Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第585号(2024.12.20発行)
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市街地の水路と海ごみ問題
KEYWORDS
海洋プラスチック問題/管理責任/流域管理
元日本福祉大学教授、元放送大学客員教授◆磯部 作
海ごみの約80%は陸域から海に流出している。
河川流域全体でごみの流出防止対策が必要だが、とりわけ、人口が多く、ごみの発生が多い市街地を流れる河川や用水路などの水路のごみについては、水路の管理者の責任が問われる。
SDGsのうち海ごみなど海洋汚染の大幅削減に特化したターゲットは2025年目標であり、早急に取り組まなければならない。
河川流域全体でごみの流出防止対策が必要だが、とりわけ、人口が多く、ごみの発生が多い市街地を流れる河川や用水路などの水路のごみについては、水路の管理者の責任が問われる。
SDGsのうち海ごみなど海洋汚染の大幅削減に特化したターゲットは2025年目標であり、早急に取り組まなければならない。
海ごみ問題の解決に向けて陸域からの流出防止を
近年、プラスチックなどの海ごみが重大な問題になってきている。筆者がアドバイザーとして実施した香川県の調査で、香川県海域の海ごみの78.3%が陸域からの流出であったように、海ごみの約80%は陸域由来である。このため海ごみ問題の解決には、河川流域全体で、ごみの流出を防止することが重要だ。とりわけ、人口が多く、ごみの発生が多い市街地を流れる河川や用水路での流出防止対策を、水路の管理者が責任をもって行う必要がある。
水路のごみ問題の状況と対策
高度経済成長期以前の水路は、市街地においても住民が日常的に利用できるきれいな状況であった。しかし、高度経済成長期以後は、都市化が進展し、石油化学工業が発達してプラスチック製品が大量に生産、使用される中で、水質汚濁などとともにごみが問題になっていった。近年、水路では、トレイやポリ袋、ペットボトルなどのプラスチック製品を中心に缶などのごみが重大な問題となっている。市街地を流れる水路には、周辺の道路などに落とされたり、捨てられたりしたごみも風や雨などによって入るが、水路の上や周辺に設置されたごみ集積場や自販機などに起因するとみられるごみも多い。とりわけ、ネットを被せるだけのごみ集積場などの場合は、カラスなどによって荒らされ、散乱したごみが水路に入っている(図1)。水路のごみは、増水時などには接続する河川に流出し、やがて海に流出する。このため、水路にごみが入るのを防ぐとともに水路にあるごみを回収することが重要である。
水路へのごみの流入などを防ぐには、ごみの集積場の構造をカラスなどに荒らされないように整備することなどが必要である。水路のごみ回収は、水路が河川に比べて幅が狭い所が多いうえ、水門や樋門などがあるため、そこでごみを回収することが容易であり、さらに、水路にオイルフェンスやネットを張ってのごみの回収も可能である(図2、図3)。特に、水門や樋門などには除塵機を設置している所もあり、それを利用してごみが回収できる。水路のごみの回収にあたっては、水路の状況や、水路周辺の人口や産業の状況、ごみの集積場の構造などの条件により、ごみの溜まりやすい場所やごみの量などが異なることを考慮する必要がある。また、市街地の周辺に水田がある場合は、水路の流量が田植え時期などに多く、草が繁茂しているとごみの回収が困難なことなどを考慮して、季節的には、水量が少なく、草が繁茂していない晩秋から春先にかけてごみ回収を行うことが効果的である。また、台風などで大雨が予想される前に水路や河川などのごみ回収を実施すればごみの流出を大幅に削減することができる。さらに、干拓地が多く、用水路の総延長が岡山市と倉敷市で約6,000㎞もある岡山平野のような低平な地域では、水路の高度差がほとんどないため、風によってごみが吹き寄せられることなどを考慮して水路のごみの回収をする必要がある。
水路へのごみの流入などを防ぐには、ごみの集積場の構造をカラスなどに荒らされないように整備することなどが必要である。水路のごみ回収は、水路が河川に比べて幅が狭い所が多いうえ、水門や樋門などがあるため、そこでごみを回収することが容易であり、さらに、水路にオイルフェンスやネットを張ってのごみの回収も可能である(図2、図3)。特に、水門や樋門などには除塵機を設置している所もあり、それを利用してごみが回収できる。水路のごみの回収にあたっては、水路の状況や、水路周辺の人口や産業の状況、ごみの集積場の構造などの条件により、ごみの溜まりやすい場所やごみの量などが異なることを考慮する必要がある。また、市街地の周辺に水田がある場合は、水路の流量が田植え時期などに多く、草が繁茂しているとごみの回収が困難なことなどを考慮して、季節的には、水量が少なく、草が繁茂していない晩秋から春先にかけてごみ回収を行うことが効果的である。また、台風などで大雨が予想される前に水路や河川などのごみ回収を実施すればごみの流出を大幅に削減することができる。さらに、干拓地が多く、用水路の総延長が岡山市と倉敷市で約6,000㎞もある岡山平野のような低平な地域では、水路の高度差がほとんどないため、風によってごみが吹き寄せられることなどを考慮して水路のごみの回収をする必要がある。

