Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第585号(2024.12.20発行)

事務局だより

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所主任◆藤井麻衣

◆本号では海ごみに関する記事を4本掲載しました。先月末から今月初めまで韓国・釜山で開催されたプラスチック条約交渉のための第5回政府間会議(INC-5)は、もともと海ごみ問題が顕在化したことを発端として設立されました。当初設定された交渉期限を迎えた今回、残念ながら妥結には至りませんでしたが、来年以降の交渉継続は合意されました。最新版の交渉文書を見ると、生産規制への踏み込み等、いまだ多数の意見対立が解消されないまま残っており、妥結までの道のりは険しそうです。
◆宇山氏の記事では、軽さなどプラスチックの特徴について冒頭で分かりやすく解説されています。便利さゆえ私たちの日常に根ざしたさまざまなプラスチック製品、その多くは環境中で分解せず、やがて海洋に流出して社会問題化している―この問題意識の下、筆者は「海洋生分解性バイオマスプラスチック(MBBP)開発プラットフォーム」を設立し、熱可塑性デンプンに生分解性プラスチックをブレンドして自在な成形を可能とするMBBPの開発を目指されています。
◆池上氏は、北極海に浮遊するマイクロプラスチック(MPs)を海洋地球研究船「みらい」で観測されました。それによると、太平洋側北極海にはベーリング海峡を通じて太平洋起源の海水が流入し、年間420tの粒形0.3mm以上のMPs(LMPs)が含まれます。そのうちLMPsとして浮遊するのは約373tに過ぎず、残りの多くは海底堆積物、そして海氷に貯蔵され、さらに大西洋側北極海(太平洋側に比べてLMPs存在量が6~30倍)に輸送されていると考えられます。海洋プラスチック循環のさらなる解明には、北極海と外部の間の移動量がより明らかになることが不可欠と述べられています。
◆環境省の藤岡氏からは、国際的にプラごみ対策を進める基盤として、世界的な科学的知見の共有・比較可能なデータの蓄積が重要との認識の下、同省が本年5月に公表した海洋表層プラスチックデータベース「Atlas of Ocean Microplastic(通称:AOMI=青海)」をご紹介いただきました。他国のデーターベースとの連携もはかりつつ、AOMIがそのような知見・データ共有の要となることを期待します。
◆最後の記事で磯部氏は、市街地の水路から海へごみが流出している状況を丹念に描写し、流域管理の重要性を指摘されました。海ごみの約80%は陸域由来です。道路やごみ集積場のごみが水路に入り、河川に流出し、やがて海に流れ出ます。水路のごみは市町村が責任をもって回収しなければならないとしたうえで、河川を管理する国・都道府県と連携して管理する重要性を説かれています。
◆この4本の記事は、海ごみ対策において、さらなる研究・技術開発、科学的知見・データの蓄積・共有、環境に残り続けるプラスチックの生産抑制、海への流出防止といったさまざまな観点での取り組みが必要であることを示しています。プラスチック条約においても、さまざまな課題を念頭に、今後、建設的な議論が続けられることを願うとともに、当研究所でもその動向を見守ってまいります。(主任 藤井麻衣)

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