Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第44号(2002.06.05発行)

第44号(2002.06.05 発行)

海上モーダルシフトはなぜ進まないのか

元中野海運株式会社◆中野義明

積載能力の高い船舶による海上輸送は、当然、トラックなどの陸上輸送より低コストとなるはずが、それが実現できないでいる。海運業界全体のコストの削減も必要だが、前近代的な仕組みが残る港湾も海上輸送の合理化を妨げており、道路行政と港湾行政と物流行政が一体となって海上へのモーダルシフトに取り組むべきだ。

海上輸送競争力喪失の原因

長距離フェリー
長距離フェリーからの揚荷風景。(写真提供:株式会社商船三井)

ニューズレター第39号「内航海運と港湾の再生戦略を探る」での議論を元海運事業者の立場から展開させていただきたい。

国内物流に占めるトラック運送の割合を、エネルギー効率の良い船舶や貨車輸送に少しでも代替させようとするモーダルシフト政策が騒がれて早十数年が経過した。しかし、海へのモーダルシフトは進んでいない。理由としては数多くあると思うが、その中でも一番大きな問題はバブル崩壊により製造メーカー(最終的に運賃を支払う会社)が輸送運賃の値引き攻勢を一斉に行ったため、陸上輸送運賃が低下し、ドアーツードアーでの輸送コストの比較において、陸上輸送(区域トラック運賃)と海上輸送(一般フェリー・貨物フェリー・RO船※1)との運賃価格差がなくなってしまったことである。

しかし一方では、長距離を恒常的に運送する必要のある貨物に対しては、相変わらず海上輸送が優位性を持っている。要はかかるメリットをどのように活かせるかである。

モーダルシフトに必要な改善点

近代化された設計仕様の内航船とトラック(12m換算)を比べると、船の場合は約120倍~150倍もの積載能力を持っており、一般的には海上輸送の方が低コストとなるのが当然であるが、両端の近距離陸上輸送を含めたトータルコストでは、それほど陸上輸送との運賃格差はない。海上へのモーダルシフトを実現するためには、次のような問題に取り組む必要がある。

(1)新造時の船主の負担軽減

船価はバブル期より下がっており、加えて日本内航海運組合総連合会によるスクラップ&ビルド(S&B)※2の権利も、昭和60年代の総トン当たり30万円だったものが現在は総トン当たり15,000円(船種等の条件によって異なるが1万トン以上の船舶の場合)にも下降している。昔に比べれば新造時の負担は比較的減っているが、同時に船主の体力も落ちている。

したがって、さらに造船所にはコストダウンをしてもらう一方、長期間・低利の融資が受けられるような制度がモーダルシフト優遇策として必要である。

(2)港湾へのアクセス改善と集約化

港湾までのアクセス(陸上輸送距離)が長くなるほど海上運送に期待する度合いが少なくなるのは当然のことである。私の経験では港から50km圏内くらいまでの内陸集配業務がコスト的に理想と思う。

また、地方のフェリー拠点(港湾)は、現在フェリーが各社ごとに専用化されており、一見効率的なように見えるが、自社のフェリーが出航すれば岸壁は空になる。

したがって、地域道路網のあり方を海上運送の視点から見直し、時間距離としての50km圏に近づけるとともに、分散する拠点を各船社が相談して集約し共同で利用可能となれば、海上物流コストは飛躍的に合理化されるはずである。

(3)港湾利用の柔軟化

現在は(社)日本港運協会の取り決めで、6大港(東京・横浜・名古屋・神戸・大阪・北九州門司)の最も物流の動きの多い地域ほどいろいろな規制が厳しく、例えば平日においても16時30分以降は通常の料金の50%割増、日曜日・祭日等荷役の拒否または作業料金の割増を要求される。

船会社としては、時期によってはメーカー等のニーズに応えるために日祭日であっても船舶を運航したいのであるが、現実はこうした問題が解決しないため運航しても採算割れとなってしまい、そのニーズに応えられないでいる。

また、専用岸壁を持つフェリーと違って、RO船の場合は公共岸壁を使うことになるが、現在、積み込み作業は免許を持つ特定の港湾業者のみしか利用ができない。

したがって、公共岸壁の一部でも良いから港湾業務免許を持たないトラック業者などに開放し、RO船に24時間使用可能にすればロスタイムは極端に少なくなる。

海を活かした物流合理化を

トラック関係は物流2法 ※3に基づき、平成2年12月末に規制緩和が実施されて10余年が経過し、良くも悪くも変貌を遂げたが、この期間、内航海運業にあっては、上述の如く未だ港湾作業は特定の業者しか許されず、競争原理も働かない前近代的な仕組みが温存されたままである。

道路網整備費の頭打ち、排ガス公害などから陸上の輸送力がほぼ限界点に達しているのに比べれば、港湾、航路の整備さえ図れば海は無限の輸送能力を持っており、海上モーダルシフトへの期待は高まってくるはずである。

これに応えるためには、まず海運業界全体のコストの削減が不可欠である。しかしながら硬直的な各種制度があるかぎり、船会社独自での合理化といっても限りがある。国土交通省が誕生した今、海上に新しい国土軸を形成するくらいの気概で、道路行政と港湾行政と物流行政が一体となり、海という空間を活かす意気込みがなければ、海上モーダルシフトは何時までも絵空事に止まってしまうであろう。(了)

※1 RO船(ロールオン船)=セミトレーラー等を運送する船舶

※2 S&B=内航海運業の船腹量調整のため、新船を建造するにあたって一定の既存船をスクラップする ことの要件

※3物流2法=貨物自動車運送事業法、貨物運送取扱事業法

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