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オーシャンニューズレター

第39号(2002.03.20発行)

第39号(2002.03.20 発行)

北九州市の新たな港湾戦略

北九州市長◆末吉興一

産業構造の転換や経済の低迷などにより、停滞している臨海部をいかに活力ある地区にするかが、今後の都市再生の課題である。この解決に向け北九州市で取り組んでいる2つの戦略的プロジェクトを紹介する。

都市経営の中で高まる港湾の役割

北九州市は産業・港湾都市として発展してきたが、日本の産業構造の変化や生産機能の海外移転の影響を受け、臨海部では企業遊休地や開発されたままの未利用空間が増加してきている。しかしながら、一方で、これらの空間は、岸壁や道路、工業用水などの基盤施設が整い、内陸工業団地などと比べ利便性においてポテンシャルの高い地域といえる。

今後、公共投資が抑制され、新たな開発が難しくなっていく中、都市経営にとって、これらの空間をいかに有効に活用するかが、都市の発展を左右することになると考える。

特に、北九州市は、響灘、関門海峡、周防灘と三方を海に囲まれており、海に面した広大な臨海部を新たな産業の場として生まれ変わらせることが、本市の浮揚につながるものである。

北九州港の現状、港湾再生の取り組み

北九州港は、八幡製鉄所を中心とした四大工業地帯の発展を支える港として、また、大陸に近いという利点を生かした西日本の貿易拠点として発展してきた。特に、コンテナ輸送については、西日本で初めての田野浦コンテナターミナルや太刀浦コンテナターミナルなど先進的に港の整備に取り組んできた。近年は、日本経済の低迷や周辺港の整備等により、コンテナ取扱量が伸び悩んでおり、現状のままでは将来の発展が見込めない状況になってきた。

一方、臨海部には、古い工場が多く、企業の合理化などにより、工場を休止や廃止する企業が増加しており、遊休地の活用策が課題となってきた。これまでにも、市街地に近接した空間については、ウォーターフロントに面した住宅やスペースワールドなどのアミューズメント空間として活用してきたが、利用されていない空間がさらに増えてきている。また、新たな産業空間として整備してきた新門司地区や響灘地区の埋立地も企業立地が進んでいない。

このような状況を打開し、臨海部のポテンシャルを生かすためには、一層の企業誘致を行うだけでなく、戦略的な取り組みが必要である。このためには、北九州港の持つポテンシャルをもう一度見直し、世界的な経済情勢や物流の流れ、日本の社会・経済状況を見極め、様々な可能性を検討し、いち早く行動に移すことが重要であると考えてきた。

こうした観点から現在進めている2つのプロジェクトについて紹介したい。

戦略的な響灘環黄海圏ハブポート構想の取り組み

■ 響灘環黄海圏ハブポート構想イメージ図
響灘環黄海圏ハブポート構想イメージ図

近年の東アジアのコンテナ貨物量は、韓国、中国の増加が著しく、その中心は日本から西に移動している。響灘環黄海圏ハブポート構想は、この中国を中心とする環黄海圏のコンテナ貨物を小型コンテナ船で響灘に集め、大型の本船で北米や欧州に運ぶことをターゲットとした港を整備するものである。

港の整備を進めている響灘西地区は、廃棄物処分場として利用している地区で、水深も深く、大型コンテナ船に対応できる優れた港となる。また、背後には計画中も含め2,000haの広大な用地を持つ地区である。

これまでの日本の港湾は、背後の工場や消費地の貨物を効率的に運ぶことを中心に港づくりを計画してきたが、今回の構想は、港湾を一つの産業として捉え、増大する東アジアのコンテナ貨物に視点をあて、コンテナを積み替えるハブ港をつくることで、雇用を増やし、利益を出そうとするものであり、日本で初めての試みである。また、このようにハブポートとして東アジアにおける拠点性を高めることで、東アジアのロジスティックセンターなど港湾を活用した新たな産業を立地させることを目指している。産業としての港湾を展開するためには、この響灘が日本で一番最適な条件をそろえた場所であると考えている。

こうした戦略をもとに、現在、平成15年度の供用開始を目指し、整備を進めているところである。

臨海部の特性を生かした環境産業の展開

本市で進めているエコタウン事業を中心とする環境産業は、循環型社会の構築を目指して、基礎研究から技術開発、実証研究、事業化に至るまでの総合的な展開を図ってきている。

その中でも、リサイクル工場が連携して廃棄物を限りなく少なくするゼロエミッション化を目指して事業を進めている。

工場の立地場所の選定には、

(1)広大な用地確保が可能なこと。

(2)近隣に一般廃棄物及び産業廃棄物の処分場を有していること。

(3)市街地から離れた工業用地であること。

(4)広域からの輸送に対応可能な多様な輸送モードが展開できること

が条件となる。まさに臨海部での今後の有望な産業と言える。

現在のリサイクル事業は、港湾の利用がまだ多くないが、廃棄物を運ぶいわゆる静脈物流は「急がない貨物」という特徴を有しており、今後、循環型社会の形成という趣旨から、環境負荷の小さい輸送モードを積極的に活用することが必要であり、港湾への依存度が高まってくる。将来的には、リサイクル事業を発展させ、パソコン、家電、自動車などの中古品や中古部品のリユース事業やリビルド事業などにつなげ、今後の港湾地域の新たな産業として発展させたいと考えている。

■ 響灘地区臨海部の航空写真(平成14年1月19日現在)
響灘地区臨海部の航 空写真(平成14年1月19日現在)

北九州港の今後の展開

紹介した響灘ハブポート構想やエコタウン事業を中心とした環境産業は、すでに大きく前進し、今後の港湾地域の核となることを期待している。このほかにも都心に近いウォーターフロントの活用や市民への水際線の解放など、港湾地域は市の活性化にとって重要な役割を担っている。(了)

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