Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第550号(2023.07.05発行)

海洋ごみになるプラスチックを収集しリサイクルするには

KEYWORDS 分別収集/アジア/モデルケース
(公財)日本容器包装リサイクル協会プラスチック容器事業部副部長◆清水健太郎

海洋プラスチックごみの約8割が陸域から発生していると言われる。その内訳を見ると、特に流出が多いのは、東アジアと東南アジアである。世界でつながる海洋のごみ問題を解決するためには、市町村や事業者等の連携から成る日本のリサイクルフローを一つのモデルケースとして、東アジア・東南アジアへ展開していく必要があるのではないだろうか。
プラスチックごみ発生量ランキング
陸上から海洋に流出したプラスチックごみ発生量の2010年の推計によると、1位中国、2位インドネシア、3位フィリピン、4位ベトナム、5位スリランカとなっており、東アジア・東南アジアでの流出量が多い結果となっています(図1)。このランキングを見ると、海洋へのプラスチック流出量を減らすためには、日本国内の対応はもちろんですが、東アジア・東南アジアでの対策がより重要となってくるのは言うまでもありません。
日本では、公衆衛生のために家庭から出るごみを収集し、適正に焼却処理してきた歴史がありますが、昨今はCO2排出量削減や資源循環を促進するため、ごみを焼却しないで資源物を取り出してリサイクルする取り組みを進めてきました。家庭から排出されるごみのうち、容積比で約6割を占める容器包装については、焼却するのではなく、分別収集してリサイクルするために、1995(平成7)年に容器包装リサイクル法が制定され、PETボトルやプラスチックの分別収集・リサイクルに取り組んできました。容器包装リサイクル法の施行から約25年が経過し、容器のリデュース(削減)や最終処分場の残余年数の増加などの成果が出ています。
このような日本が取り組んできたPETボトルやプラスチックの分別収集・リサイクルに関する仕組みを東アジア・東南アジアに適した形で導入することができれば、世界の海洋ごみ流出減少に貢献することができるのではないでしょうか。日本では、全国の市町村やリサイクル事業者等と連携したリサイクルフローが構築されています。これを一つのモデルケースとして、今後は東アジア・東南アジアへ展開していく必要があると考えています。
■図1 陸上から海洋に流出したプラスチックごみの2010年の推計量ランキングと最小・最大値(Jambeckら、2015)
■図1 陸上から海洋に流出したプラスチックごみの2010年の推計量ランキングと最小・最大値(Jambeckら、2015)
道路の整備状況によっても左右されるプラごみ収集
日本では、市町村による生活ごみ収集と資源物の分別収集が行われています。資源物としては、PETボトル、プラスチック、古紙、アルミ缶・スチール缶、ガラス瓶などの分別収集・リサイクルが進んでいます。ごみ収集の段階では、道路状況に合わせた収集車のラインアップ(2tパッカー車、4tパッカー車、平ボディ車、ウィング車など)や、遠方まで効率よく運搬するための資源物の圧縮梱包機などの技術があります。こうした日本の技術を東アジア・東南アジアに展開したいところですが、都市部以外の道路が整備されていない地域では、収集車による収集効率が低下します。
そのような地域では、車での収集よりは人の手による収集の方が効果的かもしれません。例えば、インドネシアで既に導入されている「ゴミ銀行」のようなプラスチックを有価で買い取る仕組みが広がれば、ごみ収集が難しい地域でも、プラスチックをポイ捨てせずに、拾い集めるようになる可能性があります。買い取ったプラスチックは、簡単な油化装置(廃プラスチックを油に変換する装置)で燃料にしたあと、ボイラー発電等で地域の電力にするという方法もあり得ます。こういった取り組みは、新たな雇用創出とプラスチックごみ減少につながる可能性があります。重要なのは一時的な支援ではなく継続性です。プラスチックを製造・販売しているメーカーや小売等による社会的責任としての継続的な取り組みが望まれます。
都市部では、効率的な収集・リサイクル

東アジア・東南アジアの都市部などの道路が整備されている地域では、収集車による効率的な収集が期待できます。日本から中古のパッカー車の無償提供など、支援が広がることを期待します。しかしながら、日本の収集の仕組みをそのまま持ち込むのは難しいと感じます。というのは、日本では市町村ごとのルールに従い、細かいごみの分別をしてきた歴史がありますが、今までごみの分別をしたことがない人々に、細かい分別排出を教育することは困難を伴います。対策としては最低限のルール、例えば、「生ごみ」だけは別回収(グリーンバッグ)して、それ以外のごみ(可燃ごみ、PETボトル、プラスチック、アルミ缶・スチール缶、古紙など)は同じ袋(ホワイトバッグ)に入れて収集する。収集後は、EUの一部で行われているような焼却炉前選別(図2)の技術を使って、「熱回収する前に機械選別でプラスチックや鉄などの資源物を選別して資源化し、残ったごみは焼却炉で熱回収する」という方法があります。そのためには日本やEUなどのプラスチックの収集や選別の仕組みや技術を導入し、一刻も早く、東アジア・東南アジアの海洋へのごみ流出量を減少させる必要があるのではないでしょうか。
最後に、日本の課題にも触れます。国内で排出される廃プラスチックのうち、およそ約7割はリサイクルされておらず熱回収や未利用となっています。以前は、家庭から排出されるプラスチックのうち、プラスチック製容器包装のみが収集・リサイクルの対象でしたが、2022年施行のプラスチック資源循環促進法等により、一部自治体において、容器包装プラスチックに加えて容器包装以外の製品プラスチックを同時に回収する仕組みがスタートしました。これにより、家庭から排出され焼却処理されていたプラスチックが、リサイクルされるようになることが期待されています。
ただ、プラスチックの量を集めることを優先するあまり、正しい分別排出をするという市民啓発をおろそかにしてしまうと、入ってはいけない危険な異物の混入が増加する恐れがあります。現在でも、異物の代表であるリチウムイオン電池内蔵製品(加熱式たばこ、モバイルバッテリー、小型家電製品等)がリサイクル工程に混入することによって、各地のリサイクル工場で発火事故が相次いでいます。これは、人命はもとより地域のリサイクルが止まってしまうという重大な危険性をはらんでいます。市民啓発や火災防止対策を同時進行で進めながらプラスチックリサイクルを推進していく必要があります。当協会としても、プラスチックのリサイクルの目的や効果、注意点などを丁寧に説明し、今後とも日本さらには海外のプラスチックリサイクルへの貢献を目指したいと考えています。(了)

■図2 EUにおけるごみ処理先進事例(筆者作成)

■図2 EUにおけるごみ処理先進事例(筆者作成)

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