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第529号(2022.8.20 発行)

新たな「水産基本計画」

[KEYWORDS]資源管理/成長産業化/漁村の活性化
水産庁企画課企画班課長補佐◆宮内克政

水産基本計画については、水産基本法に基づき、概ね5年ごとに見直しを行っているところ、2022(令和4)年3月に新たな水産基本計画が閣議決定された。新計画では、1)海洋環境の変化も踏まえた水産資源管理の着実な実施、2)増大するリスクも踏まえた水産業の成長産業化の実現、3)地域を支える漁村の活性化の推進、の3本の柱を掲げており、今後はこれらを中心に水産施策を展開していく。

新たな「水産基本計画」策定の背景

四面を海に囲まれているわが国では、古くから多種多様な水産物に恵まれ、地域ごとに特色のある料理等の豊かな魚食文化が形成され、現在まで継承されてきている。水産業は、国民の健康を支える水産物を供給する機能を有するとともに、水産加工業や流通業も含め、地域経済の発展に寄与している重要な産業となっている。
しかしながら、水産資源の減少による漁業・養殖業生産量の長期的な減少傾向や漁業者の減少という課題に直面していることから、水産資源の適切な管理とそれを通じた水産業の成長産業化を両立させ、漁業者の所得向上と年齢バランスの取れた漁業就労構造の確立を図るため、「水産政策の改革」に取り組んできた。さらに、近年顕在化してきた海洋環境の変化、少子・高齢化や人口減少、持続可能な開発目標(SDGs)やカーボンニュートラルの取り組みの広がり、デジタル化の進展等、自然環境や社会経済に変化が生じつつある。
このような情勢の変化を踏まえて、水産基本法(2001(平成13)年制定)に掲げる水産物の安定供給の確保と水産業の健全な発展という基本理念を実現するため、2022(令和4)年3月に閣議決定された新たな水産基本計画では、1)海洋環境の変化も踏まえた水産資源管理の着実な実施、2)増大するリスクも踏まえた水産業の成長産業化の実現、3)地域を支える漁村の活性化の推進、の3本の柱を中心に施策を展開することとした。その内容は、以下の通りである。

1 海洋環境の変化も踏まえた水産資源管理の着実な実施

(1)新たな資源管理の着実な推進
新たな資源管理の推進に向けたロードマップに基づき、資源管理への理解の醸成を促進しつつ、MSY※1ベースの資源評価対象種の拡大等資源評価の高度化を図る。また、ロードマップに盛り込まれた、TAC(漁獲可能量)魚種の拡大※2を推進し、2023(令和5)年度までに漁獲量ベースで8割をTAC管理とする。また、TAC魚種を主な漁獲対象とする沖合漁業(大臣許可漁業)に原則IQ管理※3を導入する。
(2)海洋環境の変化への対応
地球温暖化等を要因とした海洋環境の変化による分布・回遊等の資源変動への影響に関する調査研究を進め、これらに適応した的確なTAC等の資源管理、複合的な漁業や次世代型漁船への転換、サケのふ化放流やさけ定置漁業の合理化等を推進する。

2 増大するリスクも踏まえた水産業の成長産業化の実現

(1)漁船漁業の構造改革
沿岸漁業では、操業の効率化・生産性の向上を促進し、漁場の有効活用を推進するとともに、浜のプランの見直しを図る。沖合漁業では、資源変動に適応できる漁業経営体の育成と資源の有効利用を行っていくため、漁業調整に配慮しながら、漁獲対象種・漁法の複数化、複数経営体の連携による協業化や共同経営化、兼業による事業の多角化などの複合的な漁業への転換を段階的に推進する。遠洋漁業では、将来にわたって収益や乗組員の安定確保ができ、さまざまな国際規制等にも対応することができる経営体への体質強化を目指し、操業の効率化・省力化、それを実現するための代船建造や海外市場を含めた販路の多様性の確保等を推進する。
(2)養殖業の成長産業化
養殖業成長産業化総合戦略に基づき、生産・加工・流通・販売等に至る規模の大小を問わない養殖のバリューチェーンの各機能との連携方法を明確にして、マーケットイン型※4の養殖経営への転換を図る。また、漁場環境への負荷や赤潮被害の軽減が可能な沖合漁場が活用できるよう、静穏水域を創出する等沖合域を含む養殖適地を確保するとともに、台風等による波浪の影響を受けにくい浮沈式いけす等を普及させ、大規模化による省力化や生産性の向上を推進する。

■図 水産基本計画の概要

3 地域を支える漁村の活性化の推進

(1)漁業の振興や漁村の活性化に向けた漁協の連携強化
漁協の経済事業の強化により漁業者の所得向上を図るため、水産物の生産または流通に一体性を有する圏域を中心に複数の漁村地域が広域浜プラン等に基づき連携して行う浜の機能再編として、複数漁協間での広域合併や経済事業の連携等の実施、漁協施設の機能再編を進めるなど、漁業者の所得向上および漁協の経営の健全性確保のための取り組みを推進する。
(2)海業を含めた漁港の再編・拡充を通じた漁村の活性化
地域資源と既存の漁港施設を最大限に活用した海業等の取り組みを一層推進することで、海や漁村の地域資源の価値や魅力を活用した取り組みを根付かせ水産業と相互に補完し合う産業を育成する。地域の所得と雇用機会の確保を図るため、地域の漁業実態に合わせ、漁港施設の再編・整理、漁港用地の整序により、海業等に利活用しやすい環境を整備する。
その他、水産業の持続的な発展に向けて横断的に推進すべき施策として、「みどりの食料システム戦略と水産政策」、「スマート水産技術の活用」、「カーボンニュートラルへの対応」、「新型コロナウイルス感染症対策」等への取り組みや、東日本大震災からの復旧・復興および原発事故の影響克服について、引き続き取り組むこと等が明記されている。この新たな水産基本計画に基づき、わが国水産業の発展に向けて水産に関する施策を総合的かつ計画的に推進していきたい。(了)

  1. ※1 MSY(最大持続生産量)=現在の環境下において持続的に採捕可能な最大の漁獲量
  2. ※2TAC対象魚種拡大に向けたスケジュール(案)(水産庁HP)https://www.jfa.maff.go.jp/j/council/seisaku/kanri/attach/pdf/210323-5.pdf
  3. ※3IQ制度(個別割当制度)=ある魚種の漁獲枠を個別に割り当てする制度
  4. ※4マーケットイン型=需要に応じた品目や利用形態の質・量の情報を入手し、定質・定量・定時・定価格の供給を可能とする体制
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