Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第46号(2002.07.05発行)

第46号(2002.07.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生 新

◆「鬼おこぜ怒りまろびて砂まみれ」(中筋味左夫)。20年ほど昔、ちょうど今の季節に、別府で、数日の間、砂風呂の熱気を楽しみ、城下カレイとおこぜとふぐ(別府では通年でふぐを賞味する)を食べ比べるという贅沢をしたことがある。季節柄鍋ではなく、三様にそれぞれ異なるむっちりした白身の薄作り、中落や頭や身のパリパリほっくりとした唐揚、頭や中落の味噌汁の滋味などを堪能し、当時まだ条例がなく、ふぐの肝を食べるという得がたい経験もした。ふぐのテトロドトキシンも、おこぜの背びれの毒も有名で、城下カレイには毒がない。城下カレイの優雅とは対照的に、ふぐもおこぜも姿かたちはむしろグロテスクで、その外見にあの美味が潜むとは想像しがたい。酒席の会話で、人も然りとはよく言われる。

◆魚の毒は外敵から身を守る手段で、姿かたちも、海中生物の目にどう移るかは知らないが、少なくとも人間に対しては同じ効果を持つ。毒が身を守るのは捕食者に負のインセンティブを与えるからである。清水湧く海底に棲む城下カレイの清純は、人間にとっては大いなるプラスインセンティブ。

◆露木氏のオピニオンは、本誌でもすでに何度か取り上げたクオリティシッピングへのインセンティブ手法の最新の状況を伝え、ポリシーミックスの観点からの検討の必要性を説く。奈須名誉教授監修のバーガー氏のオピニオンは古海洋学という耳慣れない学問が、地球温暖化と海の漁業資源生産性のかかわりについて有益な情報を与えることを教える。岡野氏の投稿は、外観にとらわれない奔放な想像力を社会全体が保持しつづけることの重要性を説き、チャレンジャー号の解説記事では、日本との思わぬかかわりについて教えられる。諸氏に感謝しつつ、魚の外観と中身の違いはすでに想像の対象ではないが、人を含めた森羅万象に、せめて200分の1の想像力を保ちたいと考える。(了)

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