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【開催報告】オンライン公開シンポジウム「ECOPシンポジウム-国連海洋科学の10年における若手ネットワークの構築に向けて」
2022年1月18日に、日本海洋政策学会と笹川平和財団海洋政策研究所の共催により、オンライン公開シンポジウム「ECOPシンポジウム-国連海洋科学の10年における若手ネットワークの構築に向けて」が開催されました(シンポジウムの様子はこちら(日本語、英語)をご覧ください)。
国連海洋科学の10年は、国連が掲げる持続可能な開発のためのアジェンダ2030を達成するために、海洋科学を駆使して持続可能に海洋を利用し管理する国際的な枠組みです。その中で、国連海洋科学の10年では海洋若手専門家(ECOP: Early Career Ocean Professionals)の公式プログラムが結成されています。本シンポジウムでは、様々な専門分野を持つ研究者や産業界で活躍する方々をお招きし、ECOPの今後について若手から中堅の関係者の目線から議論することを目指したものです。
冒頭の挨拶で、日本海洋政策学会会長ならびに神戸大学名誉教授である坂元茂樹氏から、若手研究者の不足が各学会で危惧される中、このように若手ネットワーク拡大を目指す活動が行われていることを有意義に思う旨が述べられました。 また、日本の若手専門家が国際的な取り組みに積極的に参加するために必要なこととして、言葉や文化の壁に対して尻込みせず国際的な舞台に積極的に参加することや、研究内容に自信を持って「伝わる」英語を話すことを心掛けることなどが挙げられました。
趣旨説明として、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の森岡優志副主任研究員から、国連海洋科学の10年の枠組みにおけるECOPプログラムの概要と目的、ならびに地域ノードであるECOP Asiaがこれまでに実施してきた活動についての紹介がありました。 その後、ECOP Asiaコミュニティの窓口を務めるRaphaël Roman氏から、自己紹介とともに、世界、アジア、日本それぞれのECOPコミュニティを繋げることに対する今後の期待が述べられました。
JAMSTECの河野健理事からは、基調講演として、JAMSTECで行われている研究開発や若手支援・アウトリーチ活動について、若手研究者やさらにその次の世代に対して様々な形でサポートが実施されている旨が紹介されました。
続いて、様々な分野を背景にもつ5名の若手~中堅専門家から、ECOPのネットワーク構築に向けた期待と課題についての講演があった後、全体討論が行われました。海洋社会科学や科学コミュニケーションを主な専門とする水産研究・教育機構水産資源研究所の杉本あおい研究員からは、国連海洋科学の10年における若手ネットワークの中で、競争・管理・階層的といった既存の価値観から、協調・解放・分散的といった新たな価値体系へのシフトが重要であるという旨が述べられました。東京大学大学院新領域創成科学研究科の和田良太准教授からは、「海洋の新産業創生と若手人材」と題し、海洋技術の社会実装のためのオープンイノベーションの重要性、さらにそれを駆動するための「異分野人材」と「博士人材」の必要性について講演がありました。東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センターの特任講師、ならびに一般社団法人3710Lab(みなとラボ)の代表を務める田口康大氏は、海洋教育に携わる視点から、ECOPネットワークの目的を明確化することの必要性を提起した上で、海洋科学という枠組みに対する人文科学分野の参画の重要性、ならびにECOP支援のための仕組みづくりの重要性などを提案しました。株式会社イノカのCEOを務める高倉葉太氏からは、研究者ではなく海洋ベンチャー企業という立場から、IT技術を用いてサンゴや海洋環境の保全に取り組む会社紹介の後、若手同士のネットワークを通して、産業界やアカデミアといった垣根を超えた交流を生み出すこと、そしてそのコミュニケーションを続けていく仕組みを作り出すことの必要性が述べられました。5人目のパネリストとして、海洋化学を専門とする長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科の近藤能子准教授から、研究者としてのこれまでの自身のキャリアを踏まえ、大学院博士課程進学をサポートするプログラム強化や、若手研究者が海外で研究する機会の増加に対する期待が述べられました。
講演に続くパネルディスカッションでは、阪口秀 笹川平和財団海洋政策研究所長がモデレーターを務め、5名の若手~中堅専門家に加えて総合司会の田中広太郎 笹川平和財団海洋政策研究所研究員や日本海洋政策学会副会長ならびに東京大学大気海洋研究所の道田豊教授、Raphaël Roman氏を交えた議論が行われました。まず、海洋産業の現場で働く人々とのコミュニケーションについてや、海外での研究活動のモチベーションについて、海に興味をもちはじめたきっかけ、地域に根差した基礎研究や研究者育成の重要性など、視聴者からの質問に対する質疑が行われました。また、産官学のセクターを超えた交流、若手ネットワーク構築の中での海洋教育の位置づけ、博士人材育成など、今後のECOPネットワークの方向性に関する議論も行われました。
最後に、道田豊教授から、本シンポジウムのような異分野交流の場を設けることの重要性が述べられたのち、科学のための科学だけで終わってしまわないこと、そのために幅広い視野と幅広いステークホルダーとの交流が必要となることが述べられました。最後に、質問の中でも触れられていた地域知(local and indigenous knowledge)の活用を進めることに対する期待や、引き続きECOPのサポートをしていきたいとの言葉があり、シンポジウムが閉会しました。
パネルディスカッションの様子
総合司会 | 田中広太郎(笹川平和財団海洋政策研究所) |
13:00-13:05 | 1.開会挨拶:坂元茂樹(日本海洋政策学会会長) |
13:05-13:20 | 2.趣旨説明:森岡優志(JAMSTEC)・Raphaël Roman (Individual Consultant, Regional node for Asia) |
13:20-13:50 | 3.基調講演:河野健(JAMSTEC理事) |
13:50-15:25 | 4.パネルディスカッション |
パネリスト5名×講演各10分+パネル45分 テーマ ECOPのネットワーク構築に向けた期待と課題 モデレーター 阪口秀(笹川平和財団海洋政策研究所所長) パネリスト(講演等を含む) 杉本あおい(水産研究・教育機構水産資源研究所) 和田良太(東京大学大学院新領域創成科学研究科) 田口康大(東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター) 高倉葉太(株式会社イノカ) 近藤能子(長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科) |
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15:25-15:30 | 5.閉会挨拶:道田豊(日本海洋政策学会副会長) |