Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第359号(2015.07.20発行)

第359号(2015.07.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(国立研究開発法人海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆鬱陶しい梅雨空が続く。太平洋ではエルニーニョ現象が発達中である。今回のエルニーニョ現象は強いものになり、この10数年にわたって地球温暖化を緩和してきた海が熱の放出源に変わるのではないかと危惧されている。加えてインド洋にはダイポールモード現象が発生する兆しもある。こうした自然変動と人間活動の関係は世界の気候会議でホットな話題となっている。
◆そうした中、この6月にドイツのエルマウ城でG7サミットが開催された。これに先立つ4月には、G7科学アカデミーが「海洋の未来:人間活動が海洋システムに及ぼす影響」について提言を取り纏めた。わが国も学術会議を中心に、原案作成に貢献したが、このような場で「海洋の未来」が取り上げられたのは画期的なことである。温室効果気体の排出による海の水温、水位の上昇や酸性化、海洋表層の成層化と循環の変化に加えて、洪水被害、流入化学物質・栄養塩、プラスチックによる汚染、乱獲、鉱物資源などの採取や沿岸構造物による海洋生態系の損傷など人間活動による影響は日増しに深刻化している。これに対処するには科学的調査・研究を基礎とした行動計画と影響の予測、管理、緩和のための国際協力が不可欠である。来年は日本でG7サミットが開催される。「海洋の未来」への取り組みを積極的に進め、国際舞台で発信していきたいものだ。
◆今号は「海の日」を記念して、三人の執筆者にご登場いただいた。海野光行氏には未来世代に豊かな海を引き継ぐために日本財団が行ってきた海と人をつなぐ様々なプロジェクトについて紹介していただいた。海を知り、味わい、楽しみ、守る多くの企画が各地の教育機関、NPO、企業などと連携して一層の広がりを見せることを期待している。海への好奇心こそが当事者性の萌芽であるという簡潔な表現に海洋国の未来が凝縮されている。
◆ヨットで単独世界一周クルージングを達成した目黒たみを氏には小型ヨットの魅力に加えて、長期航海に基づいた貴重な提言をいただいた。G7科学アカデミーの提言にもあるように海洋浮遊廃棄物の深刻な状況への対策の必要性である。ヨット愛好家の国際交流に障壁となっている古い船舶法も問題である。先日、中国の青島のヨットハーバーを訪問する機会があった。大小さまざまなヨットが係留され、セーリングが社会に定着している印象を受けた。マリンスポーツの興隆は海洋国家のバロメータである。東京オリンピックはそのよい契機になるのではないか。
◆目黒たみを氏は学生時代に手作りヨットで日本一周したことでも著名であるが、最後のオピニオンは和船の伝統技術を継承し、復元建造に尽力されているDouglas Brooks氏によるものである。四半世紀前に来日して以来、口伝と墨付けによる技術の伝承を蒐集、記録し、アマチュア造船家が伝統技術に触れる機会を増やす努力をされてきた。海の伝統文化をどのように未来世代に引き継いでいくかは「海洋の未来」に大切な要素である。和船の伝統技術の継承に向けた政策面での配慮も必要であろう。(山形)

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