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オーシャンニューズレター

第35号(2002.01.20発行)

第35号(2002.01.20 発行)

流氷を科学するまちづくり
~北海道・紋別市の流氷研究国際都市構想~

北海道紋別市長◆赤井邦男

流氷の南限であるオホーツク海沿岸。かつて、地元の人々は流氷を「招かれざる客」として見ていた。しかし、流氷は地球環境や生物の生産活動等に大きな影響を与えていることが解明されてきた。この流氷を新たな資金源としてとらえ、世界の氷海域研究のメッカとして、まちづくりのプロジェクト「流氷研究国際都市構想」の展開が図られている。

1. 流氷のまち「紋別」

紋別市は、わが国唯一の流氷が到来する北海道オホーツク海沿岸のほぼ中央に位置し、人口2万8千人の漁業と農業、その関連産業を基盤として発展してきたまちです。

これまで、地元の人々は豊かな恵みをもたらすオホーツク海も、流氷が来るとその生産活動は停止するため、「招かれざる客」としてとらえてきました。しかしながら、北海道大学低温科学研究所附属流氷研究施設(昭和40年紋別市に設置、以下「北大流氷研」)等の地道な研究により、流氷は地球環境や海洋生物の生産活動等に大きな影響を与えることが解明されてきています。

このことから、紋別市は「厄介者」だった流氷を新たな資源として研究・開発しこれを活用すべく、第3次紋別市総合計画(平成元~10年度)、第4次同計画(平成11~20年度)において、「流氷研究国際都市構想」を長期プロジェクトとして位置づけ展開を図っています。

2. 流氷研究国際都市の形成

会社案内
パンフレットは(株)オホーツク流氷科学研究所発行のもの。表紙には流氷の衛星写真が使われている

  この流氷研究国際都市構想の主要事業としては、

1)氷海海洋情報の集積・発信基地化の推進

  • オホーツク海定点観測推進事業
  • 広域氷海観測システム整備促進事業
  • 氷海海洋情報集積事業
  • 北方圏国際シンポジウム開催事業

2)オホーツク海の環境保全の推進

  • サハリン関連海洋汚染研究対策事業
  • オホーツク海環境保全観測施設設置事業

3)自然環境の保護・保全と生活環境保全運動の展開

4)広域交流の促進

を掲げ、取り組んでおります。特に(1)(2)については、氷海海洋科学技術の総合的な研究開発を行い、その成果を地域に普及するとともに、国際的な海洋科学技術交流のための一大拠点を形成しようとするプロジェクト「オホーツク・プログラム」として構想推進の中核をなしています。

3. オホーツク・プログラム

オホーツク・プログラムを推進するため、平成3年に第三セクター(株)オホーツク流氷科学研究所を設立し、平成8年には研究観測の洋上基地となる世界初の氷海展望塔「オホーツクタワー」を建設し、ここを研究の中核施設として「北大流氷研」「オホーツク流氷科学センター」「海洋交流館」などの陸上研究施設や海上実験の支援船でもある流氷砕氷船「ガリンコ号II」など研究・支援機能の連携を図り、総合的な研究システムの構築を図っています。

これまで、東京大学生産技術研究所海中工学センターによる自律型海中ロボットのオホーツク海展開試験、東海大学情報技術センターによるリモートセンシングによる流氷観測など広範な分野において研究開発が進められています。

本年1月~2月には、三井造船(株)と国立極地研究所等の共同研究による氷海下における海中ロボットの試験が行われます。

北方圏国際シンポジウム
北方圏国際シンポジウム「オホーツク海と流氷」は、今年、第17回目の開催を迎える

学術交流の場として、昭和61年から「北方圏国際シンポジウム」が毎年開催され、気候風土を同じくする北方圏の国々から海洋、気象、水産、氷海工学、環境、リモートセンシングなど多岐分野の研究者の参加があり、このシンポジウムを通して、国際共同調査・研究などの、研究のグローバル化が紋別から世界へと広がっています。

このシンポジウムは、ボランティアによる手作りのシンポジウムとして内外に広く知られ、市民公開講座をはじめさまざまな生活・文化の交流も行われ、市民レベルでの国際交流もますます盛んになっています。

今年度は、流氷研究に多大な貢献をされた北大流氷研青田昌秋教授の定年退官シンポジウムとして、平成14年2月24~28日まで開催いたします。

最近、オホーツク・プログラムの緊急課題として、サハリンの海底油田開発における原油流出事故に伴うオホーツク海の環境保全問題が深刻な問題となっています。昨年7月には、日本・ロシア及び関係機関の参加による大がかりな油流出事故を想定した防除訓練を実施いたしました。現在も環境保全研究や海洋汚染対策に向けて、国・道・沿岸市町村・関係機関とのネットワークを図り、「広域防災基地」化に向けて取り組んでいるところです。

4. 流氷はかけがえのない財産

この「流氷研究国際都市構想」は、まちづくりプロジェクトとしてだけではなく、世界的にも大きな役割りを果たすものととらえ、その実現に向けて着実に歩みつづけています。紋別は今後も、流氷を日本そして世界に誇れるかけがえのない財産として、流氷・氷海科学技術研究の一翼を担えるよう努力して参りたいと考えています。(了)

オホーツクタワー
紋別港湾内に建設された氷海展望塔「オホーツクタワー」。地上3階のタワー上部と、流氷の下に設けられた海中展望・観測室で構成される。世界初の氷海域における実海域観測施設であり、基礎研究や観測・調査に対応する。

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