Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第597号(2025.09.20発行)
PDF
2.4MB
アフリカ南部の脱炭素化の取り組み
KEYWORDS
アフリカ/海運/再生可能エネルギー
南アフリカ国際海事研究所戦略プロジェクト・国際化担当ディレクター◆Nwabisa MATOTI
ナミビア、アンゴラ、モザンビーク、南アといったアフリカ南部諸国は、代替燃料と再生エネルギーへの移行策を進めている。脱炭素化への道のりは、化石燃料に大きく依存してきたアフリカ諸国にとってインフラ・資金・合意形成など多くの課題を伴い、アフリカと他地域の国際連携が気候変動緩和の鍵となる。
世界的な脱炭素化の潮流
気候変動への危機感から各国は排出削減を加速させている一方で、国連持続可能な開発目標の「SDG7:エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」の達成にも努めている。気候変動は、異常気象の頻発、海洋酸性化、海水温上昇を招き、海洋生物・食料安全保障・生物多様性に悪影響を与え、経済成長を阻害している。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)とパリ協定はこうした課題を明確にし、各国に脱炭素化の道筋を示すよう求めた。温暖化を2100年までに2℃以下に抑えるには、あらゆる部門で温室効果ガス(GHG)排出をネットゼロまで減らす必要がある。化石燃料から太陽光・風力・蓄電、水素・アンモニア・LNG・メタノールへの転換が急務であり、港湾は、これら代替燃料を供給するインフラや国際的な生産・輸出入ハブの整備で、海運部門の脱炭素化を支える。
アフリカ南部における海事分野の脱炭素化
2023年9月ナイロビ会議の「アフリカ首脳気候変動宣言」では、再生可能エネルギー(再エネ)導入によるGHG削減への意欲を示し、世界の開発パートナーに対して技術・資金支援を呼びかけた。アフリカは太陽光・風力・水力・バイオマスなど豊かな再生可能資源に恵まれ、世界の低炭素エネルギー転換で重要な役割を担える立場にある。しかし大陸全体では発電能力とインフラが不足しており、化石燃料と再エネの両方に膨大な未開発資源があるにもかかわらずエネルギー供給の約71%を化石燃料が占め、移行加速が急務である。
南アフリカ共和国(南ア)は、可採石炭埋蔵量が世界第5位で、一次エネルギー供給の74%、発電の87%を石炭に依存するとともに、世界的な石炭需要減と規制強化に直面する。失業率の高さと深刻な貧困を抱える同国にとって、再エネへの転換は、化石燃料依存の低減、レジリエンス向上、長期的なエネルギー安全保障強化の好機でもある。エネルギーミックスを多様化すれば、アフリカ諸国は石油・ガス輸入に伴う地政学的・市場的変動への脆弱性を下げられる。再エネが経済機会や雇用を生み、特に農村などサービスが行き届かない地域の生活水準を向上させる。移行の遅れは、部門横断的な脱炭素目標の達成を妨げる恐れがある。
海洋経済の観点で見ると、アフリカは約3万kmに及ぶ長大な海岸線を有する。一方、水力発電は現在、アフリカの発電量の約17%を占め、コンゴ民主共和国、エチオピア、マラウイ、モザンビーク、ウガンダ、ザンビアなどでは電力需要の80%以上を水力で賄っている。しかし、サハラ以南のアフリカは西に大西洋、東にインド洋という二つの海に囲まれているにもかかわらず、海洋再エネの検討はほとんど進んでいない。アフリカの海洋経済で重要な役割を果たすのは海上輸送であり、さまざまな船隊が従来型燃料を使うことによって大気汚染などの悪影響をもたらしている。海上輸送は単位トン当たりのコストが低く、長距離輸送でも効率的であるものの、船舶からのGHG排出は全体の2.2%を占め、国際貨物量の増加に伴い、2050年までに50〜250%増加が見込まれる。
海運分野では、「船舶による汚染の防止のための国際条約(MARPOL)」が国際海事機関(IMO)によって制定され、アフリカ17カ国を含む170カ国超が参加している。2023年7月、IMOは国際海運のGHG排出を2050年前後までにネットゼロ(正味ゼロ)にするという「歴史的な目標」を採択した。二酸化炭素排出量の85%を占める総トン数5,000トン以上の船舶に対し、燃料使用量の年次報告を義務づける。ゼロエミッション燃料とは、重油と比べて「Well-to-Wake(生産井から航跡(航海)まで)」でGHG排出を80%以上削減する燃料を指し、アンモニア、メタノール、水素、バッテリー、バイオ燃料、液化天然ガス(LNG)などに加え、カーボンオフセットや効率向上策も選択肢に含む。
