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オーシャンニューズレター

第52号(2002.10.05発行)

第52号(2002.10.05 発行)

インフォメーション「21世紀におけるわが国の海洋政策に関するアンケート調査報告書」(日本財団、2002年5月)の概要


■調査対象および回答結果
区分発送数回収数(率)
A 大学有識者8045(56.3%)
B 海洋関係団体役員6639(59.1%)
C 中央官庁担当者5716(28.1%)
D 試験研究機関研究者3320(60.6%)
E 地方自治体3412(35.3%)
F 産業界・民間企業6633(50.0%)
G 国会議員380(00.0%)
H 報道・シンクタンク6013(21.7%)
合計434178(41.0%)

同報告書(約200ページ)の「要約」部をそのまま収録して紹介する(円グラフは報告書「本文」中の代表例のみを抜粋)。同報告書は、『わが国海洋政策に関する提言』(本誌No.41、本年4月20日号掲載)と併行して取りまとめられた。しかし、科学技術・学術審議会海洋開発分科会の答申内容の発表を待って、アンケート結果に表れた海洋関係者の世論動向との対比を読者に提示するという意図のもとに、時期をずらして意識的に本特集号に収録することとしたものである。内容的に注目されるのは、たとえば、1)海洋基本法の制定要望が2/3を占めること、2)新しい行政組織が是非必要で、3)沿岸域総合管理法の制定が支持され、4)三大湾の一元的管理やミチゲーション導入の声が強く、5)漁業権制度は認めるが、漁業補償を含め根本的な見直しが望まれており、6)専門レベルから底辺拡大のためのものまで教育の充実要望が大きいこと、などである。なお、膨大な質量の自由記入意見・コメントが原回答文のまま掲載されていることもあり、是非、報告書本体を手にとっての熟読をお勧めしたい。また、諸外国でも続々と国家的海洋政策が打ち出されつつあるので、こうした論議を風化させることなく一層発展させ、時期を逸することのない改革を切に望むものである。(編集部)

本アンケートは、日本財団の海洋政策に関する5つの提案に対して意見を求める形式で平成13年末から14年初めにかけて実施されたものである。回答を得た178人の氏名は同報告書に列挙されているが、各界各層の多くのキーパーソンが含まれていることから、本アンケート結果は、わが国海洋関係の世論形成集団の要望や期待など、その声が如実に反映されているといってよい。

アンケート結果要約
(なお、%は当該項目回答者総数に対する割合を示す。)

提案1
わが国としての海洋管理に関する基本理念を明示的なかたちで盛り込んだ政策大綱を策定し、内外に表明すべきである。その策定にあたっては、国連海洋法条約や国連環境開発会議等に掲げられた国際的な海洋管理の理念をとりこみ、かつ、わが国200海里排他的経済水域(EEZ)から沿岸域までを含むすべての海の範囲をカバーするべきである。
(1)「わが国の海洋管理の理念および政策大綱を明確に表明すること」について、「是非とも必要である」129(72.9%)/「できればその方がよい」42(23.7%)と圧倒的多数が海洋管理の理念および政策大綱の表明に積極的である。
(2)「海洋管理に関する基本理念の内容」について(複数回答可)、「海洋環境の保全と両立した持続可能な開発利用」139/「200海里EEZの環境・資源に関する総合的調査・開発・利用・保全の長期計画策定」112/「沿岸域を含む海洋の統合的管理」99/「海洋国家宣言」94/「国際協力」79。
(3)「海洋管理の基本理念の表明方法」について、「政策大綱の策定と法整備」160(94.1%)と圧倒的に多い。どのような法整備が望ましいかについては、「海洋基本法の制定」110(65.9%)/「EEZ・大陸棚と沿岸域それぞれの基本法制定」50(29.9%)となっている。

提案1図
イ)「海洋法基本法」を制定するのが良い─110(65.9%)
ロ)EEZおよび大陸棚、沿岸域各々の基本法を制定─50(29.9%)
ハ)既存の「排他的経済水域および大陸棚に関する法律」を改正すればよい─2(1.2%)
ニ)その他─5(3.0%)

