Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第560号(2023.12.05発行)

事務局だより

瀬戸内千代

◆今号は、30周年を迎える東京MOUについて、(公財)東京エムオウユウ事務局の久保田秀夫理事長よりご寄稿いただきました。同事務局ホームページにある資料「PSCって何ですか?」※1には、外国船舶を監督するポートステートコントロールの検査項目などが分りやすくまとめられています。本記事とあわせてご参照ください。
◆東京MOUが発足した1990年代のはじめ、巷ではスクーバダイビングが流行しており、魚影の濃い沈船は人気のダイビングスポットでした。当時、サイパンやグアムで潜ってきた筆者が何気なく報告した時、地名を聞いた瞬間に祖父の表情がサッと曇ったことが今も忘れられません。第2次世界大戦時に南方に赴任していた祖父にとって、南の島々の沈船は、まさに相澤輝昭防衛大学校准教授が今号に書かれた通り、「乗員の墓所」だったのです。PSCは海難事故や海洋汚染事故を未然に防ぐことに貢献していますが、海底には、そうした事故とは別次元の戦争を背景に沈められた船も数多く眠っています。関連技術が育ちつつある今、砂泥に埋もれた艦船を放置したままではいけないと浦環(うらたまき)東京大学名誉教授がご寄稿※2くださったのは4年前でした。相澤氏も今号へのご寄稿で「民間頼みの現況」からの脱却を求めておられます。
◆2023年10月、行方不明と言われてきた大量のマイクロプラスチックの一部を、JAMSTEC((国研)海洋研究開発機構)が深海の堆積物から発見しました。海はさまざまなものを波で洗い、海流で運び、砂泥で覆い隠していきます。そして、海底を埋め尽くす砂は、陸と海とのつながりを象徴する存在でもあります。椿玲未(株)エウサピア代表取締役のご寄稿は、その砂つぶの愛好家が世界中にいることを教えてくださいました。椿氏が懸念する「痩せ細った砂浜」は、2000年に磯部雅彦東京大学教授がご寄稿※3くださった時、すでに全国的に深刻な状況でした。九十九里浜の浸食については、2005年にご寄稿※4くださった写真家の小関与四郎氏が半世紀以上も撮り続けて、その記録は『消えた砂浜~九十九里浜五十年の変遷』に結実しています(当研究所の前身、シップ・アンド・オーシャン財団が日経BP企画から出版した写真集)。汀線は潮汐に従って動くとはいえ、房総に限らず、久しぶりに訪れると確実に海が昔より陸側に迫っていると感じる場所が少なくありません。本誌や上述の写真集を機に、多くの方が砂浜の現状を気にかけてくださったらと思います。(瀬戸内千代)
※1 https://koueki-tms.or.jp/pdf/20220106_about_psc_.pdf
※2 浦環著「潜水艦の墓場」本誌第467号(2020.1.20発行)
https://www.spf.org/opri/newsletter/467_1.html
※3 磯部雅彦著「砂浜の保全と土砂管理」本誌第9号(2000.12.20発行)
https://www.spf.org/opri/newsletter/9_1.html
※4 小関与四郎著「侵食図九十九里浜「消えた砂浜」に想う」本誌第117号(2005.6.20発行)

https://www.spf.org/opri/newsletter/117_3.html

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