Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第536号(2022.12.05発行)

「国連海洋科学の10年」における海洋若手専門家の役割

[KEYWORDS] 国連海洋科学の10年/海洋若手専門家/アジア
(国研)海洋研究開発機構付加価値情報創生部門アプリケーションラボ副主任研究員◆森岡優志

「国連海洋科学の10年」には、海洋若手専門家(ECOP)の活動を推進するプログラムがある。
4つのテーマと地域に分かれており、本稿ではアジアと日本の取り組みを紹介する。
アジアのECOPを対象とした意識調査によると、直面する課題として活動資金と雇用機会の不足が明らかになった。
この10年を通して、ECOPのネットワークを構築し、ECOPが求める情報を提供し、海洋分野の将来を担う若手人材の育成を支援する仕組みが必要である。

「国連海洋科学の10年」と海洋若手専門家プログラム(ECOP)

「国連海洋科学の10年(以下、海洋科学の10年)」は、国連が掲げる持続可能な開発のためのアジェンダ2030を達成することを目的とし、海洋科学を駆使して持続可能に海洋を利用し管理する国際的な枠組みである。2021年から2030年までの10年間を対象として、世界各地で海洋科学の10年に関する取り組みが行われ、日本からの貢献も期待されている。2021年2月には日本国内委員会が正式に発足し、海洋科学の10年に向けた日本の取り組みの事例がホームページで公開されている※1
海洋科学の10年には、専門経験が10年以内の海洋若手専門家(Early Career Ocean Professional; ECOP)を対象としたプログラムが設けられている。Evgeniia Kostianaia(ロシア)がECOPプログラムを統括しており、田中広太郎研究員(OPRI)と筆者が日本のECOPプログラム(以下、ECOP日本)のコーディネーターを務めている。世界から約50名のECOPが集まり、4つのテーマと地域に分かれ、海洋科学の10年への提言や普及活動、ECOPのネットワーク構築を行っている。例えば、DEI(多様性・衡平性・包摂性)を推進するチームでは、海洋分野のDEIに関するワークショップをオンラインで開催し、経済的な理由で現地参加が難しい途上国や島嶼国などのECOPを取り込んでいる。海洋のリテラシーに関するチームでは、世界の子どもたちを対象とした海の芸術コンテストを実施し、子どもたちと一緒に地球環境における海の役割や課題について考える機会を提供している。そのほか、海洋プラスチックなど海の課題ごとに分かれて異分野のECOPの交流を促進するチームや、ECOPの育成やメンターを行うチームがある。

アジアと日本におけるECOPの活動

ECOPプログラムには、4つのタスクチームとは別に、アジアやアフリカなど、地域の活動を推進するノード(集まり)がある。アジアのノード(以下、ECOPアジア)では、アジアのECOPのネットワークを構築することを目的とし、アジアのECOPが直面する課題やニーズを発掘し、アジアの人材育成や活動資金、雇用に関する情報を提供している。例えば、2021年6月にオンラインで開催されたECOP Dayでは、後述する意識調査の結果や、アジアの海洋科学コミュニティ、海洋科学の10年に関わる研究やNPO/NGOの活動が紹介された。また、2021年11月に開催された政府間海洋学委員会(IOC)西太平洋地域小委員会(WESTPAC)では、アジアのECOPの人材育成やステークホルダーとの連携について、委員会のメンバーらと意見交換を行った。
こうした背景を受けて、日本でも国内のECOPの活動を推進する動きが出てきている。2022年1月には、(公財)笹川平和財団海洋政策研究所と日本海洋政策学会が主催となり、「ECOPシンポジウム―国連海洋科学の10年における若手ネットワークの構築に向けて」が開催された※2。海洋科学のさまざまな分野から参加した日本のECOPが、活動紹介や意見交換を行った。共通課題として、海洋分野を支える若手人材の不足と、博士課程に進学する学生や修了後の就職を支援する重要性が挙げられた。また、海洋の諸課題に合わせて、産学官の垣根を超えてECOPが交流し、新たなイノベーションを創る場として、日本のECOPのコミュニティが必要であることが明らかになった。

アジアにおけるECOPの意識調査

ECOPアジアは、ECOPが直面している課題やニーズを探るため、2021年5月にアジア7カ国のECOPを対象としたアンケート調査を実施した。145名(うち日本人42名)の回答によると、全体の約6割が男性であり、約4分の3が海洋科学を専門とし、約6割が海洋科学の10年を認知していることがわかった。また、海洋科学の10年が掲げる7つの海の目標について、予測できる海、健全で回復力のある海、生産的な海の順に関心が高い(図左)。特に、予測できる海は韓国で、健全で回復力のある海はインドネシアで、生産的な海は日本で関心が高く、アジアの中でECOPの関心度に違いが見られた。
アジアのECOPが感じている障壁として、研究など活動資金の不足、就職やキャリアなど雇用機会の不足、コミュニティやネットワークの不足の順に大きい(図右)。国ごとに見ると、活動資金は日本やインドネシアで、就職などの機会は韓国やインドで、ネットワークやコミュニティは中国で懸念されていることがわかった。そのほか、日本のECOPが感じている課題として、言語や文化の違い、ジェンダーの格差、他分野との交流の不足、などが自由回答から明らかになった。
これらの結果は、『ECOPアジアの中間報告書』としてECOPホームページ※3で公開され、海洋科学の10年の国際会合などでも紹介されている。同様のアンケート調査がアフリカでも行われ、アフリカのECOPもアジアと共通した課題を抱えていることがわかった(『ECOPアフリカの中間報告書』参照)。海洋科学の10年の目標に向かって、地域や国ごとにECOPのネットワークを構築し、ECOPの交流や情報の提供を行っていく必要がある。

■ECOPアジアのアンケート結果。

ECOPの今後の活動

2021年6月にECOPプログラムが正式に発足して以来、さまざまな活動を通して世界の国と地域でECOPの登録者が増えている。ECOPプログラムはさらに、海洋科学の10年で承認された地域プログラムと連携し、地域プログラムに関わるECOPの活動を支援している。例えば、東西センター東南アジア海洋専門家プログラム(EWCSEAOPP)は、生物多様性の高いコーラルトライアングル(太平洋サンゴ礁三角海域)※4やメコン川を対象として、研究調査や保全活動を行う地域プログラムである。EWCSEAOPPは、若手を対象としたインターンシップを行っており、東南アジアの海洋分野の人材育成に努めている。こうした地域プログラムの活動をECOPプログラムで取り上げ、異なる分野のECOPとの交流や情報の交換を行っている。今後、海洋科学の10年で承認されるプログラムが増えるにつれ、ECOPの取り組みも増えることが期待される。
日本では、ECOP日本が中心となって、各分野で活躍する国内のECOPの活動をビデオ形式で、ECOPホームページのJapanサイトに掲載している。今後、日本のECOPに関わるイベントを開催することで、ECOPに役立つ情報を提供していく予定である。ECOPの活動を持続可能にするためにも、得られた経験やネットワークを若い世代に伝え、海洋分野の若手コミュニティを活性化させることが重要である。こうした活動を通して、異なる国や地域のECOPが共鳴し合い、多様性を活かしながらECOPの輪が広がることを期待している。(了)

  1. ※1https://oceandecade.jp/ja/
  2. ※2開催報告 https://www.spf.org/opri/news/20220128.html
  3. ※3ECOPホームページ https://www.ecopdecade.org/
  4. ※4インドネシア、マレーシア、パプアニューギニア、フィリピン、ソロモン諸島、東ティモールにまたがる海域

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