Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第550号(2023.07.05発行)

洋上風力発電事業について─「海業」の視点から

KEYWORDS 浜の活力再生プラン/漁村地域の持続的発展/地域振興
全国漁業協同組合連合会代表理事会長◆坂本雅信

「海業(うみぎょう)」は、浜の再生・活性化の新たな柱の一つとして、漁港及び漁村地域の価値を高め、地方創生にも資するものであり、JFグループが全国の浜で実践中の「浜の活力再生プラン」の取り組みの方向性とも合致する。
洋上風力発電を核とした地域活性化の活動に取り組んでいる千葉県銚子市の事例を参考に、海業の視点から、洋上風力発電の開発と漁業の共存共栄について考察する。
漁業と漁村地域の持続的発展のために
2022年3月に閣議決定された国の水産基本計画では、地域を支える漁村の活性化の推進のため、海や漁村の地域資源の価値や魅力を活用する「海業(うみぎょう)」等の取り組みにより、地域の所得と雇用機会の確保を図ることとされた※。
この「海業」は、浜の再生・活性化の新たな柱の一つとして、漁港および漁村地域の価値を高め、地方創生にも資する大きな意義を持つものであり、漁業者・組合員によって構成されるJFグループ(漁業協同組合グループ)が全国の浜で実践中の「浜の活力再生プラン」の取り組みの方向性とも合致するものである。
豊かな海に囲まれたわが国漁業の下で、魚を中心とした魚食や和食の文化が育まれ、発展してきた。全国の各浜も、それぞれの地域で受け継がれてきた魚食文化や自慢の魚を持つ強みがある。各地の漁村はそれぞれ違った姿をもっており、それが外から訪れる人々にとっての大きな魅力になっている。このようなことから、漁業・漁村は、「海業」の取り組みを進めていく上で大きなポテンシャルを持っていると言える。
また、漁業者は、安全・安心な水産食料を国民に供給するという社会的使命を持っており、さらに、新たなエネルギーの確保に向けた政策に対し、協調的な立場から取り組んでいくことが求められている。全国のJFは、沿岸域をはじめとする漁場のさまざまな形での利用にあたって、関係者間の利害調整やコンセンサスづくりに重要な役割を果たしてきた。
このことは、筆者が組合長を務めるJF銚子市でも同様であり、洋上風力発電の開発と漁業が共存共栄する地域モデルの形成を目指して、検討を続けてきたところである。
銚子における洋上風力発電と海業の取り組み
銚子では、全国のまき網やさんま棒受網、沖合底曳網漁業などの沖合漁船漁業から、釣り、延縄、小型底曳網漁業などの小型沿岸漁業に至るまで、さまざまな漁業が営まれており、銚子漁港は2022年まで12年連続で全国一の水揚げ量を誇る。
その銚子で、洋上風力発電推進の検討が始まったその経緯としては、東日本大震災により銚子の漁業者も大変な被害を受けたことや、原子力発電から自然エネルギーへの転換を推進する国の方針に対して銚子港関係者が一定の理解をしていることなどが挙げられる。
市内では、洋上風力発電を核とした地域の活性化を目指す活動として、商工会議所と市が合同で、発電施設のメンテナンス事業や風力発電の見学などの取り組みを現在、企画しているところである。
着床式基質の周辺で魚礁のように魚を集める蝟集(いしゅう)効果が生まれ、幼稚魚の育成の場が創設されることも期待している。新たな漁場が生まれることで新規就業者の確保につながり、そこで獲れた魚が近くの旅館やレストランに提供されることで、新たな産業や雇用が生み出され、国内外から新鮮で美味しい魚を求めて観光客が集まる。そうした商いに必要な電力を風力発電で賄う。「海業」を含む、このような循環型の新しい産業の形が地域に誕生することにつながるのではないだろうか。
銚子は、漁業を中心に地域振興を支えている水産都市である。銚子沖で長期間にわたり発電事業を続けていくためには、漁業との協調・共生の取り組みが不可欠であることは言うまでもない。併せて、漁業者と事業者が互いに信頼し合い、将来にわたり子々孫々まで漁業を継続できるように進めていくことも大切である。
銚子沖洋上風力外観(イメージ)

銚子沖洋上風力外観(イメージ)

洋上風力発電と協調し、海を守り育む

あのイーハトーヴォのすきとおった風、夏でも底に冷たさをもつ青いそら、うつくしい森で飾られたモリーオ市、郊外のぎらぎらひかる草の波。
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海を生業の場としている漁業者にとって、洋上風力発電は自らの生活に直結する非常に重要な問題だ。風車が設置されるのが遠くの海域だったとしても、魚の回遊経路に風車ができた場合、自分の漁場に魚が来なくなるのではないかという懸念もある。そのため、漁業者はもとより、地域住民の十分な理解と合意が大前提となる。JFが核となって、このような漁業者の疑問・不安を確認・解消しながら事業化を検討していかなければならない。
洋上風力発電事業を全国各地で推進するためには、地域住民や事業者が洋上風力発電を活用しながら、共に地域全体を活性化させることが必要であり、その目的を実現できる事業のあり方が望まれる。
漁港には電気を必要とする施設が多く、日常的に電気の確保が必要となる。銚子の事例でも紹介した通り、洋上風力で発電した電気を漁業者、JFが自ら利用し、地域経済に還元・貢献していく電気の地産地消、洋上風力の魚礁効果で蝟集された魚を漁業者が漁獲し、地域の旅館や飲食店で提供するとともに、その旅館などで使用される電力も風力で賄うなど、漁業と風力発電が相まった新たな産業の構築や観光業と連携した観光客の誘致等の地域経済の活性化と波及効果を模索していくべきと考える。
JFグループでは、基本理念として、「海の恵みを享受するすべての人々とともに、海を守り育み、次代へ引き継ぐ」、「食料供給の担い手として、安全・安心・新鮮な水産物を提供」などを定めている。本会では、漁業と洋上風力発電の協調を図り、海を守り育みながら、引き続き食料の安定供給に努めていきたい。
さらに、「海業」の推進にあたっても、全国各浜の地域性や実態を踏まえた上で、漁業との協調の下に漁業者やJFが中心となって取り組みを推進していくことが重要である。漁村にアミューズメントパークをつくることが「海業」ではない。各浜の生業や漁村の姿が本来の魅力であり、「海業」の形や考え方はそれぞれの浜でさまざまである。関係者が連携して新たな産業・雇用を生み出すなど重層的な取り組みが必要だ。
漁業を持続していくことは、この豊かな日本の海を守り、漁村の持続的な暮らしとそこに根差した日本の食文化を育み守っていくことに他ならない。このことを肝に銘じて、漁業と「海業」を含む漁村地域の持続的発展に向けた取り組みを推進していきたい。(了)
「海業」の1つの姿(イメージ)

「海業」の1つの姿(イメージ)

※ 「水産基本計画」については、宮内克政著「新たな「水産基本計画」」本誌第529号(2022.8.20発行)、また「海業」については、婁 小波著「海業のすすめ」本誌第538号(2023.1.5発行)を参照ください。

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