向と枠組みを示したものである。これはあくまで枠組みであり、これらの中身がどうなるかは、まさに地方分権で地方の主体性にゆだねられている。水産基本計画の自給率目標及び漁港漁場整備長期計画のアウトカム目標は、漁業者と地域と沿岸域に係わる人々による主体的な取り組みがあってはじめて達成できるものである。(了)

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