Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第361号(2015.08.20発行)

第361号(2015.08.20 発行)

「Sacred Eco Journey 環境巡礼の旅」の番組制作を通じて

[KEYWORDS] 気候変化/気象被害/環境問題
東京MXテレビ記者◆竹田有里

地球温暖化が引き起こす異常気象は、すでに人々の日常生活に深刻な被害をもたらしている。今回、東京都や複数の企業からの協力により、「Sacred Eco Journey 環境巡礼の旅」という番組を立ち上げ、世界各地の被害について伝えることになった。
今回は、モルディブを取材した過程で見てきたことをお伝えする。


企画の背景にあるもの

私は、東京MXテレビに入局以来、気象庁担当として、台風や豪雨など災害報道を行ってきた。近年、これまで見られなかったような気象変化による災害、いわゆる「異常気象」という事態の頻発を目の当たりにしてきた。それらの報道に関わるなかで、その異常気象の根本的な原因を探り、伝えていくことが必要だと痛感した。しかも、気象というものは、東京や日本という単位で閉じているものでなく、地球全体で連動しており、世界各地で起きている深刻な気象被害の実態とその原因について伝えていく必要を感じていた。そんな折、表題の企画が始まることになり、世界各地へ取材してまわることになった。今回は、海がテーマの専門誌への寄稿ということで、モルディブで取材した内容について触れたい。

モルディブでの被害実態

■モルディブ気象庁に所属する気象学者のAzeema Ahmedさんと筆者(右)

透明な青い海に白い砂浜。海辺に浮かぶバンガロー。高級リゾートとして日本人に大人気のモルディブ。1,200の島々からなるこの国には35万人の国民が生活している。
今回、モルディブでの取材にあたり、Azeema Ahmedさんに協力していただいた。彼女はモルディブの気象庁である「Maldives Meteorological Service」に所属する気象学者であると同時に、お天気キャスターとしてテレビにもたびたび登場するチャーミングな女性である(モルディブのお天気キャスターはすべて気象庁職員である)。彼女とともに、モルディブの気象被害を象徴する場所として、ディフシ島という漁村に訪れた。この島は現在、異常気象がもたらす深刻な水不足に悩まされているのだ。
ディフシ島へは首都マレからスピードボートで30分である。外周5キロほどのこの小さな島は、海抜は0メートル、そこに200人ほどの島民が住んでいる。この島では1970年から海岸の浸食が始まり、ここ10年では50メートルほども浸食したそうだ。浜辺では砂が失われ、サンゴの死骸や椰子の木の根っこがあらわになっていた。
こうした海岸浸食の結果、地下水の塩分濃度が上がり、飲料水としては使えない。島の人々は飲み水として、雨季の間溜めた水を貯蔵して使用している。しかし最近は雨季でも晴れの日が多いため溜まらず、さらに、雨水の質も、インドなど近隣諸国の経済発展に伴う大気汚染で悪化している。ディフシ島では、現地の漁師さんに話を聞くことができた。
Abdulla Imadさんによると、気温や海水温が上昇したため、マグロの通り道が変わってしまい、漁場が以前よりも遠くになったそうだ。これまでは毎日帰宅することができたが、遠洋までマグロ漁に行かねばならなくなり、今は数カ月に一度、数日間しか家族と過ごすことができなくなったという。
これらの気象変化はモルディブ人がもたらしたものではない。モルディブの人たちの暮らしは今も昔も変わらず、国内の温室効果ガス排出量は世界全体のたった0.01%にすぎない。温暖化のせいで、今回取材したディフシ島含め、50~60の島が緊急事態に陥っている。「最近ではモンスーンの影響が大きく、雨季になると島ごとに天気が異なるので予報を発表しても電話での問い合わせが殺到する。海の民モルディブの人々にとって予報は命綱。人々の命を守りアドバイスや警告をするのが私の使命だ」とAzeemaさん。

■ディフシ島では浸食によって椰子の木の根があらわになっていた。

■雨季でも晴れの日が多いため、エアコン室外機の水も溜めて植物に使っている。

映像を通じて環境問題を自分のこととして感じてほしい

モルディブを訪れることで、一時的な災害というレベルを超えて、異常気象により生存そのものを脅かされている地域の実態を目のあたりにした。取材を進める中で、モルディブ以外にも、人々が生活の場所を奪われるようなレベルでの被害が世界各地で起きていることを知った。報道に携わる者として、今後それらの実態についても詳細な取材をし、映像の力を使って伝えていくと同時に、国家、あるいは個人が環境に対してどのように取り組んでいくことが必要か、自分のこととして考えてもらえるような番組づくりをしていきたい。(了)

第361号(2015.08.20発行)のその他の記事

ページトップ