Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第534号(2022.11.05発行)

周南市大島干潟の自然再生活動

[KEYWORDS] 人工干潟/アサリ育成/ブルーカーボン
大島干潟を育てる会事務局長◆山口博光

山口県周南市の大島干潟は、良好な海域環境の創出等を目的に造成された人工干潟である。
私たち大島干潟を育てる会は、この干潟をより豊かな海に育てるべく、アサリ育成を主体とした保全活動を行ってきた。
活動を通じて副次的に育ったアマモやコアマモ等の海草、海藻類により干潟の新たな価値が見いだされ、持続可能な社会の実現に向かう役割を担う活動になりつつある。

大島干潟を育てる会の誕生

山口県周南市大島干潟は、徳山下松港の港湾整備により発生した浚渫土砂を有効活用するとともに、アサリ生育場などの良好な海域環境の創出を目的に、平成17年度から平成29年度にかけて国土交通省が造成した約29haの人工干潟です。
造成後、国土交通省から周南市へ引き渡しが行われ、現在は、2017年11月に設立した「大島干潟を育てる会」(以下、育てる会)が、干潟の保全活動を実施しています。育てる会は、豊かな海を守るとともに、貴重な地域資源である干潟を活用した地域づくりを推進することを目的に設立され、大島地区住民と漁業者の有志15名(2022年10月現在)で構成されています。活動は、主に自然産卵によるアサリの育成・販売により得られた収入で、持続可能な活動と活動範囲の拡大(一般市民への潮干狩り場の開放等)を目標とし、今日まで定期的な保全活動を月に1~2回継続して実施しています。具体的な活動内容としては、アサリをエイやチヌ(クロダイ)などの食害から守る被覆網のメンテナンスやアサリの過密を防ぎ大きく育てるための間引き作業、アサリの食害生物であるツメタガイの駆除、アサリ種苗からの中間育成試験、カキの養殖試験、干潟の清掃活動など多岐にわたっています。
また、保全活動に加え、周南市内の小学生を対象とした環境学習会のサポートも行っています。この学習会は、大島干潟における海の豊かさや環境問題への理解・関心を深めてもらうことを目的として開催しており、座学の他、大島干潟での生き物観察やアサリを育てる漁業体験を加えた体験型学習であることが特徴です。環境学習を体験した子どもたちの感想からは、干潟の生き物についての関心が高まり、身近な自然環境を大切に思う心が育まれたことが伝わり、私たちの活動のモチベーション向上にも繋がっています。

大島干潟全景

大島干潟に加わった新たな価値

アサリ育成活動

育てる会は、設立以降アサリの育成を中心とした活動を行ってきましたが、大島干潟においても全国的なアサリの不漁は例外では無く、アサリの不漁に伴い得られる資金が減少し、アサリの稚貝や資材等の購入費用が捻出できず、活動継続において、資金不足が最大の課題となっていました。加えて、メンバーの高齢化やモチベーション維持の面からも活動継続が困難な状況が予測されていました。一方で、保全活動の継続とともにブルーカーボン生態系とよばれ、海洋におけるCO2吸収源となるアマモやコアマモなどの海草類の繁茂区域が着実に広がってきており、現在では環境省レッドデータブックで準絶滅危惧種に指定されているウミヒルモも確認されるようになりました。
このような状況の中、折しも、国土交通省では脱炭素社会の実現に向けて、港湾において「カーボンニュートラルポート」の形成に取り組んでおり、その一環として、国土交通大臣認可法人のジャパンブルーエコノミー技術研究組合(以下、JBE)※1が発行・管理する「Jブルークレジット」を用いた「ブルーカーボン・オフセット・クレジット制度」※2の試行が開始されていることを知りました。育てる会も、この大島干潟をフィールドとして、当該制度の活用を目指し、山口県漁業協同組合周南統括支店(以下、漁協)、周南市と連名で「大島干潟から、つながる周南市ブルーカーボンプロジェクトin徳山下松港」を申請しました。大島干潟の保全活動におけるそれぞれの関わりについては、育てる会は前述のとおり、干潟の保全を行っていく活動主体となっています。漁協は、育てる会の活動にオブザーバーとして参画し、活動への助言や申請に必要な測量・モニタリングの際に船を出す等の調査協力・支援を行っています。また漁協は、漁業権が設定されている干潟を含む海域での育てる会の活動について、支店組合員会議に諮り許可を行っている他、大島干潟のアマモ場を種苗の育成場所として重要な場所と位置づけ、アマモ場を傷つける桁網の禁漁区域を設けることで、アマモ場の保全を行っています。そして周南市は干潟の管理者として、クレジット申請等の事務手続きや関係各署の調整を行っており、大島干潟を水産振興や地域振興につなげていくため、育てる会のオブザーバーとして毎月の活動にも多数の職員が積極的に参加しています。
この大島干潟での活動は、今後の継続的な活動により多様な生態系の維持及び拡大につながっていくことが期待され、地球温暖化の抑制にも貢献しているとして、2021年12月にJBEよりクレジットの認証を受けることができました。大島干潟において認証されたCO2吸収量は44.3トンで、地元企業をはじめ14の企業・団体からクレジット購入の応募をいただきました※3

持続可能な社会の実現へ

今般、「ブルーカーボン・オフセット・クレジット制度」を活用したことにより、活動資金の面で育てる会の活動の持続可能性が高まるとともに、認知度が上がることによって、私たちの活動のモチベーション向上にも繋がっていると実感しています。この取り組みを継続することにより大島干潟の多様な生態系の維持及び拡大につながり、その生態系によるCO2吸収量(クレジット量)が増加することで保全活動の資金や活動範囲も広がり、さらに干潟の環境が継続的に保全されるという好循環を期待しています。
また、本プロジェクトをきっかけとして、周南市では、ブルーカーボン生態系の拡大による脱炭素社会への貢献はもちろんのこと、豊かな海を育み水産振興に繋げていくため、大島干潟を拠点として市内の他地域にもブルーカーボン生態系を拡大するための調査を開始しているとのことです。引き続き、育てる会では、漁協と連携し、この取り組みが持続可能な社会の実現モデルとなるよう活動に取り組んでいくこととしています。(了)

  1. ※1参照 桑江朝比呂著「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合の設立」
    本誌第487号(2020.11.20発行)https://www.spf.org/opri/newsletter/487_1.html
  2. ※2ブルーカーボン・オフセット・クレジット制度とは、藻場の保全活動等を行うNPO・市民団体等により創出されたCO2吸収量をクレジットとし、CO2削減を図る企業・団体等との間でクレジット取引を行うこと。
  3. ※3参照 周南市HP:ブルーカーボン・オフセット 
    https://www.city.shunan.lg.jp/soshiki/34/78565.html

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