Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第534号(2022.11.05発行)

編集後記

帝京大学先端総合研究機構 客員教授♦窪川かおる

◆2022年ノーベル生理学・医学賞は、絶滅した化石人類のゲノムと人類の進化に関する研究でドイツのマックス・プランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ教授が受賞された。ネアンデルタール人など化石人類の極微量のゲノム断片が解読され、私たちホモ・サピエンスとの混血の様相や移動の足跡が見えてきた。ヒト属1種となった今日の持続可能な地球と海の将来を考えさせられる。
◆船舶自動識別装置(AIS)の最大32倍の通信速度、双方向通信、全球対応の衛星VDESなどからなるVHFデータ交換システム(VDES)による海上安全の向上が期待されている。田中広太郎(公財)笹川平和財団海洋政策研究所研究員より2021年に衛星VDES委員会が作成した『衛星VDESに関する提言~海洋デジタル化時代に向けて~』についてご寄稿いただいた。内容は本誌に詳しいが、その実現には技術および政策に加えて現場の視点も忘れてはならない。
◆山口県周南市大島干潟は、13年かけて国土交通省が造成した人工干潟である。アサリの育成などの保全活動を実施している「大島干潟を育てる会」の山口博光事務局長よりご寄稿いただいた。海藻類育成の取組みが、2021年12月にジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が管理する「ブルーカーボン・オフセット・クレジット制度」の認証を受け、すでに14企業・団体が購入に応募している。生態系保全の維持と拡大、保全活動の資金調達、脱炭素社会への意識の拡がりという好循環が生じている。
◆渡辺友美東海大学海洋学部講師は、海洋教育の教材「教室ミュージアム 海の恵みをいただきます!展」を開発し、教室サイズで、全国の学校に実物と体験から海を楽しく学ぶ機会を届けている。映像を使って魚料理の魚を海に戻して見せ、海藻トンネルを通らせるなど多様な教材が展開される。コロナ禍でも5年間に全国34カ所で実施し、複数教科の連携も実現させた。ひとりで大きな荷物を運ぶ渡辺氏の情熱あふれる教室ミュージアムに注目したい。(窪川かおる)

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