ナミビア、アンゴラ、モザンビーク、南アといったアフリカ南部諸国は、代替燃料と再エネへの移行策を進めている。ナミビアは2022年に「グリーン水素および誘導体戦略」で2050年までに年間1,000万〜1,200万トンの水素等価量生産を目指し、国内利用と輸出のための大規模グリーン(再エネ由来)燃料産業を育成中である。これにより、年間100万トンのグリーンアンモニア生産を目指すハイフェン(Hyphen)プロジェクトなど複数の大型事業が進行しており、2030年までに再エネ分野で直接雇用8万5,000人、間接雇用6万人を創出する計画である。
アンゴラは再エネ計画を通じて、風力・太陽光・水力を中心としたクリーン電源への移行を進め、2027年までに電源構成に占める再エネ比率を73%に引き上げる目標を掲げる。モザンビークは長期エネルギー戦略の一環として再エネ拡大を約束し、2040年までに太陽光と風力を電力ミックスの20%とする方針である。
南アは、「公正なエネルギー移行プログラム(JET)」でパリ協定のNDC達成に必要な投資を示し、脱炭素化を進めている。加えて、部門別排出目標や炭素排出許容総量(カーボンバジェット)、国家排出削減の道筋を定める気候変動法を整備し、化石燃料燃焼、製品使用、石炭採掘などの逸散(fugitive)排出、産業プロセス由来排出を対象とする炭素税を導入した。さらに、再エネバリューチェーンでの新たな製造業育成、雇用創出と投資誘致に軸足を置く「再生可能エネルギー・マスタープラン」を策定した。南アはMARPOL条約批准国であり、2023年のIMO GHG戦略に対応する国家行動計画を最終化中である。移行施策の一環として、港湾沿岸部を含む国内各地でグリーン水素の生産・インフラ整備など複数の再エネプロジェクトを実施しており、これらの取り組みはアフリカ南部全体が気候変動緩和に向けて経済の脱炭素化を進めていることを示している。
南アフリカ共和国(南ア)は、可採石炭埋蔵量が世界第5位で、一次エネルギー供給の74%、発電の87%を石炭に依存するとともに、世界的な石炭需要減と規制強化に直面する。失業率の高さと深刻な貧困を抱える同国にとって、再エネへの転換は、化石燃料依存の低減、レジリエンス向上、長期的なエネルギー安全保障強化の好機でもある。エネルギーミックスを多様化すれば、アフリカ諸国は石油・ガス輸入に伴う地政学的・市場的変動への脆弱性を下げられる。再エネが経済機会や雇用を生み、特に農村などサービスが行き届かない地域の生活水準を向上させる。移行の遅れは、部門横断的な脱炭素目標の達成を妨げる恐れがある。
海洋経済の観点で見ると、アフリカは約3万kmに及ぶ長大な海岸線を有する。一方、水力発電は現在、アフリカの発電量の約17%を占め、コンゴ民主共和国、エチオピア、マラウイ、モザンビーク、ウガンダ、ザンビアなどでは電力需要の80%以上を水力で賄っている。しかし、サハラ以南のアフリカは西に大西洋、東にインド洋という二つの海に囲まれているにもかかわらず、海洋再エネの検討はほとんど進んでいない。アフリカの海洋経済で重要な役割を果たすのは海上輸送であり、さまざまな船隊が従来型燃料を使うことによって大気汚染などの悪影響をもたらしている。海上輸送は単位トン当たりのコストが低く、長距離輸送でも効率的であるものの、船舶からのGHG排出は全体の2.2%を占め、国際貨物量の増加に伴い、2050年までに50〜250%増加が見込まれる。
海運分野では、「船舶による汚染の防止のための国際条約(MARPOL)」が国際海事機関(IMO)によって制定され、アフリカ17カ国を含む170カ国超が参加している。2023年7月、IMOは国際海運のGHG排出を2050年前後までにネットゼロ(正味ゼロ)にするという「歴史的な目標」を採択した。二酸化炭素排出量の85%を占める総トン数5,000トン以上の船舶に対し、燃料使用量の年次報告を義務づける。ゼロエミッション燃料とは、重油と比べて「Well-to-Wake(生産井から航跡(航海)まで)」でGHG排出を80%以上削減する燃料を指し、アンモニア、メタノール、水素、バッテリー、バイオ燃料、液化天然ガス(LNG)などに加え、カーボンオフセットや効率向上策も選択肢に含む。
