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オーシャンニューズレター

第52号(2002.10.05発行)

第52号(2002.10.05 発行)

「海洋を知る」「海洋を守る」「海洋を利用する」

科学技術・学術審議会海洋開発分科会長、日本学術振興会監事、東京大学海洋研究所前教授◆平 啓介

平成14年8月1日に科学技術・学術審議会会長から文部科学大臣に提出した答申には「21世紀初頭における日本の海洋政策」との副題が付けられた。「海洋を知る」「海洋を守る」「海洋を利用する」というバランスのとれた海洋政策へと転換するためには、総合的な海洋管理の視点に立った海洋政策の企画・立案のための最適なシステムの検討が重要である。

わが国の海洋政策の基盤実現に向けて

平成13年4月13日開催の科学技術・学術審議会は、文部科学大臣から「長期的展望に立つ海洋開発の基本的構想及び推進方策について」諮問を受けた。諮問理由に"これまで「海洋を利用する」ことに重点がおかれていた海洋開発から、「海洋を知る」「海洋を守る」こともバランスよく考慮した海洋の開発を推進していくことが求められている"とある。3者のバランスの必要は平成12年3月に海洋開発審議会が強調したものである。

平成12年度の行政改革で総理府におかれていた海洋開発審議会は、科学技術・学術審議会の分科会となった。事務局は海洋開発審議会当時は科学技術庁海洋開発課、その後身の海洋地球課であったが、文部科学省の海洋地球課となった。また、海洋開発分科会は文部科学省におかれた審議会の分科会でありながら、文部科学大臣ならびに関連大臣の諮問を受けるとされている。

これら2つは、分科会の役割と今後の展望に関して審議開始から、答申の取りまとめまで一貫した議論の対象であった。「海洋」を扱う唯一の審議会として、そして、標題の3つを審議検討するために名称を「海洋審議会」や「海洋政策審議会」とすべきとの意見が多かった。

海洋会開発審議会第4号答申(平成2年5月)に記述された事項について、完了したもの、継続遂行中のものに分けた実施状況ヒアリングを行い、海洋研究・基盤整備委員会、海洋保全委員会、そして海洋利用委員会の3つの委員会における検討が始まった。

これからの海洋政策に求められる視点

1950年の世界人口は25億人であったが、今日では60億人を越えた。食料供給が大問題であるが、この50年間は穀物、豆類、食肉、水産資源の生産が増大し、人口一人あたりではいずれもほぼ一定になるように供給されてきた。しかし、砂漠化による耕地減少や水資源不足や過度の耕作による荒廃でこれ以上の増産は望めなくなった。漁獲量についてもすでに限界に達し減少に転じているとの報告もある。

海洋は地球表面積の70%を占めている。これまでの食料生産は残りの30%の陸地で主として行われてきたと言えよう。海洋でも多くの植物プランクトンや藻類が光合成で有機物を生産している。沿岸域における光合成は地上最大の熱帯雨林と変わらず、水田の3倍にも達する。一方、外洋の生産量は沿岸域の5%以下で海の砂漠とよばれる。光の届く約百メートルまでは植物の肥料に相当する栄養塩が使い尽くされているためである。有光層の下層に生物死骸や排出物が微生物により分解され栄養塩が豊富な海洋深層水があり、将来は食料生産に利用することが期待される。地球環境の悪化、とりわけ地球温暖化は海面水位上昇や気候変動として顕在化しはじめ、海洋の役割の解明が急がれている。

エネルギー供給では、メタンハイドレートなど未利用資源、海洋の鉛直方向の温度差、海洋空間を利用する風力、太陽熱、波力などクリーンエネルギーの生産基地として活用できる可能性がある。地震や火山活動の起源域であるマントルは海洋地殻が陸地に比べて薄いので、海洋底の探査研究が自然災害予知に結びつく。

海洋の利用は人類の将来を支配する重要な課題であり、四面を海に囲まれた先進国としての海洋国日本の使命は大きい。しかし、国民の海に対する関心の低さや学校教育での取り上げが少ないことを多くの委員が指摘した。市民が海に親しむ環境の整備が必要で、ヨットやボートなどマリンスポーツが諸外国に比べ困難であるとの指摘があった。人材育成と将来のために青少年に海洋について啓蒙・教育することの重要性を取り上げた。

今回の答申で強調したことの1つは、海洋管理である。沿岸海域の海洋環境を改善するための総合的な管理の推進とともに、外洋域についても観測システムの構築と海洋予報の取り組みなど海洋管理の時期になった。

総合的な海洋管理の視点に立った海洋政策を

平成14年8月1日に科学技術・学術審議会会長から文部科学大臣に提出した答申には「21世紀初頭における日本の海洋政策」の副題が付けられ、まとめの章は「海洋政策全体の基盤整備の基本的考え方と推進方策」である。これまでのわが国の海洋政策の企画・立案においては、総合的な視点から、国の総力を挙げて取り組むような政策は提案されにくい状況にあったことを反省し、総合的な海洋管理の視点に立った海洋政策の企画・立案のための最適なシステムの検討が重要であるとした。

現行システムの改善では、海洋開発関係省庁連絡会議を、関係省庁の政策に関する情報連絡・収集に加えて、実質討議を行う場へ変え、海洋開発分科会は開発の基本方針、国としての総合的な政策、行政分野横断的な政策等を調査・審議する。これとは別に、行政府の中に海洋政策に関する新しい専門家組織形成の提案があった。提案された組織では、わが国の海洋開発のあり方を調査・研究し、これらの活動から得られた情報・知識を基礎に、海洋開発の目標、推進の方法、外国との協力の方法、国としての総合的な政策、行政分野横断的な政策等に関する検討を行い、海洋開発分科会では、これらの結果を基礎に、わが国の海洋攻策を調査、審議する。この提案に対しては、引き続きこのような視点からの検討が重要であることについて、多くの賛同が得られた。当面は、海洋開発分科会を活用しつつ推進するが、今後の状況を見ながら、現行の海洋開発関係省庁連絡会議の役割を拡大するシステム及び行政府の中に新しい組織を設置する提案を踏まえて、今後、海洋開発分科会を中心として議論を重ねることになった。

答申のまとめの時期に日本財団海洋管理研究会からの提言が公表され、日本の海洋政策を広く検討する時期が到来したと思う。答申は今後10年程度を見通した長期展望に立っているが、科学技術の進歩や社会情勢の変化を考慮し、随時追跡調査と見直しを行うこととした。(了)

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