図1 岡山市内の西川用水、ネットのごみ集積場でカラスがごみを散乱(2020.3.12.筆者撮影)

図2 岡山市内の西川用水下流、オイルフェンスと除塵機でごみを回収(2019.6.5.筆者撮影)

図3 岡山市内西部の用水路でのネットによるごみの回収調査。この量が1週間で溜まった(2021.1.27.筆者撮影)
水路のごみの回収は管理責任と連携で
水路や河川の管理について、以前は、管理者が水は管理しているがごみは対象外という意見が多かった。しかし近年ではごみも管理対象にするようになってきている。瀬戸内海環境保全特別措置法では、2021年の改正で、国と地方公共団体の責務として海洋プラスチックごみを含む漂流ごみ等の除去・発生抑制等の対策を連携して行う旨を規定している。水路は、準用河川※1や普通河川とともに基礎自治体の市町村が管理しているため、水路のごみは、市町村が責任をもって回収しなければならない。ただ、水路が複数の市町村を流れている場合もあり、水路が流入する一級河川は国土交通省、二級河川は都道府県が管理しているため、水路につながる河川の上流域から下流域まで、水の利用区域も含めた流域全体で、市町村と国や都道府県などが連携して管理することが重要である。2021年に流域治水関連法が成立したが、河川や水路などのごみは洪水時に海に大量に流出するため、「流域治水」とともに、洪水が影響する沿岸海域も含めてごみ問題を含めた「流域管理」が重要であることを、衆議院国土交通委員会で「流域治水関連法案」の参考人として筆者は述べた。
また、農業用水路は日常的には土地改良区などによって維持管理、利用されており、水路周辺には住民が居住し、企業などもあるため、土地改良区や住民、企業などと連携して、ごみの回収などを行うことが求められる。ただ、住民などには水路のごみの回収責任はないだけに、水路の管理者の行政が責任をもつことが重要である。特に水路周辺が市街地化している地域では、農家が減少しているため、ごみの回収には住民やボランティアなどの参加が必要であり、資金面も含めて回収条件の整備や回収用具の準備、回収したごみの処理を管理者が行う必要がある。水路などのごみ回収に協力的な住民やボランティアなどが、許可を取るために多くの役所などを回ることを強いられる現状は改めなければならない。二級河川の笹ヶ瀬川が流れる岡山市尾上では、町内会の住民が日常的に河川や水路周辺のごみを回収しており、ごみはほとんどなくなっている。また、岡山市内の水路では、中高校生も参加したボランティアなどが、日本財団と岡山、広島、香川、愛媛県による「瀬戸内オーシャンズX」※2の支援なども受けて水路のごみを回収している。笹ヶ瀬川は岡山県の管理下にあり、そこで住民が回収したごみの処理が問題になっていたが、2023年度からは岡山市がごみ処理をするために岡山県が費用負担をするようになっている。
また、農業用水路は日常的には土地改良区などによって維持管理、利用されており、水路周辺には住民が居住し、企業などもあるため、土地改良区や住民、企業などと連携して、ごみの回収などを行うことが求められる。ただ、住民などには水路のごみの回収責任はないだけに、水路の管理者の行政が責任をもつことが重要である。特に水路周辺が市街地化している地域では、農家が減少しているため、ごみの回収には住民やボランティアなどの参加が必要であり、資金面も含めて回収条件の整備や回収用具の準備、回収したごみの処理を管理者が行う必要がある。水路などのごみ回収に協力的な住民やボランティアなどが、許可を取るために多くの役所などを回ることを強いられる現状は改めなければならない。二級河川の笹ヶ瀬川が流れる岡山市尾上では、町内会の住民が日常的に河川や水路周辺のごみを回収しており、ごみはほとんどなくなっている。また、岡山市内の水路では、中高校生も参加したボランティアなどが、日本財団と岡山、広島、香川、愛媛県による「瀬戸内オーシャンズX」※2の支援なども受けて水路のごみを回収している。笹ヶ瀬川は岡山県の管理下にあり、そこで住民が回収したごみの処理が問題になっていたが、2023年度からは岡山市がごみ処理をするために岡山県が費用負担をするようになっている。
SDGsの2025年ターゲット達成のために
日本国内では河川下流の水路の発達した沖積平野などに都市が多い。中国の華中や華南、東南アジアや南アジアなどの河川流域においても、水路が発達し、人口や産業が集積しており、これらの地域から海へのごみ流出が多いため、水路でのごみ回収をすることが重要である。SDGsは2015年から2030年を目標として取り組まれているが、169のターゲットのうち海洋及び沿岸の生態系の回復などの2020年目標の15のターゲットすべてが達成されなかった。海洋ごみや富栄養化を含む特に陸上活動による汚染などあらゆる種類の海洋汚染を防止し大幅に削減するというSDG14.1ターゲットが2025年目標であるだけに、製造、流通、販売段階も含めて石油化学製品のプラスチックを削減するとともに、ごみの流出の多い市街地の水路のごみ問題に早急に取り組まなければならない。(了)
※1 市町村長が指定して河川法が準用される河川
※2 瀬戸内オーシャンズX https://setouchi-oceansx.jp/
※2 瀬戸内オーシャンズX https://setouchi-oceansx.jp/
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