ナミビア、アンゴラ、モザンビーク、南アといったアフリカ南部諸国は、代替燃料と再エネへの移行策を進めている。ナミビアは2022年に「グリーン水素および誘導体戦略」で2050年までに年間1,000万〜1,200万トンの水素等価量生産を目指し、国内利用と輸出のための大規模グリーン(再エネ由来)燃料産業を育成中である。これにより、年間100万トンのグリーンアンモニア生産を目指すハイフェン(Hyphen)プロジェクトなど複数の大型事業が進行しており、2030年までに再エネ分野で直接雇用8万5,000人、間接雇用6万人を創出する計画である。
アンゴラは再エネ計画を通じて、風力・太陽光・水力を中心としたクリーン電源への移行を進め、2027年までに電源構成に占める再エネ比率を73%に引き上げる目標を掲げる。モザンビークは長期エネルギー戦略の一環として再エネ拡大を約束し、2040年までに太陽光と風力を電力ミックスの20%とする方針である。
南アは、「公正なエネルギー移行プログラム(JET)」でパリ協定のNDC達成に必要な投資を示し、脱炭素化を進めている。加えて、部門別排出目標や炭素排出許容総量(カーボンバジェット)、国家排出削減の道筋を定める気候変動法を整備し、化石燃料燃焼、製品使用、石炭採掘などの逸散(fugitive)排出、産業プロセス由来排出を対象とする炭素税を導入した。さらに、再エネバリューチェーンでの新たな製造業育成、雇用創出と投資誘致に軸足を置く「再生可能エネルギー・マスタープラン」を策定した。南アはMARPOL条約批准国であり、2023年のIMO GHG戦略に対応する国家行動計画を最終化中である。移行施策の一環として、港湾沿岸部を含む国内各地でグリーン水素の生産・インフラ整備など複数の再エネプロジェクトを実施しており、これらの取り組みはアフリカ南部全体が気候変動緩和に向けて経済の脱炭素化を進めていることを示している。

ケープタウン港
課題と機会
脱炭素化への道のりは、化石燃料に大きく依存してきたアフリカ諸国にとって多くの課題を伴う(表)。
気候変動の悪影響を抑えるには、あらゆる部門で脱炭素化を進めることが不可欠である。アフリカ南部を含む多くの国で炭素排出削減のための努力が続いているが、再エネや代替燃料プロジェクトを円滑に進めるには、前述の課題へ一層取り組む必要がある。低排出型への移行には、政治・産業界・市民社会の広範な支持とコミットメントが求められる。研究、資金、技術、能力開発のニーズを満たすため、アフリカと他地域が連携し、効果的なパートナーシップを築くことが気候変動緩和の鍵となる。(了)
気候変動の悪影響を抑えるには、あらゆる部門で脱炭素化を進めることが不可欠である。アフリカ南部を含む多くの国で炭素排出削減のための努力が続いているが、再エネや代替燃料プロジェクトを円滑に進めるには、前述の課題へ一層取り組む必要がある。低排出型への移行には、政治・産業界・市民社会の広範な支持とコミットメントが求められる。研究、資金、技術、能力開発のニーズを満たすため、アフリカと他地域が連携し、効果的なパートナーシップを築くことが気候変動緩和の鍵となる。(了)

■表 課題と機会
●本稿は、英語の原文を翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。 https://www.spf.org/en/opri/newsletter/
第597号(2025.09.20発行)のその他の記事
- アフリカ開発会議と持続可能なブルーエコノミー 笹川平和財団上席研究員◆小林正典
- アフリカ南部の脱炭素化の取り組み 南アフリカ国際海事研究所戦略プロジェクト・国際化担当ディレクター◆Nwabisa MATOTI
- 西インド洋(WIO)の海洋食料危機回避に向けた協調 ネルソン・マンデラ大学(南アフリカ共和国)/サウサンプトン大学(英国)教授◆Michael ROBERTS
- セネガルにおけるJICA水産事業の軌跡とこれから 元JICA経済開発部農業・農村開発第一グループ第二チーム ジュニア専門員◆石井潤
- マダガスカルにおける環境意識の高まり 国立民族学博物館教授◆飯田卓
- 事務局だより 瀬戸内千代
- インフォメーション 第18回海洋立国推進功労者表彰