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オーシャンニューズレター

第4号(2000.10.05発行)

第4号(2000.10.05 発行)

200海里水域の起点となる離島の一層の振興を

小笠原村長◆宮澤昭一

離島の多くが公共事業に対する依存度が高いが、それは小笠原村も例外ではない。大小およそ30の島々からなる小笠原村は、わが国の200海里水域の1/3を占めており、その優れた海洋環境を活かした地域振興が望まれる。

わが国200海里水域の1/3を占める小笠原諸島

小笠原村の行政区域である小笠原諸島は、北緯27度44分の聟島列島と、北緯20度25分・東経136度5分の沖ノ鳥島、および北緯24度17分・東経153度59分の南鳥島の間の広大な海域に散在する大小約30の島々の総称であります。その中心は東京から南へはるか1,000kmに位置する父島であり、伊豆諸島の中でも比較的南にある八丈島でさえも東京から約300kmであることを考えれば、小笠原がいかに遠いかを察していただけるのではないでしょうか。

この北太平洋の海域に広がる小笠原諸島には、わが国の最南端と最東端が存在します。最南端の沖ノ鳥島は北回帰線より南にある唯一の日本領土であり、最東端の南鳥島は北方領土よりもはるか東に位置し、わが国で唯一太平洋プレート上にある領土です。沖ノ鳥島が昭和62年の10月に海岸保全区域に指定され、約300億円をかけて、露岩の保全事業が行われたことは当時大きな話題を呼びました。

小笠原村は伊豆諸島と同じく東京都下にあり、本土と小笠原を結ぶ唯一のルートは、東京(竹芝)と父島の間を結ぶ、約6日に1度往復する定期船「おがさわら丸」です。数多い島々の中でも一般住民が生活をしているのは父島と母島のみであり、人口も両島合わせて2,500人程度です。これだけの情報では、小笠原村は東京からはるか遠い小さな離島としか思われないかもしれません。

しかしながら、この小さな村の島々があることによって、わが国200海里水域の実に約1/3が確保されている事実はあまり知られていないようです。この事実をよく考えてみると、果てしなく夢の広がる村と言えるのではないでしょうか。

東京都の海といえば東京湾を想像しがちです。ところが、わが小笠原諸島があることによって東京都は、琉球諸島と大東諸島を有する沖縄県と並んで、他県の追随を許さないほどの海洋県となっているのであります。伊豆諸島から小笠原諸島に及ぶ素晴らしく、かつ広大な海を擁しており、日本の排他的経済水域の確保に大きく貢献しているのです。そしてそのほとんどは、小笠原村というひとつの村を構成する小笠原諸島の島々によるということに、私達は大いなる誇りを持っております。

小笠原村所属の島

エコツーリズムの島

小笠原諸島は、「東洋のガラパゴス」をいわれるように、島の誕生以来、大陸と陸続きになったことがない海洋島であるため、生物進化の過程を示す世界的に貴重な動植物が生育する島として知られています。また、本土では見られない亜熱帯のありのままの自然が残されており、この自然を求めてくる観光客も少なくありません。小笠原諸島母島においては、1988年にわが国最初のホエールウォッチングが行われ、その成功は2月から4月の閑散期の集客に大きく貢献するものとなりました。

こうした背景のもと、村内では従来の開発型の観光地形成ではなく、野生生物を対象に、その保全を図りながら観光振興を図るという、エコツーリズムの考えが生まれるようになったのです。小笠原における今後の観光形態は、エコツアーが柱となることは言うまでもありませんが、将来的には熟年層を対象とした長期保養・療養型の観光地としての整備も必要であると思われます。現在ではホエールウォッチングやダイビングの他に、フィールドトレッキングなどの山のガイドも加わり、様々なエコツアーが観光メニューとして用意されています。

癒しの場・リフレッシュの場としての離島の位置付け

離島の多くは離島振興のもとに公共投資に依存している状態ですが、小笠原村も例外ではありません。昭和43年の返還以来、復興計画、振興計画および振興開発計画に基づいて精力的に公共投資がなされ、いつのまにか公共事業に対する依存度が高い状態になっております。今後は産業構造の転換を図りつつ、観光業を中心に据えた総合的な地域振興策を展開することが課題となってきます。

離島の将来像として、国土庁の提唱する「アイランドテラピー」の推進による観光振興が理想像ではなかろうかと思います。国民の健康・ゆとり志向が高まる中で、各々の島の持つ魅力ある自然環境・人文環境を、そのまま資源として活用することは、環境負荷の少ない循環型社会が望まれる現代社会の風潮にも合致するものであります。

国民の福祉・健康増進の場としての離島の役割は、今後益々大きくなっていくものと思われます。先に日本最南端の島、沖ノ鳥島の保全事業について述べましたが、今後の小笠原諸島は、200海里水域のひとつの拠点としてだけではなく、その優れた海洋環境を活かした国民の癒しの場・リフレッシュの場としての一層の振興が望まれます。

 

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