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第359号( 2015.07.20 発行)
第359号(2015.07.20 発行)

海に想いを馳せるムーブメントを~海でつながるプロジェクト~

[KEYWORDS] 海の日/多様性/好奇心
日本財団常務理事◆海野光行

20回目の「海の日」を迎える今年、日本財団は海の多様な側面に光を当て、国民が海へ想いを馳せるムーブメントをつくるため、日本政府や海に関係するさまざまな企業・団体と連携し、「海でつながるプロジェクト」を推進している。変わり続ける世界の中でも、残さなければならないものもある。
多様な生物が共に生きることのできる海。その海からの恩恵に感謝し、さまざまな面で海と関わりながら、「私たち人間が海を守らなければならない」という考えを共有することは、世代を超えて引き継いでいかなければならない。


「海の日」20回を迎えて

■「海でつながるプロジェクト」
http://uminohi.jp

今年の7月20日は、20回目の海の日である。20年といえば、新生児が成人するまでと等しい。「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う」という趣旨のもと制定され、世界でも唯一の海に関する祝日と謳われてきた海の日だが、制定から20年を経て国民が海の恩恵に感謝する心を育むことができたかと考えてみると、少々心もとない。その背景には、海のもつ多様な顔とそれぞれの顔が持つ魅力に対して、十分なスポットが当てられてこなかったこと、また海と私たち人間との関係を見通す俯瞰的な視座が示されてこなかったことがあるのではないか。

海と人のつながりの多様性

この20年の間に、国民の海に対する意識に影響を与えたものがあったかと考えてみると、最も顕著なものは、2011年の東日本大震災に発生した津波だろう。海が東北沿岸のまちを飲み込んでいくさまは多くのニュースで放送され、それぞれの地域に残った大きな爪痕と共に、人々の心に海に対する畏れを刻みつけたように思う。確かに「ときに圧倒的な力で私たちを襲うもの」という側面は、海の持つ恐ろしい顔かもしれない。しかしそれはひとつの顔にすぎないとも言える。
南北に延びた日本には、北は流氷から南はサンゴ礁まで、景観や環境・生物も異なるさまざまな海がある。白砂青松の静かな渚があれば、多くの人がレジャーで訪れる海水浴場や、人間よりは海獣や海鳥が多く身を寄せる海岸もある。沖のほうへ目を向けると、漁船、貨物船、タンカー、旅客船が走り、見渡す限り水平線の世界になる。海の中へ視点を移せば、そこはもう人間の世界ではなく、多くの生き物が共生する場所で、深く潜れば光すら届かない未知の世界が広がっている。海には本当にさまざまな顔がある。あなたが思い浮かべるのはどんな海だろうか。海のさまざまな顔は、人と海とのつながりの多様さでもある。生業、レジャー、冒険や挑戦、あるいはインスピレーションを得るため、人は海に関与する。海への関与はそれぞれだが、海と関わる人の心の根源に共通して存在するのは、「海には何かあるかもしれない」という気持ち、海への好奇心ではないだろうか。好奇心は人を駆り立てる大きな力がある。宇宙飛行士や冒険家の例を出すまでもなく、貴重な時間を使って旅行に人を駆り立てるのは、遠いどこかに対する好奇心に他ならない。好奇心を抱くことは、当事者性の萌芽でもある。何かを、だれかを守りたいという気持ちも最初はただの好奇心から始まるように、海を守りたいという気持ちは、海に好奇心を抱き、「海が持っているどこか不思議な魅力」を探求した先で生まれてくるものかもしれない。そしてその好奇心とは、子供のころ、水平線を眺めたときや、海の中をのぞいたときに抱いた心の躍動と同じものなのかもしれない。

