Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第536号(2022.12.05発行)

編集後記

帝京大学先端総合研究機構 客員教授♦窪川かおる

◆第4期海洋基本計画の策定に向けた提言の発表が相次ぐ。基本計画は5年毎に見直され、2023年5月頃に第4期の閣議決定が想定されている。海洋分野の関係各所からの提言も出され、本誌へも2件をご寄稿いただいた(521号534号参照)。7月20日には総合海洋政策本部参与会議意見書が岸田総理に手交されている。次期計画には、海洋の安全保障、脱炭素社会、デジタルトランスフォーメーション(DX)、人材育成と、国力強化に対する海洋分野の重大課題が連なる。本号に掲載された海洋技術力の増進、日本の歴史と気候変動、若手の国際活動には、海洋分野の将来展望への期待が込められている。ご一読いただきたい。
◆海洋技術フォーラム代表の佐藤徹東京大学大学院教授より、第4期海洋基本計画策定を見据えた令和4年度提言書についてご寄稿いただいた。海洋科学技術の個別課題として、進行中の浮体式洋上風力発電、メタンハイドレート、海底熱水鉱床、ゼロエミッション船等があげられている。これらを実現するには、DX、AUV、海洋空間計画、水産業との共栄、人材育成等の環境構築が必要となる。個別課題と環境構築が縦横に交わる発展が期待されるとともに、発展の先頭に立つリーダーシップが求められる。
◆弥生時代が始まる前の日本人の祖先は東アジア大陸に生活し、その気候・環境の影響を受けていた。その記録を海底堆積物から読み取り、海水温、陸域の環境、食料を復元できる。一方で、現代日本人の遺伝子解析から、生活地域のルーツや人口変動の推定ができる。川幡穂高東京大学名誉教授はこれらを解析し、気候変動が日本人の祖先に及ぼした影響について考察されておられる。縄文人の人口は気候災害時にも減らなかったが、中国に暮らしていた日本人の祖先は、寒冷気候災害時に人口が激減したそうである。現代の気候変動は私たちの遺伝子に何を残すのか、川幡氏の著書を開いてみたくなった。
◆「国連海洋科学の10年」では世界の海洋若手専門家の活動が始まっている。森岡優志(国研)海洋研究開発機構副主任研究員より海洋若手専門家(ECOP)プログラムについて説明いただいた。専門経験が10年以内の若手研究者を対象としており、2021年6月に発足して以来、啓発活動や国際組織との意見交換などの実施を通じて参加者も増えている。ECOPアジアとECOP日本の活動も始まっているので、10年後の海洋分野を率いるECOPの参加を期待したい。本誌読者の身近に対象者がいらしたら、是非ECOPをご紹介いただきたい。(窪川かおる)

第536号(2022.12.05発行)のその他の記事

ページトップ