提案2
海洋は地球の生命維持システムの不可欠な構成要素であり、その開発利用にあたっては環境に十分配慮した持続可能な開発利用を目指すことが重要である。そのため、上記のような海洋管理の理念に沿って政策実行がなされるように、関係する多数の省庁にまたがった海洋政策の総合的検討、策定とその推進のための任務と権限を有する有効な行政機構を整備すべきである。
(1)「海洋政策実行のための恒常的な行政組織等の必要性」について、「新しい行政組織が是非必要」72(41.1%)/「できればあった方が良い」41(23.4%)/「現行組織を改革して対応すべき」38(21.7%)と圧倒的多数が新しい行政組織の設置または現行組織の改革を支持している。
提案2図
イ)恒常的な新しい行政組織が是非必要─72(41.1%)
ロ)恒常的な新しい行政組織ができればあった方が良い─41(23.4%)
ハ)現行行政組織を改革して対応すべきである─38(21.7%)
ニ)現行組織で対応させるべきである─15(8.6%)
ホ)必要かどうか、どちらともいえない─5(2.9%)
ヘ)わからない─4(2.3%)
(2)「新しい行政組織の設置又は現行組織の改革の具体的内容」について(複数回答可)、「海洋庁を適当な省の外局として創設」59(内25が内閣府の外局と回答)/「海洋省を創設」36/「内閣府に常設の海洋関係部局(例:海洋問題対策室(仮称))を設置」30/「総理大臣を長とする関係閣僚会議を設置」26/「政策調整権限を有する新しい省庁間常設機関を設置」26/「海洋問題担当大臣を設置」25。
(3)「総理府海洋開発審議会の文部科学省科学技術・学術審議会海洋開発分科会への衣替え」について、「政策大綱立案、政策実施状況評価等の機能を有する機関とすべき」68(40.2%)/「明らかに格下げ、旧審議会レベルへ戻すべき」44(26.0%)と諮問機関の強化を求める声が大きい。

提案3
"沿岸域"を海陸一体の独立した生態系として認識し、総合的な環境保全のシステムを考慮した、開発と環境の両立を目指す総合的沿岸域管理について、必要な法制整備を検討すべきである。また、沿岸域の開発、利用、保全の当事者、受益者として、これまでその役割を充分に評価されていなかった地域住民の役割を積極的に評価し、沿岸域管理政策の立案、実施、評価、再実施のサイクル的プロセスに積極的な市民参加を実現すべきである。
(1)「沿岸域の総合的管理のための法整備(例:総合的沿岸域管理法)」について、「是非、総合的な法の整備が必要」110(64.0%)/「できれば総合的な法を整備したほうが良い」49(28.5%)と総合的な法の整備を求める声が圧倒的に多い。
(2)「沿岸域の対象範囲を定める基準」について、 海側は、「海岸線からの距離」68(41.2%)(内12海里領海が42、3海里が10)/「海域毎に国と協議して自治体が判断」47(28.5%)が上位を占めた。陸側は、「流域圏のような自然の系に着目して定める」118(85.5%)と圧倒的多数を占め、「海岸線からの距離」20(14.5%)であった。
(3)「沿岸域の管理主体」について、「一定に区分にしたがって国と自治体が分担」68(41.2%)が一番多く、「指定海域以外の一般海域は国」46(27.9%)、「一般海域は自治体」21(12.7%)、「指定海域も一般海域も一体的に自治体」20(12.1%)となっている。「国と自治体が分担」する時の区分についての枝設問に対しては、「3海里までは自治体、それ以遠は国」31/「自治体、国が協議してそれぞれ管理」24/「12海里領海までは自治体、それ以遠は国」6であった。
(4)「三大湾および瀬戸内海に一般論と異なる扱いが必要か」について、「一元的管理が是非必要」98(58.7%)/「できれば必要」36(21.6%)と大多数が一元的管理が必要と回答している。「どのような扱いが好ましいか」については、「単一の管理主体を新設」75(48.1%)/「現行の管理機関の上位に調整機関を新設」37(23.7%)となっている。
(5)「ミチゲーションの導入」について、「導入する必要がある」150(88.2%)と圧倒的多数がミチゲーションの導入を支持している。
(6)「沿岸域の総合的管理を推進するため、すべての関係者と協議すべき」について、「すべての関係者を参加させるべき」77(45.6%)/「強い関係を有しないものについては必要に応じて参考意見を求める」54(32.0%)/「ケースバイケースで処理」32(18.9%)の順となった。しかし、「強い関係を有しないものは、参加しなくてよい」は4(2.4%)に過ぎず、沿岸域の総合的管理により広く関係者の意見を求めるべきという考え方が浸透してきている。
(7)「開発、利用を禁止又は制限する海洋保護区域の設定」について、「是非とも必要」55(32.0%)、「設定が必要」72(41.9%)と法制上の海洋保護区域の設定が必要とする意見が大多数を占めた。「海洋保護区域の必要な理由」について(複数回答可)は、「生息地として重要な海域」102/「これ以上開発すると深刻な環境破壊が想定される海域」96/「絶滅危惧種の棲息する海域」91/「貴重な海中・海上景観資源の存在する海域」88となっている。「どのような方策で設定するか」については、「新しい法律制定」が84(75.0%)で大多数を占め、「現行自然公園法に基づく海中公園指定の内容強化」25(22.3%)であった。

