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オーシャンニューズレター

第50号(2002.09.05発行)

第50号(2002.09.05 発行)

東京湾を親しみやすく美しい海にするために

東京湾再生推進会議事務局(海上保安庁海洋環境保全推進室)◆信国正勝

水環境の改善が進まない東京湾を、快適に水遊びができ、多くの生物が生息する、親しみやすく美しい「海」にするために、縦割り行政の壁を越えて「東京湾再生推進会議」が立ち上がった。現在、この会議では、今後実施すべき施策の方向性が検討されており、首都圏にふさわしい『東京湾』を創出するための歩みがはじまっている。

はじめに

東京湾は、明治以降に埋め立てが活発に進められ、内湾の水際線(総延長約800km)のうち、自然海岸は約10%を占めるに過ぎず、護岸などの人工構造物による水際線が大部分を占めています。また、約2600万人もの人口を抱える広大な後背地から大量の汚水が発生し、その大部分は下水処理場等での浄化処理を経て東京湾に流れ込んでいますが、豪雨時には、未処理の汚水が直接湾内に流れ込んでいます。市民の憩いの場としての再開発が進む東京湾の沿岸部は、1970年代前半までの海洋汚染が進行した状況は改善されてきたものの、有機汚濁などの水質面では、さらなる改善の努力が必要な状況です。
このような状況の中、政府は「都市の再生」を大きな柱として、各種の都市再生プロジェクトを推進しています。「東京湾再生推進会議」では、内閣官房、国土交通省、海上保安庁、農林水産省、林野庁、水産庁及び環境省の関係省庁と埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市及び千葉市の七都県市が連携して、都市再生の観点から東京湾の水質改善に取り組んでいます。ここでは、「東京湾再生推進会議」の現在の取り組みを紹介したいと思います。

東京湾の水環境の現状

オイルボール
お台場海浜公園に漂着したオイルボール

東京湾は、その後背地に大きな人口集積地を有する閉鎖性海域であるため、陸域から流入する窒素・りんによって湾内の富栄養化が進行し、発生する赤潮や青潮等により、生息生物に多大な影響をもたらしています。また、赤潮・青潮によって死んだ生物が大量に海岸に打ち寄せられて発生する悪臭問題や漂着ゴミの問題など、沿岸域における水環境の問題は大きな課題になっています。例えば、東京湾における代表的な親水空間であるお台場海浜公園にはオイルボール(写真参照)が漂着し、市民の目からも水環境の問題が感じ取れる状況となっています。

行政としてのこれからの取り組み

東京湾の水環境に対して、これまで行政側が対策を講じていなかった訳ではありません。数次にわたる水質総量規制の実施、汚水処理を行うための下水道の整備、海底に堆積した汚泥の浚渫、海面を漂う浮遊ゴミ等の回収作業など、それぞれの担当部局等が、それぞれの業務の中で考えられる水質改善施策を行ってきました。
平成13年に省庁再編が実施されたことを契機に、これまで「縦割り行政」と揶揄された行政も、様々な部局等が連携して施策を推進するように変化してきました。「東京湾再生推進会議」もこのような流れの中で、共通の目標に向かって様々な水質改善施策を連携して推進しようとする動きと言えます。
単独の部局等が水質改善施策を実施することに比べて、様々な部局等が連携して水質改善施策を推進することにより、特定の水域における発生源対策や環境改善対策等の一連の施策を、一体的に推進することが可能となり、水質改善に対する効果は相乗的なものになると考えられます。

「東京湾再生推進会議」の取り組み

■東京湾における重点エリアとアピールポイント
■東京湾における重点エリアとアピールポイント

「東京湾再生推進会議」では、関係部局等が今後推進すべき水質改善施策について検討を行い、今年度中には「東京湾再生のための行動計画」を策定し、より効果的かつ計画的な施策の実施を行おうと考えています。これに先立ち、平成14年6月に「東京湾再生のための行動計画(中間とりまとめ)」を公表しました。ここでは、東京湾における水質改善施策の具体的方向性を示すために、東京湾のうち特に重点的に再生を目指す「重点エリア」と、施策による改善の効果が端的に評価できる場所として「アピールポイント」の設定を行いました(図参照)。
また関係部局等が連携して目指す、共通の目標(全体目標)を定めました。この全体目標は「快適に水遊びができ、多くの生物が生息する、親しみやすく美しい『海』を取り戻し、首都圏にふさわしい『東京湾』を創出する」というものです。今回の取り組みは、単に水質のみを改善するのではなく、水質改善施策を通じて「生態系の改善」、「景観の改善」という部分にまで視野を広げています。これは、親水空間に集う市民にとって、快適な「海」であることが望まれている姿であり、行政の行う施策の効果は、これら市民が身近に体感・実感できるものでなければならないという観点からまとめられたものです。このため、水質改善施策の推進のみならず、東京湾の現状についての情報発信や市民参加型の活動の推進なども検討しています。
今後、この全体目標に向かって、来年度以降は具体的施策を推進していくことになりますが、連携による一体的な施策の推進を考慮し、河川直接浄化、合流式下水道への改善や高度処理などの「陸域対策」、汚泥の浚渫や親水性や水質浄化に目を向けた護岸の整備などの「海域対策」、これら水質改善施策の効果を判断するための「モニタリング」の部門に分けて、それぞれの部門の中で必要な施策を検討し、「誰が」、「どこで」、「どのような施策」を実施するのか、それぞれの施策をどのように連携を図って実施するのかについて明らかにしていく予定です。
現在、東京湾の水質の現状、中間とりまとめなどの「東京湾再生推進会議」に関する情報等をまとめた「東京湾環境情報サイト」( http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/ )を公開しています。東京湾が現在どのような状況にあり、今後どのような施策を講ずるべきか、このサイトを御覧になりながら市民の皆様にも是非考えていただき、忌憚のないご意見をいただければと考えております。(了)

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