海でつながるムーブメント

7月2日のキックオフイベントには山谷海洋政策担当大臣・日本財団笹川会長らプロジェクトの推進者のほか、歌手・女優の川島海荷さん等応援する著名人も登壇した。

「海の日」が成人を迎える今年は、国際海事機関(IMO)の加盟国が毎年持ち回りで開催する「世界海の日パラレルイベント」を日本が開催する年でもある。日本財団はこの機会に、改めて海の多様な側面に光を当て、国民が海へ想いを馳せるムーブメントをつくるため、日本政府や海に関係する企業・団体と連携し、「海でつながるプロジェクト」を推進している。全国各地でのさまざまな取り組みを通じて、この夏、多くの人々の海に対する好奇心をあらためて喚起することを目指している。一例を挙げると、日本財団が舵社、海洋連盟と共に開催し、アートディレクターの佐藤可士和さんや気象予報士でもある石原良純さんを審査員に迎える「うみぽすグランプリ」がある。「うみぽす」とは海のポスターのことで、ポスター制作を容易にするアプリを開発・活用し、海に関するポスターを全国から募集する。子ども、大人を問わず7月末まで作品の応募を受け付けている。多くの人が主体的に地域の海の魅力を探し、ポスターという形で表現することを通じて、海の新たな側面・魅力への気づきを促進したい。
JF全漁連との連携で開催予定の「海を味わう・学ぶ with Pride Fish」も、日本財団が主体となる事業の一つである。料理評論家の服部幸應さんにもご協力いただき、食を通じて海に関する伝統や文化を学べるプログラムを多数実施する予定である。この企画のメインターゲットは親子だが、食という多くの人を惹きつけることができる切り口を使って、海に行かずとも海に想いを馳せることのできる機会を提供することを目指している。
その他に、全国の海岸一斉清掃を行い海のごみ問題への当事者意識を高める「海の日ごみゼロアクション」、大学生が海の新たな教育旅行プランの開発を行い旅行会社の協力のもと実際に商品化も行う「海洋観光大学瀬戸内キャンパス」等、多様な切り口の事業を計画している。7月から8月にかけて、全国の自治体や教育機関、NPO、企業等と連携し、56件の海に関するプロジェクトが実施される予定であり、子供たちや若者を中心としてのべ100万を超える参加者を見込んでいる(2015年6月30日現在)。プロジェクトはそれぞれの地域の特徴を活かして企画され、実に多種多様だ。紹介したほかに、地域の海のさまざまな側面にスポットを当てる学校での授業。海を最も間近に感じる海辺や海上でのスポーツ大会。海の新たな魅力を掘り起こし表現する芸術・文化活動などがある。詳細については、是非ウェブサイトをご覧いただきたい。
夏の海で楽しめるのは海水浴だけではない。「海でつながるプロジェクト」を通じて、海のさまざまな顔や魅力を改めて発掘、発信することで、子供たちや若者の好奇心を刺激し、海と次世代との新たなつながりを育むきっかけになればと思っている。そして、全国各地の人たちが、自分たちの地域の企画に限らず、お互いの取り組みに関心を持つことで、海を介してつながる全国的なムーブメントとすることを目指したい。

未来を担う世代が海と共に生きられるように

世界の変化はめまぐるしい。物心がつく前からITデバイスやメディアに慣れ親しみながら育っている現代の子供たちは、間違いなく私たちの世代とは異なる世界観を持つだろう。産業やライフスタイルの変化に伴い、海との関わり方も変わっていくかもしれない。しかし、変わり続ける世界の中でも、残さなければならないものもある。多様な生物が共に生きることのできる海。その海からの恩恵に感謝し、さまざまな面で海と関わりながら、「私たち人間が海を守らなければならない」という考えを共有することは、世代を超えて引き継いでいかなければならないものではないだろうか。
この夏、大人も一緒になって、海に対してワクワクする気持ちをもう一度思い出してみてはいかがだろう。その心の躍動こそが、海と私たちとの間の最も確かなつながりであり、海を次世代に引き継ぐための原動力なのかもしれない。(了)

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