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オーシャンニューズレター

第56号(2002.12.05発行)

第56号(2002.12.05 発行)

OneCoastによる知識共有と活用

OneCoast Co-Founders◆Robert Kay/Andrew Crow

沿岸域の管理者が入手できる情報は増えているが、いかに迅速で一貫性のある意思決定をするかがこれからの鍵になる。沿岸域管理に関するさまざまな知識の共有とその有効活用を目指す新しい提案 OneCoast は、沿岸域管理に関する実践を結びつける新たな機会となろう。

はじめに

沿岸域管理に関わる世界の専門家たちは、政策決定者への、戦略から日常レベルまでのさまざまなアドバイスを期待されている。例えば港湾の拡張の是非から、海中公園政策の策定、果ては砂浜へのアクセス道の建設に関してのアドバイスなど多岐にわたる。そしてアドバイスには、最新の科学的情報に基づき、また決定には利用者や利害関係者の代表が参加していることが求められている。

しかし、過去の報告や研究、科学的データ、熟練スタッフの経験など、適切な情報を、沿岸域管理の専門家が入手することは意外と難しい。このような問題を解決するために沿岸域の管理者は、行政や研究者・NPO・企業などとのネットワークを築いているが、それでも問題発見から意思決定、そして行動に移るまでのタイムラグは生ずる。

また沿岸域管理は、「学際的な分野」という特性を持ち、理論・実践・情報などの間に「連携」を欠いていることが多い。そのため沿岸域の管理者が入手できる情報は増えているが、迅速で一貫性のある意思決定を素早く進める能力は低下する、という矛盾が顕在化している。

ナレッジマネジメントと知識共有

もっとも、こうした問題は沿岸域管理固有のものではなく、企業や行政などの共同体でも同じ問題を抱えている。組織では一般に、組織として知識を活用する総合情報システムを使った意思決定が望まれているが、人事や組織が流動的になり、仕事は臨時スタッフや委託で進められるため、せっかくの「組織知」の活用は減るという問題を生じている。

そこで企業では「知識」の重要性に気づき、「ニーズに見合う問題の解決には知識の積極的創造が必要」というナレッジマネジメント(knowledgemanagement)によってその解決を試みている。日本はその点で最先端を走っており、一橋大の野中郁次郎氏らの「知識創造理論」が大きく注目されている。また沿岸域管理の世界でも、金沢工大の敷田麻実氏らが沿岸域管理における知識共有や知識創造モデルについて最近提案している。総じて日本の沿岸域コミュニティは、ナレッジマネジメントでは先駆けていると思われる。

しかし、それだけでは不十分で、ナレッジマネジメントでは現場で実際に沿岸域管理を進める「実践共同体」の存在がカギとなる。これに関して、企業内では各組織から集まったメンバーが、共通の関心と専門技術に基づいて知識を共有・活用しているが、沿岸域管理では地域差や、組織間格差、専門の壁などの問題の解決が課題である。

機会づくり

個人と利用者グループが交流できるオンライン環境は、新しい知識を提供する現代版の「社会資本」である。情報を共有し意思決定する方法をその環境が規定するが、人は社会的であるため、経験と洞察力を共有するグループで意思決定を行う。

その一方で、個人・組織・システム間のつながりを通して、今日の情報はかつてないほどの早さで増殖している。もちろん個人でも膨大な情報にアクセスし、それを利用することができるが、過去20年の計算能力の向上にもかかわらず、個人の意思決定能力が向上したかどうかについては疑問が多い。その理由は、情報技術が情報にアクセスしたり分析したりする能力を増大させてはくれたが、まだ「考える」力を提供してくれるようにはなっていないからだ。

ところでシステムにアクセスしやすくするには、データやデータ交換手順などの標準化が必要とされている。このような標準化努力の結果、専門知識や経験は様々な技術で統合が可能になった。ナレッジマネジメントでは、知識を相互に依存する「情報と人間の複雑な相互作用」として、あたかも生態系のように捉えているが、この概念は「学習する順応的なシステム」によって成り立つ最近の沿岸域管理論とも共通するところがある。また最近提案されている「知識の生態系」概念は、管理戦略、実践する共同体、複雑な適合システム、およびナレッジマネジメントなどが融合したものだ。

そこで、著者らが提案する新たな試みは、沿岸域管理に関するオンラインコミュニティの社会学、情報技術などの統合である。そのため著者は、管理者のニーズに応じて一見バラバラな沿岸域の専門分野を統合していく、OneCoastという「仕組み」を提案する。

OneCoast:沿岸域の「知識生態系」

OneCoastは、ヨハネスブルグサミット(WSSD)の約束文書として、政府間海洋学委員会(IOC)とユネスコ、サン・マイクロシステムズの協力で実現した。現在のところOneCoastは、国連機関・各国政府・民間機関・研究機関・NGOから支持を受け、さらに参加者の多様性向上と組織強化を模索中である。

OneCoastはまた、世界レベルから地域コミュニティまで、あらゆるレベルの沿岸域管理における学際的な実践活動を対象にしている。その役割は、沿岸域管理に関するデータや情報・実践的体験の蓄積や共有であり、またその利点は、今までにはない学際的な知識の交流と共有と、そこから産み出される情報やすぐれた決定である。

実際にオンライン上でこうした機能を実現するために、OneCoastは市販のソフトウェアや情報環境を用いて、オープンソースな「知識活用環境」を提供する仲介者の役割を演ずることになる。このWeb上でのオープンなサービスは、プログラムの知識なしで誰でもが利用できる環境である。同様に、OneCoastのユーザーインターフェース環境は、複雑な設備なしで、インターネット接続機器を使って主要な情報環境とユーザーの接続を可能にしている。その結果、標準仕様に基づくメタデータとそのディレクトリーの集積が、利用者の要求にかなうような高度な情報アクセスを実現するだろう。

結論

OneCoastは、より総合的な、統合された沿岸域管理の推進を支援することを目的とし、沿岸域に関わる多数の関係者のビジョンやデータ、関心そして知識共有を目指している。環境問題や利用者によるコミュニティの考え方が意思決定に関して重要視されるということは、世界的な傾向である。それを可能にする知識の収集・管理・普及・活用に関して、新しい手法やアプローチ、そして何よりも行動が必要になっている。OneCoastは、WSSDで可能とされた世界中の沿岸域関係者との協働を通して、この課題の解決に貢献してゆきたい。(了)

(翻訳・まとめ:敷田麻実)

●本稿の原文 "Cutting a SwatheThrough Turbulent Waters: OneCoast -Transforming Coastal and MaritimeManagement Through Knowledge Sharing."は、こちらからご覧いただけます。

 

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