Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第521号(2022.04.20発行)

海洋・沿岸域の総合的管理の実現を 〜日本海洋政策学会・日本沿岸域学会合同アピール〜

[KEYWORDS]海洋空間計画/排他的経済水域/脱炭素社会
東海大学海洋学部海洋理工学科教授、日本海洋政策学会・日本沿岸域学会合同アピール委員会共同委員長◆脇田和美

日本のよりよい海洋・沿岸域の総合的管理の実現を目指し、日本海洋政策学会と日本沿岸域学会の有志が共同で提言をまとめた。提言が扱う海洋空間は、陸と海を一体と捉える沿岸域から、日本が世界第6位の面積を誇る領海および排他的経済水域、さらには大陸棚以遠に及ぶ。本稿の読者もご自身と提言との関わりを見つけていただき、将来にわたり海の恩恵を享受し、持続可能な生活を実現するため、行動を起こすきっかけとしていただければ幸いである。

日本海洋政策学会と日本沿岸域学会の有志による初めての共同提言

2021年12月、日本海洋政策学会・日本沿岸域学会合同アピール委員会が、『海洋・沿岸域の総合的管理の実現に向けたアピール〜第4期海洋基本計画への政策提言〜』を発表した※1。提言は、日本海洋政策学会は筆者、日本沿岸域学会は居駒知樹日本大学理工学部教授を共同委員長とし、両学会の様々な分野の委員およびアドバイザーによる2年間の議論をまとめたものである。これは、2000年から沿岸域の総合的管理の実現に向けた提言※2を行ってきた日本沿岸域学会と、2008年に総合的な海洋政策の形成のため学際的かつ総合的な学術形成の推進を目指して発足した日本海洋政策学会が、日本のよりよい海洋・沿岸域の総合的管理の実現を目指し、初めて共同で取り組んだ成果である。
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、洋上風力発電をはじめとした海洋再生可能エネルギーの推進など、世界中で海洋に熱い視線が注がれている。一方、海洋酸性化、海洋生物多様性の減少、漁業資源の減少、海洋ごみ問題、船舶の事故等に伴う油流出、武装勢力による海上船舶への攻撃等を含めた海の安全保障をめぐる国際社会の状況等、海洋が直面する課題は多岐にわたる。このような中、海洋空間における人間の活動範囲を振り返ると、従来は沿岸付近にとどまっていた海洋の利用形態が多様化・高密度化し、それに伴い対象空間が沖合や深海底へと拡大している。陸域との連続性を考慮すべき沿岸域から、より広域の海洋全体を包括的に捉えた海洋・沿岸域の総合的管理の実現が、今まさに求められている。このような問題意識に基づき作成されたのが、同提言である。以下に、その要約を紹介する。

海洋・沿岸域の総合的管理の実現に向けたアピール(要約)

日本のよりよい海洋・沿岸域の総合的管理の実現を目指し、次期海洋基本計画の策定に向けた議論に一石を投じることを目的として、以下を提言する。
提言1:沿岸域の総合的管理を着実かつ適切に実行するための制度の構築を
沿岸域の総合的管理の実効性を確保するため、地方公共団体が主体となり、海洋空間計画を策定すべきである。そのためには、海域における国と地方公共団体との管理権限の明確化や、地方公共団体に対する、許認可手続の効率化や財政支援等のインセンティブを与える制度の構築が大切である。あらゆる主体が参画した協議体の設置・運営と適切な沿岸域の総合的管理の実行・評価のための法制度や指針等の構築が必要である。
提言2:排他的経済水域や大陸棚を含む海洋空間の総合的管理の実現を
世界第6位の面積の領海と排他的経済水域の管理に関して権限を持つ日本は、その広大な空間とそこに賦存する資源や環境を、適切かつ戦略的に利用・保全していくことが必要である。国は、海洋空間計画を用いた排他的経済水域・大陸棚の総合的な管理を推進すべきである。そのためには、沿岸域、領海、排他的経済水域および大陸棚、といった陸域から海域に至るすべてを国土空間として隙間なく包括的に捉え、戦略的に利用と保全を進めていくことが肝要であり、国土形成計画における海域の取り扱いを本格化する必要がある。海洋開発と海洋生物多様性保全との両立のため、海洋保護区の多様な目的間のバランスの強化と効果的な配置の推進も重要である。また、国は、北極海や国家管轄権外区域といった日本の海域外における国際制度の構築に対し、科学的・積極的な貢献を推進する必要がある。
提言3:海の安全および安全保障の現実的な確保を
海で働くすべての人の安全確保のため、彼らのHSE(Health、Safety、Environment)を重視する社会通念の醸成、新型コロナウイルス感染症のような新しい状況への対応策の構築、船舶運航の自動化・無人化による安全性の向上と関連法規の整備、同時性の高い双方向情報伝達と冗長性の担保、排他的経済水域内の情報通信環境の整備が必要である。国境離島における海洋環境調査と環境保全の推進、低潮線の測量や直線基線の検証が重要である。海洋状況把握(MDA)の強化・効率化のため、MDAの一環としての外国の海洋政策分析の明確な位置付け、船舶自動識別装置(AIS)の利用促進と次世代AISとして期待されるVDESの普及活用、人工衛星からのリモートセンシングによる海域管理の推進が大切である。「海洋における法の支配」を強調する政策を継続し、海の安全保障へ国際貢献していくことも重要である。
提言4:脱炭素社会実現の鍵となる次世代の海洋産業の育成・創出を
脱炭素社会の実現に向け、再エネ海域利用法の排他的経済水域への適用拡大、新規参入や優位性のある分野の技術開発に対する政策的支援により、洋上風力発電をはじめとする海洋再生可能エネルギーの推進が必要である。あわせて、カーボンフリー燃料の導入に向けた技術開発やインフラ整備の推進が急務である。カーボンニュートラルポートのさらなる推進や、漁船等の小型船舶へのカーボンフリー燃料導入に向けた技術開発を進める必要がある。
提言5:海洋に関する人材の育成およびあらゆる人の理解の増進と国際協調の推進
海洋・沿岸域の総合的管理の実現には、各地で海洋に関する人材が育成・確保され、だれもが海洋リテラシーを持つことが必要である。各地域の大学や研究機関等の連携による海洋科学の強化、人材の育成、あらゆる人の理解の増進とともに、利害関係者等との協働により課題解決に資する海洋研究を進め、「国連海洋科学の10年」へ積極的に貢献していくことが重要である。

提言の実現に向けて

提言は、2023年に策定が予定されている第4期海洋基本計画の検討の一助となることを目指し、まとめられたものである。提言の内容を実現するためには、国や地方公共団体等の行政、海洋関連産業、大学や研究機関、市民といった、あらゆる主体の行動と協働が大切である(図)。本稿の読者も、ご自身と提言との関わりを見つけていただき、将来にわたり海の恩恵を享受し、持続可能な生活を実現するため、行動を起こすきっかけとしていただければ幸いである。(了)

図 あらゆる主体の行動と協働によるよりよい海洋・沿岸域の総合的管理の実現を(イメージ)

  1. ※1提言は、日本海洋政策学会トップページ(https://oceanpolicy.jp/jsop/index.html)や、日本沿岸域学会「提言等」ページ(http://www.jaczs.com/03-journal/teigen-tou/index.html)からダウンロードできる。本稿では提言の要約を抜粋して紹介する。また、本稿の内容や表現に提言と重複する点がある。
  2. ※2日本沿岸域学会(2000)「沿岸域の持続的な利用と環境保全のための提言(2000年アピール)」(http://www.jaczs.com/03-journal/teigen-tou/jacz2000.pdf)など。

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