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Ocean Newsletter
第487号(2020.11.20発行)
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合の設立
[KEYWORDS]気候変動対策/ブルーエコノミー/ブルーカーボンジャパンブルーエコノミー技術研究組合理事長◆桑江朝比呂
わが国初となる、ブルーカーボンをはじめとする海洋の活用による気候変動対策に関する試験研究等を実施する、国土交通大臣の認可法人「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合」が2020年7月15日に設立した。
本稿では、当組合の設立の背景や事業内容について概説する。
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)の設立
わが国初となる、ブルーカーボンをはじめとする海洋の活用による気候変動対策に関する試験研究等を実施する技術研究組合(技術研究組合法第13条に基づく認可法人)である「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合」(Japan Blue Economy association, JBE)は、主務大臣(組合の行う試験研究の成果が直接利用される事業を所管する大臣)である国土交通大臣により、2020年7月14日付で認可され、翌15日に成立した。
海洋生物によって大気中のCO2が取り込まれ、海洋生態系内に貯留された炭素のことを、2009年に国連環境計画(UNEP)は「ブルーカーボン」と名付けた。陸域や海洋は、地球における炭素の主要な貯蔵庫となっているが、海洋が炭素貯蔵庫として特に重要なのは、海底泥中に貯留されたブルーカーボンが長期間(数千年程度)分解、無機化されずに貯留される点である。したがって、温室効果ガスのうちもっとも主要なCO2を大気外へ隔離し貯留させる仕組みが、海洋生態系とりわけ浅海域において有効に機能している。
ブルーカーボンを構成する生態系としては、塩性湿地、海草藻場(アマモ場など)、そしてマングローブがUNEPブルーカーボン報告書のなかで挙げられている。コンブ場やガラモ場といった海藻藻場はブルーカーボン生態系には含まれていない。しかしながら近年、海藻藻場のポテンシャルに注目が集まり(図2)、新たなブルーカーボンの候補として国内外で調査研究や認証への検討が進められている。日本をはじめとするアジア諸国は、海藻の食文化としての利用や養殖技術に優位性を有しており、養殖の99%がこの地域で生産されている。また、海洋を利用した気候変動緩和策には、ブルーカーボンの活用のほかに洋上風力発電等の海洋再生可能エネルギーの推進、海運からの温室効果ガス排出削減、食生活の変化、海藻養殖の推進などがある(図3)。このように、海洋を保全あるいは活用しつつ社会を持続可能にするために、海洋産業を発展させようという考え方が「ブルーエコノミー」である。
パリ協定が掲げた、産業革命前からの世界の平均気温上昇をできるだけ1.5℃以内に抑えるという目標に対し、海洋を利用した緩和策は6~21%貢献しうるといわれている。そのうち、ブルーカーボンは海藻養殖まで含めると、最大で2.4%貢献する。ブルーカーボン生態系の再生や活用は、コストや技術的準備度の点に強みがある一方、攪乱や開発などに伴う排出リスクや検証性の点で課題を抱えていることが指摘されている。
JBEにおける事業内容
ブルーカーボン生態系の保全・再生や海洋における低炭素化事業は、脱炭素、すなわち気候変動の緩和のみならず、様々なブルーエコノミー分野に広範に寄与すると考えられる。例えば、生物生息環境の保全や改善による漁業資源等の保護効果、海岸植生が海水流動や波動の抵抗体となり波浪を減衰させることによる浸水抑制効果、あるいは洋上風力発電施設をはじめとする新たな海洋構造物の設置による藻礁や藻礁効果などである。ブルーカーボンの活用はブルーエコノミーの一部とみなすことができる。
そこで、非営利法人であるJBEでは、大臣認可法人という公的な性格を併せ持つ民間法人として、最新の技術や知見等の学際的かつ業際的な結集と集積を目指す。そして、ブルーカーボン生態系の保全・再生事業や海洋の活用による低炭素化等の事業など、ブルーエコノミー事業を実践するための調査研究と社会実装実験を実施する。
より具体的には、JBEでは海洋に関連した様々な社会的ニーズに対し、科学技術的な根拠、数値、経済価値あるいは実行可能な手法の提示によって応えていくための新しい方法論の開発を進める(図4)。また、海洋を活用した気候変動緩和策(洋上風力発電等の推進、海運からの温室効果ガス排出削減など)や気候変動適応策(生態系ベースによる減災防災など)についても、段階的に調査研究とモデル事業を進めていく。
人為的な原因による地球温暖化、気候変動への対策は国際的な潮流となっている。国際社会の一員であるわが国の企業その他の事業者にとっても、その事業を持続可能なものとしていくために取り組むべき喫緊の課題である。また、わが国の個々の市民にとっても、気候変動は決して他人事ではない。毎年の猛暑、頻発する豪雨、襲来する台風の大型化など、その影響は既に現実化している。将来の世代に住みよい環境を残し、かつより海洋を活用し海からの恵みを享受するために何ができるか、現世代が取り組むべき課題がある。
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合の成果が将来活用されることを夢見て精進していく所存である。(了)
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