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オーシャンニューズレター

第37号(2002.02.20発行)

第37号(2002.02.20 発行)

氷見(ひみ)から発信!! 人と環境にやさしい定置網漁法

氷見市長◆堂故(どうこ) 茂

越中式定置網発祥の地・氷見市は、定置網を核とした開発途上国への技術指導や海洋環境問題への対応策を提案し、国内外に人と環境にやさしい定置網漁法を発信している。この取り組みを通じ、地域の自信、地域の誇りを創出していく。

定置網を通した国際協力とまちづくり

大伴家持が多くの歌を詠んだ万葉の故地である氷見市は、富山湾に面した能登半島の付け根に位置し、遠く縄文の時代から豊かな海の恵みにあずかってきました。私たちの祖先は、四季折々に様々な表情を見せる海と触れ合い、時には対峙しながら、「越中式定置網」という地域の伝統文化ともいうべき高度な技術を育て、それによってもたらされた貴重な食料に支えられて生活してきたのです。現在も、富山県内最大の氷見漁港には、夏のマグロ、冬の寒ブリをはじめ、四季を通じて豊富な「キトキト」(方言で、「新鮮で活きが良い」の意)の魚が水揚げされ、氷見ブランドとして全国へと届けられています。

さて、過去を振り返ってみますと、私たち人類は、経済的な豊かさを求めるあまり、生命の源である海の環境を損ね、多くの水産資源を消失させてきたことも事実です。また、全国的に漁業者の減少と高齢化が進行しており、「漁業のまち」といわれている本市においても、同様の現象が現れております。

私はこのような状況の中で、本市の主要な産業である漁業を存続させ、さらに活性化させていくための新たな取り組みが必要ではないかと強く感じておりました。同時に、適切な水産資源の管理と持続的な利用を図り、優れた栄養特性を有する魚介類を安定的に供給するという重要な役割を持つ漁業全体の発展のため、海洋環境を守り、次代に引き継いでいくことは現代の私たちに課せられた極めて重大な責務であり、そのための行動を興す必要があると考えておりました。

定置網漁 定置網漁
氷見市沖の定置網漁。空から見ると、広げられた複雑な網の形がよく分かる。

国際交流・国際協力事業への発展

そうしたところ、NGOとして国際的な活動を展開している国際海洋法学会(IOI:InternationalOcean Institute)日本支部長である横浜市立大学の布施勉教授から、開発途上国への漁業技術支援の協力要請を受けました。そこで、本市が発祥の地であり、特定魚種のみを捕獲し、これによって生態系のバランスを崩す恐れのある他の漁業に比べて人と環境に優しく、持続可能な漁法としても注目されている「越中式定置網」漁法を核とした「開発途上国等への技術指導と普及を通じた国際協力」、「海洋環境問題への対応策の研究」、「地域の漁業の活性化」を主な目的とする「氷見定置網トレーニングプログラム」計画を策定し、平成12年度から事業を開始いたしました。

平成12年度は、富山県、水産業関係団体、国際交流団体の代表及び学識経験者等で組織した実行委員会のもとに、8月下旬には、IOIのネットワークを通じコスタリカ共和国と中国遼寧省から研修生を招聘して、定置網漁業の現場体験や漁法についての学習、日本文化の体験などの内容で「国際定置網実地研修事業」を実施しました。

さらには、漁業の健全で持続的な発展と貴重な食料である水産物の安全で安定した供給のため、海洋環境保全をテーマにしたシンポジウム「海でつながる世界と未来2000」の開催、トップレベルの研究者による深層水の利用についての「漁業研究講座」を実施し、多くの市民と市内外からの漁業関係者に参加していただきました。

コスタリカ共和国との共同プロジェクト

平成13年度は、漁業者の方々や市関係者のほか、将来の漁業の担い手として期待されている市内の県立高校の漁業科生徒も加わった「氷見定置網漁業交流団」をコスタリカ共和国へ派遣し、同国の水産行政関係者、研究者及び漁業者に約100分の1スケールの定置網を持参し、定置網漁法の紹介と技術指導を実施しました。

環境保護の先進国である同国の関係者やマスコミからは、「乱獲により深刻な影響を受けたわが国の漁業にとって、自然環境に優しい定置網こそがこの状況を救ってくれるものと期待される」、「こちらの風土に合わせて改良し、コスタリカ式定置網を完成させたい」などの声が寄せられ、今後もこのプロジェクトを通した交流を発展させ友好関係を深めることを誓い合いました。

また、研修途中から「模型網を用いた一年間の漁業実験」へと話が発展し、コスタリカ国立大学と漁業者が共同で、模型網を用いた定置網漁を行って各種データを集め、同国に適合する漁業かどうか適正な評価をすることになりました。今後も連絡を取り合い、現地から寄せられる技術的な問い合わせに対し指導を行うことになっております。

平成13年度、定置網新世紀フォーラムの開催

11月10、11日には、「氷見から世界へ発信!!定置網から考える環境と食料」をテーマにフォーラムを開催し、北は北海道、南は沖縄まで、全国から23都道府県の漁業関係者、研究者、行政関係者、そして、多くの市民の皆様に参加していただきました。「21世紀の水産業は~資源の持続的利用を目指して~」と題する基調講演では、水産物の持続的生産のために漁業者自身が自主的に水産資源の管理をすることが重要で、定置網漁法は有効な漁法であるということが提唱されました。

つづくパネルディスカッションでは、「海と魚とまちづくり~環境と食料を守る漁業とは~」をテーマに話し合われ、「一網打尽に取り尽くす漁法と違い、待ちの漁法で資源の持続的利用が可能」、「漁場が近く鮮度がよい魚介類を提供できる」、「漁業従事者は毎日家から通える」などが定置網の特徴・優位性としてあげられ、自然と共生する漁法、海洋資源に優しい漁法であり、21世紀の主要な漁法であることが確認されました。

平成14年度、世界定置網サミットin氷見の開催へ

平成14年度には、世界の定置網先進国や漁業資源の保全対策や漁民の生活向上に積極的に取り組んでいる開発途上国等の政府関係者等を招請し、国際協力機関や国内の行政機関の代表者等にも参加をいただき、定置網を活用した世界の海洋環境保全のためのグローバル・パートナーシップの構築を目指し、「新しい時代の定置網」を提案するための「世界定置網サミットin氷見(仮称)」を計画しております。

「定置網」にはただ水産物の生産のみにとどまらず、多面的な働きがあり、人と海とのかかわり方のすべてが凝縮されていることを強く感じております。そして、そこには先人の息づかいが聞こえる歴史があり、文化があり、現在、全人類の課題となっている環境問題や食料問題を解決する糸口が見えてくるものと考えております。私は、これらの事業を通じて、連綿として受け継がれてきた「定置網」を様々な角度から見つめ、その魅力を再認識し、新しい時代の定置網の姿を提案するとともに、国内外へ積極的に発信し、さらには、私たちの地域にとって本当に大切なものとして、地域の自信、地域の誇りを創出していきたいと考えております。(了)

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