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オーシャンニューズレター

第39号(2002.03.20発行)

第39号(2002.03.20 発行)

内航海運の危機と構造転換

広島大学大学院工学研究科教授◆小瀬邦治

危機的状況にある内航海運が回復するためには、ワンマン運航導入など運航体制の改革、戻りの航海を空荷ではなく積荷する合理的なスワップ物流の導入、起点と終点の港における陸上輸送との合理的な接続など、内航海運業界の構造転換が重要と考える。

内航海運をとりまく危機的状況

内航海運は危機の最中にある。経済のボーダーレス化、グローバル化に伴い、厳しい競争が産業のあらゆる分野で展開し、内航海運のお得意先であった日本の素材産業は生き残りをかけて製造コストの削減に取り組んできたが、今日では企業の再編成、製造基地の再配置、物流合理化まで取り組んでいる。当然ながら用船料の削減も行い、内航船主はコストを無視した暴挙と反発している。しかし、過剰供給が一般化した今日ではどんな分野でもコストを積み上げて、適正利潤を足して価格を提案できる条件はなく、市場の決めるコストに対応できる企業が生き残る時代のはずであるが、内航海運は今に至るも抜本的な革新に取り組もうとしていないように見える。

1月に広島で、次世代内航海運のビジョンに関する公聴会が開かれ、荷主業界からは生き残りのため、物流コスト削減への協力要請があったが、内航業界からはほとんど見通しが述べられない状態で、行政等による救済が訴えられた。筆者も講評を求められ、構造転換が必要と申し上げた。

ある産業を取り巻く外的条件が変わると、その産業はその条件に沿うように転換を迫られる。この転換はその産業の中にある新しい条件に適合した部分とその他との競争を通じて、前者が伸び、次の主役となるという形で行われる。この時、その産業の中で新しい主役になり得る部分が準備されており、競争原理が十分に働くと転換はスムーズに行われ、その産業は速やかに新しい発展軌道に乗る。しかし、新しい部分の形成が未成熟で、競争が制限されると、産業全体として停滞し、それが長期化すると、国際競争の中でその国の産業全体が崩壊する事態も生じうる。今、内航海運はまさにこのような状況にある。

いかにして内航海運は生き残りを図るべきか

■ ワンマンブリッジのイメージ図
ワンマンブリッジのイメージ図

内航海運の革新が求められているが、当面はコストの引き下げである。これが如何に可能になるか。おそらく、3つの方向で可能性があると理解している。

1)ワンマン運航導入など、運航体制の見直し

船舶を調達、維持するとともに、訓練された船員を配乗し、すぐに運航できるようにするためのコストの削減が必要になる。日本経済が先進国的になるにつれて、交換可能な商品のコストは国際相場に近づくが労働コストは平準化されないから、このコストの構成は明確に変化し、現在では船員費が50%以上、船舶コストは30%程度になっている。通常はブリッジ内のワンマンで対応し、出入港時に3名の運航体制が可能になると、現状から2名程度の減になり、一人1年間で1100万円とすると、1~2億円程度の省力化投資が可能になる。しかし、内航業界ではとにかく当座を安くという視点から、安い船を造っているが、きちんと船の一生を考えた採算性の検討が必要になる。今日の運航技術はすでにワンマン運航を可能にするレベルに達しているが、内航海運側が必要としないから開発されていないだけである。

現在、急速に発展しつつある小規模のパケット通信技術と操船支援技術の結合は内航船の運航技術を抜本的に変える威力を持つから、省力運航のみならず、現在、内航業界で課題になっている船員養成の問題も、この運航技術との関連で解決の方向が見出せると理解される。

2)メーカー物流から、合理的なスワップ物流への転換

船の運航も早急に改善すべきである。内航海運は今もなおメーカー別のオペレータによって運航されている。このようなメーカー物流は工場から消費地に向かっては積荷があるが戻りは空荷航海となる。その効率の悪さから陸上では克服された輸送業の形態である。すでに荷主側でライバル企業同士が積荷を相互に提供しあうスワップを行うとかの工夫を始めているが、この観点の効率化で30%程度の改善が可能になろう。これを海運の側で実施し、その利益を確保することが求められる。このためにはメーカー物流の枠組み自体を変える試みが海運側に必要である。現在のような非効率なメーカー別物流会社なら荷主自体が維持する利益はないから、海運の深刻な危機は再編の好機である。

3)海と陸の、効率的な接続方式の導入

船舶による輸送は両端でトラックと接続しないと完了しない。輸送におけるコストとサービスの品質という意味で接続の問題は大切で、現在の素材輸送の場合でも、この改善が必要である。現在のクレーンによる荷役方式では雨天には荷役できないから、定時性の確保が困難になる。出入港頻度の高い内航船は船側に開口部をもち、荷役可能にするぐらいの革新が不可欠である。

また、港湾荷役のコストや時間的制約も深刻な問題である。素材輸送は先進国においては漸減するマーケットであり、一般物流、製品物流への拡張が必要になるが、現在の港湾荷役は技術的にも経済的にも相当に致命的である。船舶も港湾荷役も自分の都合ではなく、物流の都合に合わせるという発想の転換が不可欠である。

残された問題

さて、3つの分野における内航海運の復権のための努力の必要性を指摘した。これを実現する上で、幾つかの問題がありそうである。その一つは内航海運の自助努力である。構造改革は業の中の革新的な人たちの挑戦で実現するものである。もう一つは、行政による規制や保護である。例えば、内航船が目的港まで直線航路で航行できるように「限定近海」という航行区域が1995年に設定されてから、船舶の設備規定が見直され、昨年には構造と満載喫水線等に関わる規則が制定された。しかし、一番に効率化に寄与できるはずの船員に関する規定の見直しは一体いつ可能になるのであろうか。自由競争をベースにして、最小限の規制という方向が内航海運の復権には必要である。(了)

■限定近海水域図
限定近海水域図

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