提案4
 漁業と他の海洋利用との競合問題の調整、ならびに漁業振興、漁業協調を一層図るための合理的な法制度の確立を急ぐべきである。その場合、漁業補償問題についても抜本的な改革を講じることが望ましい。
(1)「漁業権制度についてどう考えるか」について、「必要と認めるが一定の改革が必要」105(64.0%)/「実害補償を除いて一切廃止」17(10.4%)と漁業権に対する批判的見方が大多数である。「一定の役割を果たしているから尊重すべき」は33(20.1%)であった。「どのような漁業権の改革が必要か」との枝設問については、「新しい海域利用権制度の導入とその中での漁業権の位置付け」66(50.8%)/「明治期に見られたような免許料、海面使用料制度の導入」11(8.5%)と約6割がかなり抜本的な改革を望んでいる。「魚業補償額の決定の仕方の改革」は34(26.2%)であった。
提案3図
イ)漁業補償額の決定の仕方を改革─34(26.2%)
ロ)一度消滅した漁業権の復活をないようにすること─10(7.7%)
ハ)他産業も含め、誰でもが漁業権を保有できるようにすべきである─4(3.1%)
ニ)漁業権は、誰にでも譲渡可能な権利とし、市場原理のもとに置くべきである─5(3.8%)
ホ)漁業権に対して、免許料、海面使用許可料制度を導入─11(8.5%)
ヘ)漁業権制度を根本から見直して、まったく新しい「海域利用権」制度を導入、漁業権をそのうちの一種とする─66(50.8%)
(2)「漁業補償についてどう考えるか」について(複数回答可)、「第三者機関の裁定等による決定方式の採用」81/「合理的基準ならば容認できる」54/「漁業振興に全額用いられるよう制度改革すべき」33/「実害補償以外は不要」25。

提案5
 国民の海に対する知識や理解の向上を図り、海との共生についてその積極的関心を喚起するため、海洋に関する教育・啓発、特に青少年に対する海洋教育の拡充を図るべきである。また、海洋問題に総合的視点で取り組むため、自然科学系と社会科学、人文科学系の相互間を含む各分野の学際的研究と交流を促進するとともに、大学院レベルでの海洋管理に関する総合的な研究、教育システムを整備すべきである。
(1)「「小・中・高学校教育における海洋教育」について(複数回答可)、「カリキュラムでもっと海ついて取り上げる」133/「総合学習の時間を利用してフィールド学習の強化を」119/「高校の理科に海洋の基礎知識、社会に海洋利用の現状と問題点を盛り込む」110/「教員の海に関する知識・理解の向上を図るべき」107。
(2)「大学レベルにおける海洋教育」について(複数回答可)、「自然・社会・人文科学系の各分野の学際的研究カリキュラムの充実」87/「自然科学部門と社会科学部門との学際的教育、交流の充実」87/「屋外、フィールド教育のウェイトをもっと高く」74/「大学以上の教育に漁業、行政、NGO,企業等の関係者の知識経験を活用」74/「自然科学部門の学生、院生に社会科学部門科目の履修、およびその逆を」62。
(3)「大学院レベルにおける海洋教育」について(複数回答可)、「海洋法条約、アジェンダ21、総合的沿岸域管理等を研究する修士課程以上のコースの設置」114/「各国の海洋政策、法制、産業、科学技術政策等の修士課程以上のカリキュラム編成」105/「産業、行政、研究機関に働きつつ受講・研究できる大学院のカリキュラムの整備」80。

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