Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第529号(2022.8.20 発行)

パラサーフィンを楽しめる環境を目指して

[KEYWORDS]サーフタウン/パラサーフィン/バリアフリー
千葉県いすみ市水産商工観光課◆泉水正美

2021年7月、東京オリンピックが開会され、追加競技として初めて採用となったサーフィン競技が千葉県釣ヶ崎海岸で開催された。
そのオリンピック会場から海岸沿いを歩くと、すぐ隣の太東海岸に辿り着く。
この海岸で波乗りを楽しんでいるサーファー達の中に、パラサーファーの姿を見ることがある。
太東海岸では、誰もが楽しめるサーフィン環境を目指した取り組みを行っており、その取り組みを紹介する。

九十九里エリアでのサーフィンの人気

サーフィンは、ハワイやタヒチに住んでいた古代ポリネシアの人々が西暦400年頃に始めたとされており、日本では1960年頃に駐留アメリカ人がサーフィンをはじめ、それを見ていた少年たちが模倣して自作のボードで始めたのが起源と言われている※1
今ではマリンスポーツの代表格となり、多くのサーファーが良質な波を求め日本中の海岸で楽しんでいる。特に千葉県はサーフィンの人気スポットとして多くのサーファーが訪れる場所であり、飯岡から太東までの九十九里エリアは一年を通して比較的良質な波が得られる海岸として初心者から経験者までが楽しめるポイントとして人気を集めている。
サーフィンにはロングボードとショートボードと呼ばれる分類があり、その違いはサーフボードの長さだけでなく、機能性や安定性、乗る波、競技ルール等、さまざまな違いがある。サーファーは「波に乗ることが楽しい」という醍醐味に魅了されサーフボードを選択し、それぞれのボードに適した乗り方で技やスピードをコントロールして楽しんでいる。波は海岸の地形や風力、風向きなど、さまざまな自然環境の違いにより変化するが、いすみ市の太東海岸で波に乗っているサーファーも、その波の大小を見極めて自らボードを選択してサーフィンを楽しんでいる。

パラサーフィン

太東海岸でパラサーフィンを楽しむ人

太東海岸でサーフィンを楽しんでいる人達の中に、さまざまな乗り方をしているサーファーを見ることがある。その中には障がいを持っているサーファーも含まれている。近年では障がい者が取り組んでいるサーフィンを「パラサーフィン」と呼ぶようになり、2015年には世界選手権が開催されるなど、世界中でパラサーフィンは急成長を遂げている。
千葉県いすみ市には日本におけるパラサーフィンの普及や競技の健全な発展を図ることを目指している(一社)日本パラサーフィン協会が所在しており、2017年より本格的な活動を行っている。
パラサーファーは競技者として技術を高めたい人、海が好きで海を楽しみたい人、新しく何かに挑戦する人など取り組んでいる理由はさまざまであるが、サーフボードに乗って立ち上がり技を繰り広げるだけがサーフィンではなく、膝立ちやうつ伏せでも波に乗ることができ、それぞれの個性に合わせた乗り方や波の捉え方がパラサーフィンの魅力でもある。パラサーファーをサポートする人達は、それぞれのパラサーファーの状態を確認しサポートを行っている。一人で海岸を訪れ誰のサポートも受けずにパラサーフィンを楽しめている人はまだまだ少なく、だからこそ、一人でもできることを増やし当たり前にしていくことが必要なことである。

サーフタウンを目指して

海岸点検の様子砂浜の上でも車椅子が通れるビーチマットと水陸両用車椅子

パラサーファーは、他のサーファーたちと同じ海に入り同じ波に乗り、同じ海岸を使い、同じ時間を共有し合っている。だからこそ、誰もが当たり前のように海岸を利用できることが必要で、そんな海岸を少しずつでも作り上げていくことを目指しいすみ市は取り組んできた。
いすみ市では、市内のサーフィン業組合が中心となり毎年5~6月、3週間ほどの日程で音楽、スポーツ、ステージイベントを融合した「SURF TOWN FESTA」を開催し、誰もがビーチで楽しめる機会を提供している。プロアマの各サーフィン大会やボディーボード大会、地域での活動成果を披露する場として和太鼓やフラダンス、チアダンス、アマチュアバンド等のステージイベントの他、ビーチバレー等のビーチスポーツ、また、海岸にいる全ての方に参加を促す津波避難訓練等、訪れる全ての人達が楽しめ海岸を共有し、安全と安心を確認し合えるイベントを開催している。
そんな「SURF TOWN FESTA」でパラサーフィン大会が肩を並べるように開催されることとなったのは2019年5月のことである。前年の2018年に(一社)日本パラサーフィン協会はエキシビジョンマッチを開催し大会開催において必要とされる人的・物理的サポート等の各種諸条件等を確認し、大会開催のノウハウや出場するパラサーファーへの配慮、次回大会の開催時期、パラサーフィンの普及等を考慮しながら着々と準備を整えた。そして、翌2019年の「SURF TOWN FESTA」でプロアマによるサーフィン、ボディーボード大会と並んで、全日本障がい者サーフィン選手権を太東海岸で開催することができ、サーフタウンとして大きく動き出した。
そのような大会等を開催していく中で、多くのパラサーファーからの声を受け、市では今後の施設整備や修繕時に反映していけるようパラサーファー目線・車いすユーザー目線によるバリアフリー海岸点検を実施した。大小さまざまな声のなかで、特に砂浜に降りるためのスロープがなく車いすの方は誰かの介助がなければ海岸に降りることが不可能であること、車いす用のトイレもないといった意見を受けた。
この太東海岸の施設は千葉県の施設であることから、千葉県に「一人でもできることを増やす」ための環境整備について相談・要望を行ったところ、誰もが介護者なく自由に海岸に降りることが可能なスロープが2カ所設置された。(一社)日本パラサーフィン協会への十分な説明や大会開催時に利用しやすいよう動線まで確認いただいた中での設置であった。
2019年から2021年までの3年間、千葉県により車いす用トイレの設置、スロープの設置、車いす用駐車スペースの設置が完了した。車いす用駐車場スペースから車いす用トイレまでの動線上にあるU字溝のふたの隙間を塞ぐ配慮をしていただくとともに、車いす用駐車スペースには誰が見ても分かるよう表示板を設置するなど、パラサーファーが自ら動き、自ら海岸で楽しむことができる環境整備が前進した。
また、いすみ市では企業版ふるさと納税を活用し、車いすのままでも砂浜を走行することが可能となるビーチマットの導入と、車いすのまま海に入ることが可能な水陸両用車いすを常設し、「一人でもできることを増やす」取り組みを進めている。
ただ、施設整備が進むことで誰もが楽しめるサーフィン環境が整うわけではない。
海岸では大小さまざまな波が訪れ、その一つの波に大人から子ども、パラサーファーが同時に乗ろうと動き出している。同じ海に入り同じ波に乗ろうとする全てのサーファーが、事故や怪我がないよう当たり前のように意識し合い、時には波を譲り海の中で称え合うことができる環境こそ、本当の意味での「誰もが楽しめるサーフィン環境」ではないだろうか。そして、国内の海岸でこのような環境が整うことで、サーフィンがオリンピック競技に採用されたことのレガシーとなるのではないだろうか。いすみ市は、これからもそんな環境を目指して取り組んでいく。(了)

  1. ※1一般社団法人 日本サーフィン連盟HP「基礎知識 サーフィンの歴史」 https://www.nsa-surf.org/basic/history/
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